第18話

 それから、お店が開店するまで白星さんと何戦かやったが、俺がすべて勝利を収めていた。


「むぅ!勝てない!」

「諦めますか?」

「諦めるわけないじゃん!私は負けず嫌いなんだから!」

「でも、そろそろお客さん来るんじゃないですか?」

「じゃあ、最後にもう1戦だけ!」

「まぁ、いいですけど……」


 数十分前には従業員らしき女性がやってきて、カウンターでコーヒー豆を燻っていて店内にはいい匂いが漂っていた。

 そんなコーヒーのいい香り漂う中、白星さんと最後の一戦を行った。

 もちろん勝ったのは俺だった。

 

「はぁ、結局1回も勝てなかった〜」

「でも、白星さん強かったですよ」

「嬉しくない~。絶対に勝つまでリベンジするからね!」

「いつでも受けて立ちますよ」


 カランコロン。

 白星さんからの挑戦状を受け取ったその時、お店に本日1人目のお客が入ってきたみたいだった。

 高校生?

 いや、中学生か?

 お店の中に入ってきたのか白星さんと同じくらいの背丈の男の子だった。

 その男の子は常連なのか、迷いのない足取りでカウンター席に座った。


「いらっしゃい。正幸君」

「どうも」

「今日はちょっと騒がしくなるかもしれないけど、ゆっくりしていってね」

「はい」

「飲み物はいつものでいい?」


 月森さんに「いつものでいい?」と聞かれているところを見るに、どうやら本当に常連らしい。

 正幸君と呼ばれていたその男の子はコクっと頷いていた。

 その様子を見ていると白星さんが「あの子も星城学園の生徒だよ」と教えてくれた。


「え、そうなんですか?」

「うん。ここの常連さんで、名前は確か……望月正幸君だったかな」

「何年生ですか?」

「1年生だったと思うよ。ねぇ~葵。望月君って1年生だったよね?」

「そうよ」

「だってさ、だから正彦君は知らないかもね」

「ですね」


 ここ『ムーンライト』は星城学園からさほど離れていないところにある。

 だから、在校生が足を運んでいたとしても何ら不思議ではなかった。

 

「ちなみにだけど、望月君はね、葵のお気に入りだよ」

「というと?」

「ん~。私にとっての正彦君みたいな感じかな!」


 そう言った白星さんは俺に向けてウインクをする。 

  

「だ、だからそういうことをサラッと言わないでください!」

「なんで?」

「心臓に悪いからです!」

「ふ~ん。ドキドキするんだ?」

「……」


 失言したと思た時には遅かった。

 白星さんは目を細めニヤーっと笑っていた。

 

「何も言わないのは肯定してると捉えるからね?」


 そう言われても俺は何も言い返せなかった。

 事実だったから。

 俺の心臓はドキドキとうるさいくらいに音を鳴らしていた。

 

「そっか~。ドキドキしてくれてるのか~。正彦君、ドキドキするってことは、それもう恋してるって言ってるようなものだからね!私のこと意識してくれてるてことだからね!」


 そうなのだろうか?

 生まれてからこの歳になるまで恋なんてしたことがなかった。

 もちろん恋人なんて一度もできたことがない。

 だから、この胸の高鳴りも初めての経験だ。

 もしも、この胸の高鳴りが恋している証拠なのだとしたら、俺は白星さんに恋をしているということになる。

 俺が白星さんに……。

 ニコニコと嬉しそうに笑っている白星さんをことを見た。

 そして、すぐに顔を逸らした。

 とてもじゃないが、見ていられなかった。

 心臓の音が早くなっていく、心なしか頬が熱い気がする。

 なんだこれ……。  

 これが恋、なのか?

 何もかも分からないことだらけで、俺はどうしていいのか分からなくなっていた。

 息をするのが辛い……。

 

「大丈夫。何も心配することないよ。自分の気持ちに素直になって」


 いつの間にかこっちにやってきていた白星さんに俺のことを優しく抱きしめられた。

 

「自分の気持ちに素直になるのってもちろん簡単なことじゃないけどさ、それができるようになったら正彦君の人生はもっと輝くと思うんだ。だから、少しずつでもいいから、自分の気持ちに素直になってみようよ」


 白星さんは俺を落ち着かせるように優しい声でそう言った。

 そんな白星さんの声に俺は徐々に落ち着きを取り戻していった。


☆☆☆

 

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