第4話
「頑張るしかねぇよな」
俺がそうボソッと呟いたところで、勉強机に置いたスマホがブーと振動し始めた。
どうやら電話がきたらしい。
「鋼か?」
何か言い忘れたことでもあったのだろうかと思い、ベッドから起き上がるってスマホを手に取ると、そこには知らない電話番号が表示されていた。
☆☆☆
「誰だ?」
俺の連絡先を知っている人間は少ない。
一瞬、間違い電話かと思ったが、ふと今朝のことが頭をよぎり、もしやと思った。
そういえばあの人にも連絡先を渡したんだっけ・・・・・・。
「連絡してくるとか言ってたよな。まさかな・・・・・・」
電話に出るか迷ったが、とりあえず出てみることにした。
「も、もしもし・・・・・・」
『あ、やっと繋がった!』
聞こえてきたのは女性の人の声だった。
『今朝はありがとね!正彦君のおかげで無事に商談に間に合いました』
どうやら、今朝のお姉さんらしい。
本当に連絡してくるなんて・・・・・・。
『それでね。今朝も言ったけどお礼をさせてほしいの。都合のいい時間とかあるかしら?』
「あの、本当にお礼なんてしてもらわなくても大丈夫なので……」
『それじゃあ、私の気が済まないって言ったでしょ。借りは返す主義なの。今朝はコートを着てて分からなかったけど、正彦君って高校生よね?てことは土日とかの方が時間合わせやすいか……』
「……」
俺の意見を聞くつもりはないらしい。
お姉さんは勝手に話を進めていった。
『じゃあ、今週の土曜日とどう?その日なら私も一日フリーだし、いつからでも行けるから。実はさ、行ってみたいお店があるんだよね~』
「あ、あの……」
『ん?何?』
「勝手に話を進めないでもらえませんか?俺、まだ行くなんて一言も言ってませんよね」
『借りを返させてくれないなら、毎日のように電話するけどいい?』
「そ、それは……」
普通に迷惑なんでやめてほしい。
ゲームの時間を邪魔されるのだけは避けたい。
俺に残された選択肢はお礼を受け取るしかないようだった。
「分かりました。土曜日ですね。俺も予定無いのでその日で大丈夫です」
『じゃあ、決まりね!家まで迎えに行くから後で住所送ってくれない?』
「え、家まで来るんですか?」
『そのつもり。この雪でしょ。私が行きたいお店まで歩かせるのも申し訳ないじゃない』
なら、そもそも行かなければいいのでは?と思ったが、言わないでおいた。
どうせ言ったところで、結果は何も変わらないことが目に見えていたから。
数言しか交わしてないが、この人の性格が何となく分かってきていた。
「分かりましたよ。あとで、住所送りますね」
『ありがとう!いや~。楽しみだな~!ずっと行きたかったんだよね~』
なんか俺へのお礼というより、お姉さんが行きたいだけな気がするだけど……。
『ところで正彦君って高校生でいいんだよね?』
「そう、ですね」
『どこの高校なの?』
「星永学園って知ってますか?そこです」
『えっ!?そうなの!知ってるも何も私の母校だよ!』
「そうなんですね」
そういうこともあるだろうな。
お姉さんが同じ学校の出身だとしても、世間は狭いんだな、くらいにしか思なかった。
てか、お姉さんって何歳なんだろうか……。
今朝、顔を合わせた時に見た時にはかなり若そうに感じたけど。
おそらくは大学生か二十代といったところだろう。
『ねぇ、ボランティア部って今もある?』
「えっ!?」
お姉さんが何歳なのかと考えていたら、いきなりボランティア部の名前が出て、俺は思わず大きな声で驚いてしまった。
『うるさいっ!耳痛いじゃない』
「す、すみません……」
『私何か変なこと言った?』
「いえ……その、お姉さんの口からボランティア部の名前が出てきたことに驚いて……」
『そんなに驚くこと?というか、私自己紹介まだしてなかったね』
お姉さんは今気が付いたようにそう言うと名前を教えてくれた。
『私は白星澪。21歳。改めてよろしくね。呼び方は好きに呼んでくれていいからね!』
お姉さんこと白星澪さんは21歳らしい。
ということは、俺たちの3個先輩か。
ちょうど、俺が入学した時に卒業したって感じだな。
『それで、ボランティア部がどうかしたの?』
「それは俺が聞きたいですよ。白星さんはボランティア部とどういう関係なんですか?」
『実はね、私が3年生の時に助けてもらったんだよね』
どこか昔を懐かしむような声で白星さんはそう言った。
「そうなんですね。俺は今、そのボランティア部入ってます。それで、驚いてしまって、すみません」
『へ―そうなんだ!なんか凄い偶然だね!こんなことってあるんだね!』
「ですね。もう驚きを通り越して冷静になってます」
あまりにもいろんな偶然が重なり過ぎて、もはやだれかに仕組まれてるのではないかとすら疑いたくなってくる。
今朝、雪で立ち往生していたお姉さんを助けたら、俺が通っている星永学園の卒業生で、ボランティア部に助けてもらったことがある。
神様の悪戯か何か?
そんなことを思ってしまうほど、冷静だった。
『なんか、ますます土曜日に正彦君に会うのが楽しみになっちゃった!』
数分前までは、うっとうしく思っていたのに今は少しだけ楽しみだと思っている自分がいた。
それもこれも白星さんがボランティア部と関わりがあると知ったからだろう。
つくづく俺はボランティア部が好きなんだなと再認識した。
「あー。廃部にしたくねぇな」
『えっ?廃部?』
「あ……」
『ちょっとどういうことか聞かせてもらいましょうか』
俺は素直にボランティア部が廃部の危機だということを伝えた。
『なるほどね。部員不足ね。それはどうしようもないわね』
「はい。頑張ってはみたんですけど……無理でした」
『そっかー。でも、まだ卒業まで2ヵ月あるでしょ?』
「まぁ、そうですけど。正直諦めてます」
『諦めちゃダメよ!そうだ!土曜日に作戦会議をしましょう!ボランティア部にお世話になった身としては、廃部になるのは悲しいから何か協力させて!』
「それは有難いですけど……」
今更、誰かがボランティア部に入ってくれるとは思わなかった。
やれるだけのことはすべてやったつもりだ。
だけど、自分から人助けをしたいと行動する若者は年々に減ってきているようだった。
誰かが困っていても見て見ぬふり。
それが当たり前の世界になりつつあった。
困っている人に手を差し伸べようものなら偽善者だと非難される。
何やってんだあいつ、という目で見られる。
そんな風に思われるのが怖くて見て見ぬふり。大多数の一人になる。
龍一先輩がいた頃は少しは違った。
まぁ、それもこれも龍一先輩のカリスマ性がなせる業だったわけで、俺たちみたいなモブが龍一先輩と同じようなことをしても冷たい目で見られるだけだった。
だから、今ではボランティア部という名前を知っている生徒はほとんどいなくなった。
それでも俺たちはボランティア部の名に恥じないように困っている人に手を差し伸べ続けていた。
でも……。
「きっともう無理なんですよ。俺たちでは……どれだけ人助けをしても評価されないんですよ」
『そんなことない!少なくともここに正彦君に助けてもらってよかったと思ってる人間がいるじゃない!そんな風に自分のことを卑下しないで。もっと自分に自信を持って!きっと正彦君がこれまでに助けてきた人だって同じことを思ってるわよ!』
「だといいんですけどね……」
『だといいじゃなくてそうなの!私がそう思ってるんだからそうなの!』
「あはは、なんですかその理屈」
思わず笑ってしまった。
あまりにも訳のわからない白星さんの持論に。
「自分勝手すぎませんか?」
『自分勝手でいいのよ!周りの目なんて気にしてどうするの?自分の人生なんだよ?自分が生きたいように生きないと損するだけじゃん!自分勝手万歳!』
「白星さんは周りの評価とか気にしなさそうですね」
『気にしないわね。そんなの気にしてたらこの業界で生き抜くなんて無理だし。自分のやりたいことができないような人生なんて死んでるのと同じだもの!』
「強いですね……白星さんは」
さっき自分で口に出して気が付いた。
俺が誰かに評価されたいと思っていたことに。
そうだよな。龍一先輩や鋼は誰かから評価されたくて人助けをしてるんじゃないよな。
こんな卒業間際になってそのことに気が付くなんてな。
情けなくて笑えてきた。
ずっと二人のことを近くで見てきていたはずなんだけどな。
『私は強くなんかないよ。あの人に会うまでは私も正彦君と同じように周りの目を気にして生きている人間だったもん。でも、私は変ったの。あの人に助けてもらって、変わることができた。だから、きっと正彦君も変われるよ。人は心の持ち方でいくらでも変われるんだから』
「そう、ですね。ありがとうございます」
『よし!じゃあ、土曜日にしっかりと作戦を練ってボランティア部を何としても存続させよう!』
「すみません。知恵を貸してください」
『任せなさい!こんな時間に電話しちゃってごめんね。じゃ、おやすみ!』
「いえ、白星さんが電話してきてくれてよかったです。おやすみなさい」
白星さんが電話を切って通話は終了した。
なんだろう。この話しただけで人の心を変えてしまう感じ。なんだか龍一先輩と話しているみたいだった。
白星さんとで通話を終えた俺はスマホを枕元に置いてベッドに寝転がった。
「やっぱり廃部にはしたくねぇよな」
鋼がどう思っているのか分からないが、俺はボランティア部を廃部になんかしたくなかった。
龍一先輩が築き上げてきたもの。顔も名前も知らない先輩たちが築き上げてきたものを俺たちの代で終わらせたくはなかった。
そう思うと俺はスマホを手に取って鋼にあるメッセージを送った。
すると、すぐに既読が付いて「おせぇよバカ」と返ってきた。
☆☆☆
次回は白星さんとデート?編です。
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