【2022/1月短編 3万PV突破〜✨】雪で立ち往生している車を助けたら有名企業の社長でした
夜空 星龍
第1話 1月5日
この日が俺の運命を大きく左右する1日となることをこの時まで予想していなかった。
それは、雪の降った次の日のことだった。
街は1日にして真っ白に覆われていた。
「それにしても、すげぇ降ったなー」
俺はサクサクと足音を鳴らしながら雪道を歩いて学校に向かっていた。
昨夜から今朝まで雪は降り続いていて、50cmほど積もっていた。
コートと手袋とヒートネックと長靴を身に着けていても冬の空気は突き刺すほど冷たかった。
「さっむ」
手袋をつけた手を擦り合わせる。
きゅるるるる。
ん?
きゅるるるる。
そんな音が少し先の方から聞こえてきた。
なんだ?と思いながら、その音の方へと向かう。
「車か……」
さっきから「きゅるるるる」と何度も同じ音を鳴らしている。
どうやらこの雪のせいで車が立ち往生しているようだった。
「助けるか」
どうせ今日は冬休みの自由登校だし、学校に行っても図書室で勉強をするだけだからな。
それにここで見過ごしたらボランティア部の恥だろ。
そう思って俺は車の運転席へと向かい、窓ガラスを数回ノックして「大丈夫ですか?」と声をかけた。
声をかけてから思ったが、もしもこれで怖いおっさんとかだっらどうしよう。
どっかに連れ去られて売り飛ばされたり……。
そんな妄想をしていると車の窓が開き、中から女の人が顔を出した。
うわ……めっちゃ美人……。
どうやらこの車の持ち主は怖いおっさんではなく、めっちゃ美人なお姉さんだったようです。
「あの、車動かないんですよね?」
「え、ええ……」
警戒している目。
当然の反応。
だけど、少しだけ困り顔。
「いきなりすみません。車が動かなくて困っているように見えたので……」
「ああ……そう、ですね。動かなくて困ってました」
そう言ったお姉さんは左腕につけていた腕時計をチラッと見た。
「もしかして、時間ない感じですか?」
「ええ、実はこれから大事な商談があって……」
「それは大変ですね。ちなみにその商談まで時間はどのくらいありますか?」
「後二十分くらい、かな……」
二十分か。
今から家に戻ってスコップを持って戻ってくるまでに五分。
「その商談場所まではどのくらいかかりますか?」
「ここから十分くらいね」
五分しかねぇじゃねえか!?
ここでこうして話している間にも時間は進んでいく。
「ちょっと待っててください!すぐに戻ってくるので!」
「えっ、あ……」
お姉さんの驚く声を背に俺は急いで自宅に戻った。
ちょうど五分で戻ってきた俺は残り五分で車の周りの雪を急いでかいていった。
あと少し行けば広い道に出るので、そこまでいけっば除雪車が雪をかいてくれているはずだ。
「な、何をする気なの?」
「今から少しだけ雪をかきます」
「えっ……」
俺がそう言うと、お姉さんは驚いた様子で車から出てきた。
そんなお姉さんのことは気にも留めずに俺は車の前の雪を時間の許す限り黙々とかいていった。
「はぁ、はぁ、こ、これで、どうですか……」
「あ、ありがとう。ちょっと、動かしてみるから離れてて」
ずっと俺の様子を見守っていたお姉さんは少し苦笑いを浮かべると車に乗り込んで、一度バックして、一気にアクセルを踏み込んだ。
車はさっきまで立ち往生していた場所から無事に抜け出すことができた。
よかった。
これでお姉さんは商談とやらに行けるはずだ。
お姉さんが車を止めて下りて俺の方にやってきた。
「本当にありがとう。あなたのおかげでギリギリ間に合いそうだわ」
「いえ、早く行ってください。間に合わなかったら俺の努力が水の泡になっちゃうので」
「はは、そうね。じゃあ、これに名前と連絡先を書いてくれない?お礼がしたいから」
「え、いいですよ。そんなの……」
「ダメ。私の気が済まないから」
そう言ってお姉さんはメモ帳を俺の胸に押し付けてきた。
どうやら俺が名前と連絡先を書くまで引くつもりはないらしい。
俺は諦めて、
「ありがと。じゃあ、またあとで連絡するから!」
そう言うとお姉さんは自分の名前を言うこともなく車に乗り込んで走り出してしまった。
「いや、まぁいいんだけどな……ただのボランティアで助けただけだから」
俺はスコップを家に置きに戻ると、再び学校を目指して雪道を歩き始めた。
☆☆☆
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