第8話
俺は料理を取りに向かった。
どれもこれも美味しそうなものばかりで迷う。
真白さんがあんなにたくさんの種類の料理を持ってきたのも頷けた。
あの華奢な体のどこにそんな量が入るのかと思ったが、このおいしそうな料理を前にしたら、取りたくなったのだろう。
同じ気持ちなった俺も皿いっぱいに料理を乗せて白星さんのところへ戻った。
☆☆☆
「お帰り~。あ、やっぱり正彦君も我慢できなくなった?」
「ですね。どれも美味しそうで」
「だよね!さすが龍一君が支援してるお店だけあるね!」
そう言った白星さんは幸せそうな顔でピザを食べた。
「ん~!美味しい!ほらほら!正彦君も食べなよ!」
「あ、はい。いただきます」
再び白星さんの前の席に座ると俺は取ってきた料理を食べ始めた。
一口食べただけで分かるこの美味しさ。
もちろん他の三ツ星レストランの味なんか知らないが、龍一先輩の支援するここ「スターイート」が一番に違いない。
そう思いながら俺はパクパクと料理を食べていく。
あまりにも美味しすぎて急いで食べてしまったので、俺は喉を詰まらせて咳込んだ。
「ごほごほっ」
「だ、大丈夫!?」
白星さんが俺の後ろに回ってきて背中を叩いてくれて、「はい。お水」と水の入ったコップを渡してくれた。それを受け取って、ゆっくりと飲み干す。
「もぅ、そんなに急いで食べなくてもまだたくさんあるだんから」
「美味しすぎて、つい……水ありがとうございます」
「まぁ、その気持ちは分かるけどね。ほんとに美味しいよね~!」
そう言った白星さんの二枚のお皿はすでに何もなくなっていた。
「あの量、全部食べたんですね」
「もちろん!」
「凄いですね」
「何言ってんの?まだまだ食べるわよ!」
「マジですか……」
「甘いものは別腹だからね!」
白星さんは、ふふ~ん、と鼻歌を歌いながら別腹のデザートを取りに向かう。
それを見送った俺は食事を再開した。
今度は喉に詰まらせないようにゆっくりとよく噛んで食べた。
俺が残りの料理を食べ終える頃には白星さんがお皿いっぱいにデザートを乗せて戻ってきた。
「ねぇ見て!このケーキめっちゃ美味しそうじゃない!」
白星さんは子供のような無邪気な笑顔でお皿に乗ったケーキを俺に見せてきた。
その笑顔を見ただけで、白星さんがケーキが好きなんだということが分かる。
「ケーキ、好きなんですね」
「よく分かったね!大好き!甘いもの全般的に好きなんだけど、その中でもケーキは特別かな~!」
「俺も甘いものは好きですね。頭使った時とかによく食べます」
「分かる分かる!頭使った時は糖分大切だよね~!」
「そういえば、白星さんが龍一先輩と話してた時から気になってたんですけど、白星さんって何者なんですか?」
「ふ〜ん。私のことがそんなに気になるの~?」
白星さんは目を細めると口元についた生クリームをペロッと舐めた。
「そんなに私のことが気になるなら教えてあげてもいいよ?」
「いや、やっぱりいいです」
「なんでよ!聞いてよ!」
頬を膨らませて不満そうな顔をする白星さん。
「じゃあ、もったいぶらないで教えてください」
「もったいぶった方が凄い人感が出るじゃん!」
「なんですかそれ」
「あー、私のこと小物だと思ってるんでしょ!こう見えても私凄い人なんだからね!私の正体を聞いて驚いても知らないからね!」
まるで自分が大物だとでも言わんばかりの前振りをした白星さんは自分のことについて話し始めた。
「私の名前は白星澪。21歳。12月10日生まれ。正彦君が知ってるか分からないけど、私はホワイトスターという会社の社長をしてます。それからこれも知ってるか分からないけど、スターライトっていうMMORPGの生みの親とは私のこと!一応、一千万ダウンロードされててかなり有名なんだよ!」
「……」
「それから、ケーキとゲームが大好きな可愛い女の子です~!」
「……」
「ちょっと~。何か反応してよ~!」
「……」
最後の情報はともかく最初の情報は俺にとって衝撃なものだった。
え、今、俺、もしかして本当に凄い人と一緒にいる?
『スターライト』というゲームは俺たちが絶賛ハマり中のMMORPGだ。
昨日も鋼と悟と一緒にプレイした。
マジかよ……。
白星さんがあの神ゲーを作ったのかよ。
そのことに驚き口を開けたまま白星さんのことを見つめていると、白星さんは「えいっ」とショートケーキを俺の口の中に突っ込んできた。
「ぐふっ……な、何するんですか!?」
「正彦君が私のことを無視するからでしょ!」
「別に無視してたわけじゃ……」
「じゃあ、なんで何も反応してくれないのよ!」
「ちょっと、あまりにも白星さんが凄い人でビックリして……」
俺がそう言うと白星さんは嬉しそうに頬を綻ばせた。
「そうでしょ!そうでしょ!私は凄い人なんだよ!」
えっへん、と白星さんは誇らしげに胸を張った。
黒いコートを脱いで今は白いセーターのみなので白星さんのその豊満なバストが……。
「ところで、正彦君はスターライト知ってる?」
「・・・・・・はい。もちろん知ってます」
「え!?本当に!もしかして、遊んでくれてたりする?」
「はい。昨日も友達と・・・・・・」
遊びました、と俺が言い切る前に、白星さんは机から体を乗り出して俺の両手を包み込んだ。
「今日、嬉しいことばっかりでめっちゃ幸せなんだけど!正彦君も遊んでくれてるんだ!ありがとう!」
俺はその勢いに圧倒される。
子供のような無邪気な笑顔で俺のことを見つめている白星さんの亜栗色の瞳は神々しい輝きを帯びていた。
「ねぇ!フレンド登録しようよ!」
「あ、はい。いいですよ。てか、白星さんもやってるんですね」
「もちろん!1プレイヤーとして遊んだ方がわかることもあるからね!」
「なるほど」
白星さんは机の上に置いていてたスマホを手に取って「スターライト」のアプリを開いて、フレンド画面を見せてきた。
「はい!これが私のフレンドコードね!」
俺もアプリを開いて白星さんのフレンドコードを入力した。
『シロホシ』。それが、白星さんのキャラ名だった。
「えっ!?もしかして正彦君が、まさかあの『MASA』なの!?」
「どの『MASA』なのか分かんないですけど、俺のキャラ名は『MASA』ですね」
「ほら、先日、隠し要素を見つけた『MASA』っていうキャラがいたじゃない」
『スターライト』で隠し要素を見つけたプレイヤーは一定時間画面の隅の方に名前が表示される仕様になっている。
「ああ、それなら俺ですね・・・・・・」
「今日1番の衝撃なんだけど!?あの隠し要素、私が誰にも言わずにこっそりと隠したものなんだよ!3年もの間、誰も見つけることができなかったやつなんだよ!」
どうやら俺よほど凄い隠し要素を見つけたらしく、テンションの上がっている白星さんは息をつく暇もなく話続けた。
「あの隠し要素を見つけるなんて、正彦君凄いね!正彦君のこと私の会社にスカウトしたいくらいなんだけど!正彦君とだったら、もっと面白いゲームが作れそうな気がする!どう?私と一緒にゲーム作ってみない?」
「・・・・・・」
その結果、とんでもないことを言いだした。
下手したら俺の人生を左右するほどのことを。
「もちろん返事は今すぐじゃなくてもいいよ。その返事がYESでもNOでも私は受け入れるつもりだから。正彦君の人生は正彦君のものだからね」
「少し・・・・・・考えさせてください」
「うん。正彦君はまだ高校生だからね。じっくりと考えてくれていいよ」
白星さんが言ったそれは俺にとってもの凄く魅力的なものだった。
正直に言えば、今すぐにYESと返事をしたい。
だけど、もう少しだけ、白星澪という、幸せそうな顔でケーキを食べている彼女のことを知ってからでも遅くはないだろうと思った。
☆☆☆
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