第19話


「落ち着いた?」

「……はい」

「よし、じゃあ自分の気持ちを言ってみよっか!」

「そ、それは……」

「もう少し待ってあげなさいよ。さっき澪が言ったでしょ。自分の気持ちに素直になるのは簡単なことじゃないって」


 俺たちの様子を見ていたのか、俺が言葉に詰まっていると月森さんが助け舟を出してくれた。


「だって~。早く正彦君の口から好きって言葉聞きたいじゃん!」

「まったく、昔の澪だって自分の気持ちに素直じゃなかったでしょ」

「葵ちゃん!?それは言わない約束でしょ!」


 白星さんが自分の気持ちに素直じゃなかった?

 こんなにも自分勝手で、わがままで、自分の気持ち第一の人が?

 今の白星さんからは全く想像ができなかった。


「白星さん、本当なんですか?」

「聞かないで!黒歴史なんだから!」


 珍しく白星さんが恥ずかしがっている。

 頬を紅潮させ、俺から顔を逸らした。

 その態度が事実だということを物語っていた。

 

「私に恥ずかしい思いをさせたんだから、正彦君も恥ずかしい思いをしてくれないと許さないから!」

「それ、向ける矛先違くないですか?」

「あってるもん!」

 

 そう言って白星さんは俺のことを強く抱きしめる。

 

「し、白星さん!?当たってますから!?」

「当ててるの!正彦君に恥ずかしがってもらいたくて当ててるの!」


 いや、その行動は恥ずかしくないのかよ!?

 柔らかで豊満なそれを俺に押し付けるのは恥ずかしくなのかよ!?

 カランコロン。

 俺たちがそんなことをやっていると次のお客がお店に入ってきた。

 よく知った顔だった。

 

「あ!龍一君に美弥妃みやびちゃん~!おは~」

「えっ!?龍一先輩と月城先輩!?」


 お店の中に入ってきた人物を見て俺は目を見開いた。


「おはようございます。白星先輩」

「おはようございます。澪先輩」

 

 なんとお店に入ってきたのは龍一先輩と月城先輩だった。

 お店の入口に立っている2人に俺は目を奪われていた。

 やっぱり2人が並ぶと絶景だな。

 絶世のイケメンと絶世の美女。

 在学中も2人はそう呼ばれていた。

 白星さんに挨拶をした龍一先輩は俺のことを見るとニコッと笑った。

 

「先週ぶりだね。正彦君」

「ど、どうして龍一先輩が!?」

「このお店は美弥妃の行きつけでね。今日が2周年ってことでお祝いに来たんだよ」


 そういえば、月城先輩はゲーム好きだったな。

 よく一緒にゲームしてもらったっけ。

 

「それに、ここは月城財閥が支援しているお店だからね」

「そうなんですね」

「ところで、2人は随分と仲良くなったみたいだね」


 龍一先輩は俺たちのことを見てニヤッと笑った。

 そうだった!?

 今、俺は白星さんに抱き着かれてるんだった。

 龍一先輩がお店にやってきたことでそっちに気を取られてしまっていたが、こっちも何とかしないと……。


「本当に付き合い始めたのかな?」

「ち、違いますから……今はまだ」

「今は、ね」

 

 何かを察したように龍一先輩は頷くと俺たちの前の席に座った。

 月城先輩は月森さんと話をするらしくカウンター席に座っていた。


「白星さん、そろそろ離れてほしいんですけど……」

「本当はもう少し抱き着いていたいところだけど、龍一君たちも来たし、仕方ないな~」


 そう言って、俺から離れた白星さんは月城先輩の隣の席に向かった。


「はぁ~。助かりました。龍一先輩」

「白星先輩は相変わらずだね~」

「高校の時からあんな感じだったんですか?」

「出会った時は、むしろ正反対と言ってもいい性格だったよ」

「それが信じられないんですよね」

「あはは、そうだろうね」


 龍一先輩は目を細めて笑った。

 

「ちなみに白星先輩の過去について正彦君はどこまで知ってるんだい?」

「白星先輩が昔は違う性格だったということくらいしか・・・・・・」

「そっか。なら、僕から何も言えないね」

「ですよね・・・・・・」


 もしかしたら、と少しだけ期待したが、そうだよな。

 龍一先輩は他人の過去をペラペラと喋るような人じゃないよな。


「誰にだって話したくないことの1つや2つはあるからね。正彦君もそうだろ?」

「・・・・・・ですね」


 誰にだって言いたくない過去はある。

 それは俺にも当てはまることだった。


「まぁ、僕からは1つアドバイスをするとすれば、自分の気持ちに素直になるってことだね。後悔しないようにね」


 自分の気持ちに素直に・・・・・・。

 白星さんも散々言っている言葉。

 まさか、龍一先輩にまで言われるとは思ってもいなかった。 

 龍一先輩も自分の気持ちに素直な人だもんな。

 

「ところで、正彦君たちはスマ○ラをしてたのかい?」


 龍一先輩が、つきっぱなしになっていた、テレビのリザルト画面を見て言った。


「はい。さっきまでやってました」

「なるほど。ということは正彦君たちも参加するというわけだね。ゲーム大会に」

「も、ってことは龍一先輩たちも?」

「もちろんさ。美弥妃が出るっていって聞かなくてね」

「そんなこと言って、龍一先輩も実は出たいと思ってるんでしょ?」

「あはは、バレたか」

「先輩だからって手加減しませんからね?」

「もちろん、臨むところだよ。ゲームは本気でやらないと面白くないからね」

「ですね」


 互いに笑い合って、握手を交わすと龍一先輩は月城さんに挨拶に行くとカウンター席に向かっていった。



☆☆☆

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