第22話

 1回戦は言うまでもなく圧勝だった。 


「いえ~い!1回戦突破~!」

 

 白星さんとハイタッチを交わす。

 

「この調子で2回戦も勝とう!」

「もちろんです」

 

 そして、もう1組の試合が始まった。

 龍一先輩たちの試合だ。

 どうやら月城さんのゲームの腕は落ちていないらしかった。

 それどころか、去年よりも上手くなっているように感じられた。

 やっぱり勝率は5割といったところか。

 

「美弥妃ちゃん凄いね!」


 月城さんのプレイを見て白星さんは感動の声を上げていた。

 

「勝てそう?」

「どうでしょうか。頑張ってはみますけど、あんまり期待はしないでください」

「大丈夫大丈夫!気楽にいこ!」


 もちろん負けるつもりはないし、全力を出すつもりだ。

 

「きっと私たちなら勝てるよ!」


 そう言って笑った真白さんの笑顔を見ると不思議と力が湧いてきた。

 そうこうしているうちにも龍一先輩たちの試合は進んでいき、あっという間に勝利した。


「これで次の相手は龍一君たちに決まりね」


 試合を終えた龍一先輩たちが俺たちのもとへとやってきた。


「川崎」

「はい!」

 

 月城先輩に名前を呼ばれいつもの癖で返事をしてしまった。

 綺麗な真っ赤な瞳が俺のことを真っ直ぐに捉える。


「久しぶりね」

「お久しぶりです」

「川崎には勝ち逃げをされたままだったから、ちょうどいい機会だわ。今日は勝たせてもらうから。もちろん真剣勝負よ」

「分かってますって。月城先輩は手を抜かれることが何よりも嫌いですもんね」

「分かってるじゃない」


 ボランティア部の先輩と後輩といってもゲームとなれば話は別だ。

 俺と月城先輩は笑みを浮かべながらバチバチに火花を飛ばしあう。

 

「いかにもライバルって感じでいいね~。美弥妃ちゃん!」

「ライバル。そうですね。川崎は私の一番のライバルですね。ゲームでは」


 ゲームだけだとしてもあの月城先輩にライバルと思ってもらえてるなんて光栄だ。 

 その名誉に恥じないような試合をしないとな。


「そういえば、気になっていたのですが澪先輩と川崎はどういう関係で?」

「あー!それは……」

「ゲーム友達かな!」


 え……?

 今、何て言った?

 聞き間違いか?

 今までの白星さんなら「私の彼氏!」という流れのはずなんだけど……「ゲーム友達」って言わなかったか?

 いつもと違う発言に俺は戸惑う。

 そんな俺と白星さんの顔を交互に見てから月城先輩は「そうなんですね」と呟いた。


「これからも川崎と仲良くしてあげてください」

「もちろんそのつもり!」

「その言葉が聞けてよかったです。これで心置きなく二人を叩き潰せます」


 その穏やかな表情とは裏腹に恐ろしいことを言ってきた月城先輩。

 それのせいで戸惑いはどかに消えて行ってしまった。

 いつになく真剣な月城先輩。

 これは、俺も気合を入れなおさないとだな。


「こわ!美弥妃ちゃん怖すぎだよ!」

「勝ち逃げされたままでは私のプライドが許さないので」

「ねぇ、正彦君!美弥妃ちゃんってこんな子だったの!?」

「ゲームが関わると豹変しますね」

「だよね!普段はもっと穏やかな子だよね!」


 そのイメージしか頭になかったらしく白星さんは今の月城先輩のことを見て心底驚いている様子だった。

 まぁ、普段のイメージからはこんな姿想像できないよな。

 普段の月城先輩なら絶対に「叩き潰す」なんて言葉は言わない。

 月城美弥妃はお淑やかで穏やかな大和撫子みたいな存在として有名な生徒だった。

 まさかゲームが関わると負けず嫌いで口が悪くなるなんて誰も思わないよな。

 

「ではでは~!これより第2回戦を始めたいと思います!1回戦勝ち進んだ両ペアは前に!」

「澪先輩。川崎。勝負を楽しみましょう」


 月城先輩はニヤッと笑ってそう言い残すと自分たちの席に座った。

 

「正彦君。負けないからね」


 俺たち3人で話ているのを少し後ろの方で見守っていた龍一先輩も俺にそう言うと月城先輩の隣の席に座った。


「俺たちも行きましょうか」

「ちょ、ちょっと待って、1回深呼吸するから」


 月城先輩の素を知って動揺したのを落ち着かせるためになのか、白星さんは大きく深呼吸をした。


「よし!行こう!」


 俺も小さく深呼吸をして気合を入れなおすと、白星さんの後に続いて席に座った。

 

☆☆☆


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