第16話 1月15日 ゲーム&ブックカフェ編
1月15日(土)
「葵!2周年おめでとう〜!」
「ありがとう。澪」
「ねぇ、葵!抱き着いてもいい?」
「どうせダメって言っても、澪は抱き着いてくるんだからいちいち確認しなくてもいいわよ」
「じゃあ遠慮なく!」
もはやそれが恒例行事のように白星さんは、葵さんという女性に抱き着いた。
ここはカフェ『ムーンライト』。
この前、白星さんと電話しながらゲームしていた時に言っていたカフェだった。
ゲーム&ブックカフェ。
白星さんがそう言った意味が分かった。
ここは俺にとってまさに夢のような空間だった。
壁一面には大量の小説や漫画やゲームソフト。
テーブル席がいくつかあって、その上にはテレビが置かれている。そして、そのテレビの前にはゲーム機が置いてあった。テーブル事で置かれている家庭用ゲーム機が違っている。おそらくは自分で好きなところを選んで座る形式なのだろう。
ちなみに俺が今、座っている席には最新のゲーム機が置いてあった。
何このお店!?
神過ぎる!?
ここにずっといたくなるくらい素敵な空間だった。
「澪、もう満足した?」
「したした!」
「なら、その子紹介してほしいんだけど?」
「は~い!紹介します。彼は、川崎正彦君!超超超凄腕ゲーマー!優しくて、頑張り屋で、頼りになって、笑顔が可愛いい、私の彼氏、になる予定の人!」
俺のことをべた褒めした挙句、最後に爆弾投下をした白星さん。
あまりにもいきなりの事過ぎて、俺は何も言い返せなかった。
そんな俺を気にすることなく白星さんは葵さんという女性の紹介を始めた。
「で、こっちが月森葵!ここのお店の店長で私の大親友!見ての通り、葵はゲームと本のオタク!それが高じて葵はこのお店を2年前にオープンさせたの!」
白星さんには申し訳ないが、月森さんの情報は何一つ入ってこなかった。
俺の心の中は恥ずかしさと嬉しさと戸惑いの感情が混じっていた。
ほんとにこの人はサラッと何言ってんだ……。
俺は口を開けて固まったまま白星さんのことを見ていた。
「澪、彼、固まってるけど、大丈夫?」
「やっちゃった!」
てへ、っと舌を出しておどける白星さん。
「まったく、やっちゃったじゃないわよ。澪のわがままに付き合わされる相手のことをちゃんと考えてあげなさいって、いつも言ってるでしょ。みんながみんな私みたいに慣れてるわけじゃないんだからね」
「それは分かってるんだけど、仕方ないじゃん。自分では止めれないんだから」
「とにかく、何とかしてあげなさい」
「はーい!」
元気よく返事をした白星さんは俺に近づいてくると、月森さんにしたように抱き着いてきた。
そして耳元で「早く正気に戻らないともっと凄いことしちゃうよ」と囁いた。
いや、戻れるか!?
そんな言葉を耳元で囁かれて、柔らかな感触を背中に感じて、正気になれるわけがなかった。
「澪、あんたもう少し人との距離感を覚えた方がいいわよ」
「ちゃんと分かってるもん。ただ、好きな人との距離感が近いだけで!」
「さっきの本気なんだ」
「さっきのって?」
「彼が彼氏になる予定って、やつ」
「当たり前じゃん!私は正彦君の事が好きなの!」
「そう。なら、私はもう何も言わないわ」
え、マジ……。
助け船出してくれない感じですか?
俺はいつまで柔らかな感触を背中に感じていればいいんでしょうか?
一向に離れようとしない白星さん。
こうなったら自分で何とかするしかない……。
てか、白星さん俺のこと好きって言わなかったか!?
「あの……白星さん」
「何~?」
「俺のこと、好きなんですか?」
「あれ?前にも言わなかったっけ?好きだよ。私は正彦君の事が好き!」
「……」
「正彦君は私のこと嫌い?」
白星さんは俺から一旦離れると、前に回ってきて、少し前屈みに俺の顔を覗き込んだ。
その亜栗色の瞳は返事を待っているかのように、俺のことを真っ直ぐに見つめていた。
☆☆☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます