第12話


「桃空さん、家はこの近く?」

「はい。歩いて五分くらいです」

「そっか。じゃあ、家まで送るよ」

「え、さすがにそこまでは……申し訳ないです」

「いいからいいから。あ、今更だけど、俺は3年の川崎正彦。よろしく」

「2年の桃空綺羅です。よろしくお願いします」


 意外と礼儀正しいんだな。

 俺に向かってペコっと頭を下げた桃空のことを見て思った。 

 桃空のことは噂でしか知らなかったが、どうやら実際の桃空は噂通りの人ではないらしい。


「あの、本当にいいんですか?デート中だったんじゃ……」

「デート?あ、違う違う。デートじゃないから大丈夫だよ」


 俺がそう言うと、隣を歩ていた白星さんが悲しそうな声で言った。


「むぅ、そんなにはっきりとデートじゃないって言わなくてもよくない?」

「だって事実じゃないですか」

「そうだけど……じゃあ、次はデートとして付き合ってもらうから!」

「次があるんですか?」

「当たり前じゃん!私が今日だけで終わらせるわけないでしょ!」


 白星さんの綺麗な亜栗色の瞳が俺のことを真っすぐに捉える。 

 そうやら冗談で言っているわけではないらしい。

 次ね……。


「俺が次も付き合う保証はどこにもないと思うんですけど?」

「正彦君は次も付き合ってくれるよ!だって、あの返事がまだだし、それに正彦君は優しいから!」

「白星さんは本当に自分勝手な人ですよね」

「そうだよ!私は自分勝手でわがままな人だよ!幻滅した?」

「いえ、それが白星さんの生き方ならいいんじゃないですか」

「だよね~!てか、人間なんて元はみんな自分勝手なんだよ。自分が自分勝手じゃないって言ってる人は我慢してるだけ。隠そうとしてるだけ」

「確かに、そうかもしれませんね」

「ま、私も高3までは我慢して隠してる側の人間だったんだけどね~」

「なんだか想像できませんね」

「だと思う。本当に私を変えてくれた龍一君には感謝だよ!」

「そういえば、龍一先輩言ってましたね。白星さん、変わったって」

「まぁね!我慢せずに自分の気持ちに素直に生きたら何もかもが変わったよ!」


 ゲームセンターの入口に到着した。

 俺たちの後ろを静かについてきていた桃空さんの方を振り向いて聞く。


「それで、桃空さんの家はどっち?」

「あの、やっぱり私一人で帰りますから。ここで大丈夫です」

「遠慮しないでいいんだよ?」

「遠慮とかじゃないです。2人の時間を邪魔したくないだけなんです」

「もぅ~。ここまで来たんだからあと五分も十分も変わらないから!ほら、桃空ちゃん家の場所教えて、一緒に帰ろ」


 そう言って白星さんは桃空の手を握った。

 白星さんに手を握られた桃空は顔を赤くしてコクっと頷いた。

 

「よし!じゃあ、行こう!」

 

 相変わらずここでも自分勝手ぶりを発揮する白星さん。 

 本音は早くUFOキャッチャーがしたいなんだろうけど、まぁ無事に桃空を家まで送り届けることができそうだからよしとするか。

 桃空さんの家に着くまでの五分間は完全に白星さんの独壇場で、白星さんは桃空さんにいろんなことを質問していた。


☆☆☆

 

ゲームセンター編終了

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