第30話
翌朝。
部屋に差し込む朝日に目を覚ました。
隣を見てみると、白星さんはいなかった。
「白星さん……?」
目を擦りながら部屋を見渡すと、白星さんは窓の傍で誰かと電話をしていた。
「ええ、それで進めてください」
真剣な表情に、真剣なトーン。
それは初めて見る白星さんの仕事姿だった。
かっこいいし、絵になるな。
窓から差し込む朝日に照らされた浴衣姿の白星さんは凛とした大人の女性だった。
「では、私はこれで失礼します」
耳からスマホを話した白星さんと目が合った。
その顔に花が咲く。
「正彦君おはよ!」
「おはようございます。仕事の電話ですか?」
「そうそう!ちょっと急ない仕事でね~」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ!」
さっきとはまるで別人だ。
さっきの仕事モードの白星さんなら、今は完全オフモードの白星さんだった。
「その顔はあんまり寝れなかったみたいだね」
「……そうですね」
「どうかんがえても私のせいだよね。ごめんね。帰りの車で寝ていいからね」
「本当に無理そうだったらそうさせてもらいます」
「うん。無理はしないでね」
とりあえず、俺は起き上がて顔を洗うことにした。
「今日は砂丘に行くんでしたよね」
「うん! 砂丘に行って、プリンを買って帰るよ」
「了解です。もう出ますか?」
「そうだね。着替えよっか」
チェックアウト時間まで残り30分だった。
白星さんは俺がいるにも関わらず浴衣を脱ごうとしていた。
「えっと、白星さん……?」
「何?」
「俺がいるんですけど……」
「ん?」
だから何? といった感じで白星さんは小首を傾げる。
そして、浴衣を脱ぎ始めた。
「だ、だから俺がいるのに脱がないでください!」
「ああ、そういうこと」
そう呟くと白星さんは何かを企んでいるような笑みを俺に向けてきた。
「見たい?」
胸元をわざとはだけさせる。
あと少しずれれば、その下に隠れている下着が……。
てか、つけてるのか……?
浴衣を着るときに下着をつけない女性もいると聞く。
って、何考えてんだ俺!?
「な、直してください!?」
「目、覚めた?」
「覚めましたから、浴衣を直してください」
「は~い」
素直に浴衣を直した白星さん。
「じゃあ、俺は外に出てますね。着替え終わったら呼んでください」
俺はそう言うといったん部屋の外に出た。
マジ朝から心臓に悪い……。
それから白星さんを待つこと数十分。
「待たせ~」
暖かそうな赤いワンピースを着た白星さんが部屋から出てきた。
「じゃあ、次は俺が着替えてきますね」
「うん! 着替え終わったら呼んでね」
「了解です」
白星さんと入れ替わりに部屋に入った俺は急いで着替えを済ませた。
「それじゃ、行こうか!」
「行きましょう」
「楽しみだな~砂丘!」
「今日も運転お願いします」
「もちろん!」
荷物をまとめた俺たちはフロントで部屋の鍵を背の高いイケメンの、おそらくはこの旅館の若に鍵を返した。
「昨日は、ありがとうございました」
「あの後大丈夫でしたか?」
「この通り無事です」
「そうですか。それは、よかったです」
白星さんと若さんがそんなやりとりをした。
その話を聞いた俺は、昨日俺を温泉から部屋まで運んでくれたのがこの人なんだと思った。
「あの、もしかして昨日俺を助けてくれたの・・・・・・」
「そう! この方だよ!」
「そうだったんですね。ありがとうございました」
「いえいえ。大事がなくてよかったです」
若さんは人の良さそうな笑顔を俺たちに向ける。
それでけでこの人の人柄が分かるような気がした。
「ところで今日はどちらに?」
「今日は砂丘に行く予定なんです」
「いいですね。数日前に雪が降ったばかりなので、この時期にしか見れない雪化粧の砂丘が見れるはずですよ」
「それは楽しみです」
俺たちは若さんにペコっと頭を下げると旅館を出た。
若さんは俺たちが見えなくなるまで旅館の前で見送りをしてくれていた。
☆☆☆
温泉編終了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます