第8話 自己紹介


「それじゃあ改めて。僕はカムルで、機動性を捨てた大剣大盾の……まあ、タンクかな。真っ向から殴り合うスタイルだから、ダメージもそれなりに出せるけどね」

「……それで、あたしがそんなバカをカバーするソーサラーのメルル」

「ソーサラー?」


 耳にしたことがない単語に疑問符を浮かべると、メルルは慣れたようにソーサラーの説明を始めた。


「うん。ウィッチからなれる上級職で、同じ系統のウィザードと違うとこは、攻撃一辺倒のウィザードに対してソーサラーは攻撃回復補助全部それなりにできるってとこ」

「なるほど……あ、私はミアでアーチャーです」


 不必要かとも思ったが、一応形式的に自己紹介をしておく。

 それを聞いたカムルは、笑顔で頷くとおもむろに席を立ちあがった。


「よし!それじゃあ、早速狩りにでも行ってみる?」

「……うん。楽しみ」


 二人にとって、恐らく初めてとなる弓使いとの共闘。一ゲーマーとしてその心が躍る気持ちはわかるし、私自身もソーサラーという知らないジョブの戦い方はものすごく気になるとろだ。……ところだが、私は慌てて二人に断りを入れた。


「ごめん、ちょっとこれからリアルの方でご飯を食べようかなって思ってて……」


 その言葉を聞いたカムルは驚いた表情を浮かべ、勢い悲しく再び席に着いた。


「そっか……僕たちはもう食べてきてたんだけど……っていうか、それなら食べてきてから返信してくれればよかったのに」

「あー、それは……」

「いや、別にいいんだけどね!僕の早とちりだし。僕たちはここで待ってるから、気にせず食べてきてよ。……あ、食べ終わった後は大丈夫?」

「それはもちろん!……って、平日の昼にもちろんなんて言うものでもないけど……」


 とはいえ、今ここで会話を繰り広げている時点で平日の昼間っからゲームをやっている廃人仲間なわけである。お互いにリアルの詮索はせずとも微妙な笑みを浮かべ合うと、私はほどなくしてVOの世界からログアウトしたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヴァーミナル・オンライン @YA07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ