第29話

「ギリギリセーフ!」

「ですね。残り5分。ドロップしてよかったですね」

「ありがとう!やっぱり、2人でやると効率が違うね」


 急いで部屋に戻ってレイドボスを周回すること50分。

 ようやく今1個目のレア武器がドロップしたところだった。


「それとも正彦君と一緒にやってるからかな?」

「なんだかんだ結構一緒にやってますもんね。だんどんと息が合ってきているような気がします」

「だよね!やっぱり私たち相性いいんだよ!」

「かもしれませんね」


 人間関係に相性があるようにゲームの中での立ち回りにも相性がある。

 鋼たちと一緒にやる時の俺の役職は主にタンカーだが、白星さんと一緒にやる時のは回復兼支援役をやっている。

 白星さんが完全にアタッカーなので、白星さんが敵に突っ込んで行くのを後ろから支援したり回復したりする役回りだ。

 

「支援のタイミングも回復のタイミングも正彦君ドンピシャなんだもん。あんなに完璧なの正彦君くらいだよ!」

「褒めすぎですって」

「ほんとほんと!他の人と一緒にプレイすることもあったけど、正彦君がやっぱり一番かな!」

「そんなに褒めても何も出ませんからね?」


 このゲーム『スターライト』の生みの親である白星さんに褒められると照れるし、もちろん嬉しい。

 白星さんが自分の気持ちに素直だと知っているから尚のことだ。


「いいよ〜。一緒に寝てくれるだけで今日は大満足だから!」

 

 そう言われて俺は白星さんと一緒に寝るのだと再確認させられた。

 本当にこれから一緒に寝るんだな……。

 同じ布団で……。

 そのことを思うと緊張してきた。

 そんな俺のことを見抜いたように白星さんは「緊張してる?」と聞いてきた。


「……してますね」

「ただ一緒のお布団で寝るだけだよ。普通のことじゃん!」

「その言い方だとまるで毎日男の人と一緒に寝てるように聞こえるんですが!?」

「何言ってんの? 正彦君が初めてだよ?」


 小首をかしげてサラッと爆弾発言。

 その爆弾は俺の心臓に装着される。

 その爆弾に呼応するように俺の心臓は早くなっていく。

 

「だから、まぁ実を言うと私も緊張してるんだよね。さっきはああ言ったけどね」


 そう言った白星さんは本当に緊張しているのかほんのりと頬を赤く染めていた。

 そこからしばらく沈黙が部屋に流れた。

 お互いがお互いの緊張が伝わっているせいか、どっちも相手の顔をまともに見れなくなっていた。

 そんな空気に初めに耐え切れなくなったのは白星さんだった。


「あ~ダメ! こんな空気耐え切れない! 空気変えるためにゲームしよ! 私持ってきてるから」


 そう言って立ち上がると白星さんはキャリーバックの中からswitchを取り出すと部屋に備え付けられているテレビにケーブルをつないだ。


「ほら、やるよ正彦君! 3月には大会があるんだから練習して強くならないと!」

「そ、そうですね……」


 ゲームを始めたラ、空気は一変した。

 さっきまでぎこちない雰囲気だった俺たちはゲームを始めた途端に楽し雰囲気に変わった。

 俺たちは子供のようにはじゃぎゲームに夢中になった。

 そして、気が付けば深夜を迎えようとしていた。


「はぁ~。さすがにそろそろ眠たくなってきた」

「ですね。俺も眠くなってきました」

「明日も早いし寝よっか」

「そうですね」


 先に白星さんが布団に入り、俺のことを手招きした。

 俺は「ふぅ」と小さく息を吐いて、覚悟を決めると白星さんの隣に寝転がった。

 

「近いね」

「……そうですね」


 

 その距離は少しでも動けば白星さんの体に触れそうなほど近い。 

 さすがに白星さんと顔を見合わすことはでいないので、俺は天井を見つめていた。


「そ、その極力動かないように寝るようにしますけど、触れたらごめんなさい」

「それくらいはもちろん許すよ。私から誘ってるわけだし。まぁ、正彦君にだったら触れられても文句は言わないけどね」

「……だから、そういうことをサラッと言わないでください。白星さんも緊張してるんですよね」

「ん~。さっきのゲームでもうなんかどっか行っちゃった」


 そう言って俺の頬をぷにっと突いた。

 

「正彦君に助けられてからもう3週間か~。早いな~」


 あの日の俺はまさかこんなことになっているなんて想像もできないだろう。

 今、超絶美人な女性と一緒のお布団で寝ているなんて想像できるわけがない。

 白星さんと出会って3週間。

 毎週、白星さんと会ってるし、毎日のように電話しながらゲームをしている。

 でも、俺たちはまだ恋人ではない。

 俺は白星さんのことが好き、なんだと思う。

 そのことに気が付いたのは、先週のゲーム大会の時だ。

 あの時、一緒に泣いてくれた白星さんに俺は……。


「こうやって一緒に旅行してるのなんか不思議な感じ」

「それは俺のセリフですよ」

「まぁでも私たちはこうなる運命だったんだよ。あの日に出会った時から決まってたんだよ」

「……」

「正彦君は私が運命の相手は嫌?」


 その聞き方と声のトーンはズルいな。

 

「……嫌なわけないじゃないですか」

「嬉しっ!」


 白星さんは俺の腕にぎゅぅ~と抱き着いてきた。


「し、白星さん!?」

「本当は腕枕してもらいたいけど、今日はこれで我慢してあげる!おやすみ!」

「ちょ……」

「す~す~」

 

 マジか。

 寝るの早すぎだろ。

 白星さんは数分もしないうちに眠ってしまった。

 この状況で寝れるかー!?

 俺は睡魔に負けるまで寝ることができなかった。


☆☆☆

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