第5話 女の子は今?
〈紗英の夫の会社の入ったビルの前〉
ユウキ:こんにちは。ちょっとお時間いいですか?
紗英の夫:はい? 僕の事ですか? 売店に来られているパン屋さんですよね?
ユウキ:はい。実はオレの、いえ僕の交際している人はあなたの奥さんの同僚なんです。いつかちゃんと挨拶したいと思っていました。
紗英の夫:もしかしてかおりちゃん? 妻の話の中によく出てきます。
ユウキ:あ、そう…すか。どんな話なんでしょうね。冷や汗です。^_^;
紗英の夫:妻はかおりちゃんに好感を持っていると思いますよ。他の同僚の名前はあまり出てこない。
ユウキ:そうだといいんですが、何せ変わってるから。あいつ、先輩に憧れているみたいです。あんな仕事をバリバリこなせるヒトになりたいって。何年か地方の支社勤務で病んだって言ってたけど、先輩と同じ本社に戻って来れて、すごくうれしそうで。それでいてやけに対抗意識持ってたりするんですよ。
紗英の夫:そうなんだ。あの、良ければ向かいの公園の丘の見晴台で一服しませんか? 僕の喫煙スポットなんですよ。
ユウキ:いいっすよ。僕も一服したい気分です。
はぁはぁ(´Д`)=3 見晴台、こんな上でしたっけ? 二、三回しか来た事ないけど。三上さんって脚強いですね。どんどん上って。
紗英の夫:大丈夫? あともう少しですよ。ホラ、なかなかの風景でしょ?
ユウキ:ホントだ。夏の終わりだからまだ少し空が明るいけど、街の灯がポツポツとついてキレイですね。
ユウキ:かおりはね、この夏、先輩の謎についてよく考えてるんです。
紗英の夫:謎?
ユウキ:まず、夏の休暇前に預かったという親戚の女の子がいるみたいだけど、
紗英の夫:かおりちゃんはそれを謎と感じてるんですね?
ユウキ:アイツ、変でしょ。子どもが何処かに閉じ込められてるんじゃないかとまで妄想が広がってて。
紗英の夫:はは。親戚の女の子なら元気でピンピンしてますよ。ほらここに動画もある。
ユウキ:ホントだ。小麦色に日焼けして元気そう。ここ、何処ですか?
紗英の夫:すごい田舎でしょう? これは山梨のこの子の祖父母、つまり僕の両親の家で、みわちゃんの仲良しの従姉妹達もいる所です。あ、みわはこの女の子の事です。
ユウキ:夏休みの日付だ。あ、この子、僕が見た子ですよ、やっぱ。じゃあみわちゃんはあなた方夫婦のマンションで過ごした後、ここへ?
紗英の夫:ええ。というかうちには一日もいなかった。
ユウキ:遠くから来て一日もいなかったんですか?
紗英の夫:ええ。親から渡された土産物を広げ、完璧栄養ドリンクメイカーで作ったアヤシイ飲み物を飲んで、公園にラジオ体操に行った位。みわちゃんは、あらかじめこっそり祖父母、つまり僕の両親の家に根回ししてたんですよ。しばらく滞在させてくれるように。みわちゃんは私達夫婦に、おじさんもおばさんも大好きだけど、今回はゆずれないって言ってました。
ユウキ:ユズレナイ?
紗英の夫:実はみわちゃんの両親が妻に自分の娘を預けるのは、そこから富士山麓のサマーキャンプに送り出すため。そのサマーキャンプは進学塾主催で、子どもに一日中勉強させるプログラムなんですよ。その間に娘に猛勉強をさせたいって、みわちゃんの親の目的があるんです。本当はウチ経由でなく行かせたいけど、みわちゃんの両親は父親の仕事のため海外に行かないと行けないから仕方なく。みわちゃんの父親というのは、僕の年の離れた兄、子どもの頃から成績優秀で、でも考え方の相容れない兄なんです。元々、兄の短期海外出張が毎年この時期にあり、妻であるみわちゃんのお母さんもそれに付き添ってパーティーに出席しなくちゃいけないって理由があって預かるようになったんですけどね。
ユウキ:海外出張か。仕事とはいえ、親と引き離される子どもはかわいそうだな。その上猛勉強なんて。
紗英の夫:僕の両親もこの進学塾のサマーキャンプには、色々と不信感を持っていて、反対していたんです。塾に断りの電話を入れたのはしっかり者のみわちゃんだったんですけどね。サマーキャンプに行かなかった事を知った僕の兄夫婦はものすごく怒って妻を責めて、警察にまで電話したんです。誘拐だって。事情聞かれただけで、兄の言い分は相手にされませんでしたけどね。
ユウキ:紗英先輩を責めるなんておかしい。
紗英の夫:たぶん……僕より妻の方が、自分達夫婦の考え方に近いと信じてたのかもしれませんね。
二年前、みわちゃんが八歳の年初めて預かった時にはそんな話はなく、また私達の夏の休暇と重なったため思い切り三人での休暇を楽しんだ夏休みでした。
ユウキ:三人の夏休み? 親子みたいですね。他にあなた方二人に旅行の計画とかなかったんですか?
紗英の夫:二年前は海外旅行を予定していたけど、行き先の都市で起こったテロのため、キャンセルせざるを得なかったんです。妻はね、最初八歳の子と過ごす夏休みが不安だったんです。自分に夏休みのトラウマがあったから。
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