第2話

「おはよ」

「おはー!遅かったなー」


 美人のお姉さんを助けた後、俺は当初の予定通り図書室にやって来ていた。


「まぁ、ちょっと人助けをしてな」

「ほお、それは是非とも聞かせてもらいたいものだな」


 眼鏡をかけてないのに、クイっと眼鏡を押し上げる仕草をしたこのイケメンは山崎鋼。ボランティア部部長で俺をボランティア部に引き込んだ張本人。

 鋼は他人の不幸を蜜に、じゃなかった。鋼は人を助けることを誰よりも生き甲斐としている、そんな人間だ。

 そんな鋼についさっきの出来事を聞かせた。


「さすがボランティア部の鏡!」

「俺と鋼しかいないけどな」

「あ~あ。ボランティア部は今年で廃部だな~」

「結局一人も入らなかったな」


 ボランティア部は年々数が減っていっていた。

 俺が一年生の時は十人いた部員は、二年生の時は五人になり、そして今年は俺と鋼の二人だけとなってしまった。

 

「なんだか寂しいな」

「三年間でいろんな人を助けてきたよな~」

「そうだな。俺たちも後数か月で卒業だもんな」


 この三年間を一言で言い表すとするのなら、間違えなく『楽しい』だろうな。

 もちろん、一言では言い表せないくらいに濃密な三年間だったわけだが、あえて言い表すならその言葉がピッタリな三年間だった。

 それもこれも鋼が俺のことをボランティア部に誘ってくれてからだ。

 鋼のおかげで俺の三年間は華やかなものになったといっても過言はないだろう。


「ありがとな。鋼」

「なんだよいきなり」

「鋼のおかげで楽しい三年間だったよ」

「それ言うの早くね?まだ卒業まで二ヵ月もあるんだぞ。まぁ、嬉しいけどよ」

「そう言えば、言ってないなと思ってな」

「むしろさ、感謝するのは俺の方なんだよな~。俺の身勝手でボランティア部に無理やり参加させてしまったのに、三年までよく付き合ってくれたよ」

「まぁ、楽しかったからな」

「そっか。そう言ってもらえると、無理にでも入れてよかったと思えるな」


 ニコッと笑った鋼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「おいおい。泣くのこそ早くねぇか」

「う、うっせぇ。泣いてねぇよ」

「そういうことにしといてやるかな」


 泣くなら卒業式だ。

 そう決めていた。

 だから、今は泣かない。 

 

「と、ところで、昨日のあれだけどよ。よく見つけたな」

「ああ、あれか。俺もビックリしてるよ。まさかあんなところに隠してあるなんてな」

「さすが正彦だな。目の付け所が他のやつらとは違うな。普通はあんな場所見過ごしてしまうだろ」

「たまたまだって、ちょっと作る側の気持ちになって考えてみただけさ。俺だったらどこに隠すかなってな」

「そういえば、正彦はゲームを作るのが夢だったな」

「まぁな」

「正彦ならきっと面白いゲームを生み出すんだろうな」

「どうだろうな。そんなに簡単な世界じゃないからな」

「いや、お前なら作れるって!俺が保証する!」

「根拠のない保証だなー。まぁ、その保証はありがたく受け取っておくよ」


 ゲームを作る。

 それは俺の子供の頃からの夢だった。

 MMORPG。

 現実リアルのような広大な世界を歩き回ったり飛び回ったりして大冒険をするゲームの種類。

 モンスターを倒してレベルを上げたり、ひたすらレアな素材集めや武器集めに奔走したり、ただただ世界を歩き回るだけだったり、その世界でできた友達と会話をするためだけだったり、その遊び方は様々。

 俺が作りたいのはそのMMORPGだった。

 初めてプレイした時の感動は今でも鮮明に覚えている。

 さながら異世界にでも飛び立ったような感覚は時間を忘れさせ俺を熱中させた。

 いつかこんなゲームを作りたいと思うようになっていた。

 そして、俺と鋼が今やっているのもそのMMORPGだった。

 昨夜も通話をしながら、受験勉強の合間に一時間だけという時間を決めて一緒にプレイをしていた。

 

「ゲームができたらちゃんと俺に教えろよ。モデレーターになってやるからよ!」

「何年先になるか分からないが、その時はよろしく頼む」

「おう!楽しみにしてるわ!」

「さて、じゃあそろそろ勉強を始めるか?」

「そうだな。そのために図書室に来てるんだしな。正彦はもう進学先が決まってるのに付き合ってくれてありがとな」

 

 実を言うと、俺はすでに進学する大学が決まっている。

 推薦ですでに合格をもらっていた。

 もちろん、進学先はゲームを作るが勉強ができる大学だ。

 なので、今日は鋼の受験勉強の付き添いだ。 

 俺はその間、ゲームの勉強をするつもりだった。

 鋼は医者になるらしい。

 人助けが生き甲斐の鋼らしいと思った。

 きっと鋼は医者になってたくさんの人の人生を救っていくんだろうな。

 鋼が医者になったらイケメン医師として有名になること間違いなしだ。

 

「いいってことよ。それに一人より二人の方がいいだろ。まぁ、俺は受験勉強じゃなけどな」

「もちろん正彦は好きな勉強をしてくれ。どうせゲームのことなんだろうけどな」

「当たり前だろ?」

「さて、集中しますか。夜のご褒美タイムのためにも!」

「だな」

 

 それを皮切りに俺たちは別々の勉強を始めた。

 数時間集中して、少し休憩を挟んでを繰り返して図書室の閉館時間まで俺たちは勉強をした。

 すべては夜のご褒美タイムのため。


☆☆☆

 

 修正点。

 受験勉強をするために→勉強をするために に変更しました。


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