第27話
「ふぅ〜。さっきのはヤバかった・・・・・・」
あの後は特に何事もなくお互いに別々で温泉に向かった。
体と頭を洗い終わった俺は温泉に浸かりながら、高鳴っている心を沈めようとしていた。
今のところ温泉には誰もいない。
いわゆる貸切状態だ。
「この後、大丈夫だろうか」
初めての温泉の気持ちいいなとか、ガラス張りの向こうに見える景色が綺麗だなとか、そんなことを思う余裕もないほど、俺の頭の中は不安でいっぱいだった。
これからまだ何時間も一緒に白星さんといる。
一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、一緒に砂丘に行って、一緒に車に乗って帰る。
「俺、理性保てるだろうか……」
あれ?
なんだか、頭がクラクラ……する。
☆☆☆
「まさ……君。正彦君……」
白星さんの声が聞こえる。
ゆっくりと目を開けた。
目に映ったのは俺の顔を覗き込んでいる心配そうな顔の白星さんだった。
「あれ、ここは……?」
「お部屋。正彦君大丈夫?」
「俺……温泉にいたはず……」
温泉に浸かっていて、それから……。
「頭がクラクラして……」
「のぼせてたのよ」
「えっ……」
「初めての温泉で浮かれちゃった?」
白星さんは「バカね」と苦笑いを俺に向けた。
そうか、俺はのぼせてたのか。
「ほんと心配したんだからね。先に上がって正彦君が出てくるの待ってたのに、いつまで経っても出てこないから従業員さんに様子を見に行ってもらったら、正彦君、温泉の中でぐったりとしてたって。それで、部屋まで運んでもらったのよ」
「そうだったんですね……迷惑かけてすみません」
「まぁ、とにかく無事でよかったわ!」
白星さんは安心した表情で微笑んだ。
今気が付いたが、白星さんは浴衣姿だった。
まだ少し湿った純白の髪の毛が妙に色っぽい。
てか、俺、今……。
「ところで、正彦君。私の膝枕はどう?」
「あ、やっぱりこのアングルはそうでしたか」
「え~。何その冷静な反応!つまんないんだけど!」
不満そうにぷくぅと頬を膨らませる白星さん。
「ちなみにどんな反応を望んてたんですか?」
「もっとおどおどする正彦君が見たかったのに~!」
「な、何やってるんですか白星さん!? こんな感じですか?」
「今更遅いから!」
俺がからかうと白星さんはさらに頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
「ごめんなさい。少しからかいました。ちなみに白星さんの膝枕は最高ですよ」
「んん! い、いきなりそれはずるいから!」
少しからかいすぎたかなと思いつつ、さすがにこれ以上この状態だと理性を保てそうにないので、俺はとりあえず起き上がろうとした。
しかし、それは白星さんに阻まれてしまった。
白星さんは起き上がろうとした俺の顔を両手で挟んだ。
「私がからかわれっぱなしで許すと思ってるの?」
「そ、それは……」
「私をからかった代償を大きいからね!」
「俺は何をさせられるんでしょうか?」
その笑み、怖いんですけど……。
白星さんは笑顔で俺のことを見下ろしていた。
「そうだな~。何してもらうかな~」
自分のあごに人差し指をあてしばらく考えた白星さんが言ったのは「今日は一緒の布団で寝ること」だった。
「マジですか……?」
「安心して、ただの添い寝だから。そういうことは私と恋人になってからなんでしょ?」
添い寝でも十分にヤバいんですが!?
てか、そろそろ俺の心臓は爆発しそうなんですが!?
さっきからすべすべの手が俺の頬に触れてるし、白星さんの体全体からいい匂いがするし、視界の先には少しはだけた浴衣から胸元がチラッと見えてるし、とにかくいろいろとヤバい。
「だから、今日の夜は……」
コンコン。
「夕食の準備が整いましたので、竹のお部屋へお越しください」
どうやら夕食の時間になったようで、女性の従業員さんが呼びに来てくれたみたいだった。
「は~い。今行きます~」
助かった。
これで、とりあえず解放される。
「だって、ごはん食べに行こっか」
「そ、そうですね」
白星さんは最後に俺の頬をぷにぷにと突くと、ようやく解放してくれた。
体を起こして夕食に向かうために浴衣を直した。
あれ?
そういえば、俺の浴衣は誰が……。
「何してるの? 早く行くよ」
そのことが気になったが手招きをしてる白星さんの元に向かうと一緒に部屋を出て『竹』の部屋に向かった。
☆☆☆
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