第20話
お昼過ぎになると徐々にお客さんが増えてきた。
そのほとんどが常連のお客さんらしく、お店にやってくる人、皆が月森さんにお祝いの言葉を送っていた。
「本当に葵は愛されてるな〜」
「ですね。凄いですね」
こんなにたくさんの人に愛されるのは月森さんの人柄がいいからだろうな。
「さて、戦前の腹ごしらえをしますかな!正彦君は何食べる?」
まるでこれから戦にでも行く武将のように言った白星さんは俺にメニューを渡してくれた。
お客さんが増えてきたので、月森さんと話すのが難しくなったのか、白星さんは席に戻ってきていた。
龍一先輩と月城先輩も少し離れたテーブル席に座っている。
「ちなみに私のオススメはね〜!オムライスだよ!葵の作るオムライスふわっふわでめっちゃ美味しいよ!」
聞いてもないのにオススメを教えてくれた白星さん。
初めて訪れるお店では何を食べればいいのか迷ってしまうから、正直助かる。
「じゃあ、それにします」
「私は何にしようかな〜。決戦前だし願掛け的なものがいいよね!勝つ丼にしよっと!」
「カツ丼なんてものもあるんですね」
「あるよ~!カツ丼にカツカレーにとんかつ!ここでよくゲームの大会が行われるからね。願掛け的な意味合いで、試合前に注文する人多いんだよ!ちなみに『かつ』の文字は漢字の『勝つ』だよ!」
そう言われて渡されたメニューを見ると、本当に漢字の『勝つ』の字が書いてあった。
「ま、でも願掛けなんかしなくても正彦君がいれば勝てるか!」
「それはどうでしょう。龍一先輩たちがいるので、分からないですね」
「龍一君ゲーム上手なの?」
「あの人はなんでもトップレベルですよ。龍一先輩と1対1なら八割方勝てるとは思いますけど、月城先輩がいますからね。勝てるかどうかは五分五分ってとこですね」
「美弥妃ちゃんそんなに上手なんだ」
「月城先輩はめっちゃ上手ですね。勝率五割ってとこですね」
「マジか~。正彦君でそれって、めっちゃヤバくない?じゃあ、願掛けしといたほうがいいじゃん!」
白星さんは女性の店員さんに2人分の注文をした。
「ところで、参加ペアって何組いるんですか?」
「私たちを含めて五組かな」
「勝ち上がり戦ですよね?」
「そうだね。ちなみにシードは葵たちのペア。残りの四組はくじ引きをして、対戦相手を決めるって感じかな」
「なるほど。てことは、いきなり龍一先輩たちと戦うこともあるってことですね」
他の出場選手の実力がどれほどのものかは分からないが楽しい大会になることは間違いなしだろう。
「いい顔してしてるね~。絶対に優勝しようね!」
「もちろんですよ。優勝以外は興味ありませんから」
「正彦君ってさ、ゲームのことに関しては素直だよね」
「え、そうですか?」
「自分では気づいてないかもしれないけどね~」
確かにゲームに関しては俺は思ったことをスッと口から出すことができているような気がする。
「ま、それは本当に心の底から正彦君がゲームのことを好きだからなんだけどね」
「心の底からゲームが好き……確かにそうかもしれませんね」
「あ~あ。私のこともゲームの次でいいから好きになってくれないかな~」
「……ぜ、善処します」
「え?今、なんて言った?」
聞き間違えではないかと白星さんは目を見開いて俺のことを見る。
そしてもう一度「今、なんて言った?」と聞いてきた。
「私の聞き間違いじゃなかったら、私を好きになってくれるって言ったよね?」
「そ、そう、ですね……」
「マジ!?」
テーブルをバンっと手をついて体を乗り出してきた白星さんの大きな声はカフェの中に響き渡った。
カフェの中にいた人たちが俺たちのことを見ていた。
「し、白星さん声大きいですから……みんな見てますから」
「そんなことどうでもいいよ!それよりも正彦君が善処するって言ってくれたことの方が大事だよ!」
「と、とりあえず落ち着ていください……」
「これが落ち着いていられると思う!無理だって!」
それから俺たちのテーブルに料理が運ばれてきたが、もはや料理どころではなかった。
白星さんは俺の隣の席に移動してきて、俺の腕に抱き着いては何度もオムライスを食べさせようとしてきた。
☆☆☆
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