第28話

『竹』の部屋に入ると蟹の美味しそうな匂いがすでに漂っていた。

 俺たちは向かい合わせで椅子に座った。

 テーブルの上には豪勢な料理が並んでいた。 

 その中にはもちろん蟹もあった。


「こんなの絶対に美味しいじゃん!」

「本当にこんな豪華な料理食べてもいいんですか?」

「もちろん!遠慮せずに食べて!」

「なんだか申し訳ないですね」

「いいのよ。これはお詫びなんだから」

「お詫びって、あれはどっちが悪いとかないと思うんですけど……」


 今回のこの旅行は先週『スターライト』で行われたゲーム大会の詫び旅行的な意味合いを持っていた。

 

「それでも負けたのは私のせいなんだから、これくらいさせて。それに正彦君に涙流させちゃったし」

「ほんとそこまで気にしないでください。確かに負けたのは悔しかったですけど、別に白星さんが悪いわけじゃないので」


 ここまで至れり尽くせりだと、むしろこっちが申し訳なくなる。

 ここの旅館代も白星さんが払ってくれたし、さっきの商店街で買ったタピオカもいちご大福も白星さんが買ってくれた。

 今回の旅行費はすべて白星さんが出してくれている。

 もちろん自分の分は自分で払うつもりでお金(毎年貯金していたお年玉)を持ってきていたのだが、白星さんは俺に一銭も払わして払わしてはくれなかった。


「あの、やっぱり宿代の分のお金、後で返しますね」

「いいって、私に返すくらいだったらそのお金は正彦君のために使って」

「でも……」

「はい。この話はもう終わり。せっかくの美味しそうな料理が冷めちゃうから早く食べよ!」


 そこで話は終わりと白星さんはいただきますをして料理を食べ始めた。

 そう言われて俺もそれ以上何も言えなかった。

 俺もいただきますをして、鯛の刺身を口に運んだ。


「ん〜美味しい〜!この鯛の刺身めっちゃ美味い!」

「ほんと美味しいですね」

「この蟹も身がしっかりと引き締まってて最高だよ!」


 しばらく美味しい料理を堪能しながら、談笑していると、部屋の扉がノックさせた。


「失礼いたします。デザートをお持ちしました」


 タイミング完璧。 

 仲居さんがデザートを運んできたのは、ちょうど俺たちのお皿が空になるタイミングだった。

 2人のテーブルにデザートのシフォンケーキを置くと、「ごゆっくりどうぞ」と仲居さんは部屋を後にした。


「うわ〜。美味しいなシフォンケーキだ!」

「そういえば、白星さんはケーキ好きでしたね」

「大好き!覚えててくれたんだ!」

「まぁ、はい。ですね」


 ここ数日そのことについて月森さんと話をしていたから当然だ。

 と、その時、テーブルの上に置いていた俺と白星さんのスマホに通知が入った。

 白星さんがスマホを手に取って「あっ!もうこんな時間!」と言った。


「レイド始まっちゃったよ!早く部屋に戻ってやらないと!」

「え、もうそんな時間ですか。それは急ぎで戻りましょう」

「今回のレイドボスから落ちる武器は超強いから絶対にゲットしないとだよ!」

「白星さんがそういうなら間違いないですね」

「特に私は得意武器だから絶対にゲットしたい!」

「ドロップするまで手伝いますよ」

「ありがとう!」


 俺たちはシフォンケーキを急いで食べると急足で部屋へと戻った。

 それから俺たちはレイド時間ギリギリまでボスを狩り続けた。


☆☆☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る