JAN.3, 2022
何を何杯飲んだのかは明確に覚えている。オリオンビールの中瓶、ピーチオレンジ、焼酎の茶割、日本酒(久保田と白雪)、マティーニ(シェイク)、サイドカー、ソルティドッグ、カルアミルク。そして、一緒に飲んだ女性とお別れして、帰路についたことも覚えている。しかし、起きた後、横で寝ている女性に関してはてんで記憶にない。誰かの能力?だとしたら何故?誰かが淹れてくれた冷えた紅茶を飲みながら頭を冷やす。女性はまだ寝息を立てている。不特定多数の人間が出入りしやすいところに住んでいるとはいえ、こういうケースはほとんどない。少なくとも自分は初のことだ。
紅茶を飲み終えたので、朝食を作ることにした。儀礼的に二人前準備する。卵を2個溶いて、ショルダーベーコンのざく切りを弱火で熱する。その間にレタスとワインビネガーに漬けておいた玉ねぎを更に並べ、ベーコンから油が十分出たところで卵を入れる。茹でたじゃがいものストックはちょうど3個。スライスしてレンジに。祝日なのに平日のような手際で私は朝を進める。チーンというレンジの合図とともに、例の女性も目を覚ました。
「おはようございます」
「おはようございます」
私たちは驚きの表情を見せることなく、ただ挨拶を交わした。
「朝ごはん作ったんですけど、食べられますか?寝起きですけど」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます。食べられます」
「いえいえどういたしまして」
私は正方形に型どられた大理石の卓に料理を並べる。
「あの、食べる前に一つ聞きたいことがあって、誠に申し訳ないんですが、お名前伺ってもいいですか?」
「まだ言ってませんでしたっけ」
「言われたかどうかも定かではなくって。昨日どこで会いました?というかここで裸で寝ていた経緯はわかりますか?」
「ああ、それは気にしないでください。特にやましいこととか発生してませんから。別件で来たので、特にリツさんに用があってきたわけじゃなくって」
この女性はまだ名乗らず、素手でスライスした芋をむしゃむしゃ食べだした。
「あら、そうなんですね。これで手を拭いてね」
「マチル夫さんってまだこの家住んでますか?彼に用があって。この家の住所だけ知ってたんで。それで昨日すごく寒かったじゃないですか。それで私もうっかり薄着で凍え死にしそうで。それで布団にお邪魔しました」
私が差し出した布巾をくしゃくしゃにしながらこの人は指先だけを拭っている。
「なるほど。布団の件は厄介事さえなければ自分としては問題ないです。マチル夫に関しては、そうですね、もうこの家に住んでないですが近々会います。あなたが会いたがっていた旨を伝えてもいいですし、一緒に会いに行ってもいいですし。ちなみにお名前は?」
「アリー・ビーリッシュ」
「はじめましてアリー」
「よろしくです」
食べながら見た今年の占いによると私の射手座AB型という組み合わせは48通りの中で39番目の総合運らしい。アリーの天秤座O型は8番目。朝食の後、二人で達磨寺へ初詣に行った。
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