第4話 STR極振り


「えっ……ミアさんSTR極なんですか!?」


 私はつい先ほども同じような驚き方をされたなーなんて思いながら、カインの驚嘆の声に肯定を示した。


 STRというのは、かいつまんで説明するとほとんど攻撃力といって差支えのないもので、その攻撃力の中でも物理的な攻撃力を指し示すものだ。多彩なジョブやスキルを謳っているVOには物理的な攻撃以外にも二つの種類の攻撃があり、それは魔法と精神という片方はあまり聞き慣れないものである。

 このうち魔法攻撃は、多少ゲームに精通している人なら想像できる通りの、物理攻撃と同じく相手の体力を減らす攻撃だ。その一方で、精神攻撃というのは相手の精神を減らす攻撃となっている。精神というのは他のゲームではあまり見ないステータスで、現実的に言えばスタミナのようなものだ。激しく動くと消耗され、それが尽きると一定時間動けなくなってしまう。そしてそれはほとんど死を意味することなので、VOでは体力か精神のどちらかがなくなると死亡と考えてもらってもいい。精神は時間経過で回復するが、消耗しすぎると精神攻撃でダウンさせられてしまうので、体力以上に管理の難しいステータスとなっていた。


 その辺の詳しい話はさておき、私はステータスのほとんどをSTRに振った、所謂脳筋というやつだ。脳筋と言っても、文字からイメージされるようなタフガイでは決してない。体力や防御力といった耐久系のステータスはほとんどないからタフではないし、私はガイでもないからだ。

 ただ、実はこのSTRというステータスだが、実のところほとんどの人があまり振っていないほどの冷遇ステータスだった。その理由は簡単で、今度はスキルの方の話になる。

 先程は攻撃力がどうこうという話をしたが、実際のダメージは攻撃力だけで決まるわけではない。VOでは基本的にスキルを使って戦うことになるのだが、このスキルによるダメージはスキルごとに特有の威力計算が施されるのだ。これには攻撃力に加えてVITやAGIといった他のステータスが威力に加算されることが多く、その倍率もスキルによってはSTRに振るよりVITに振った方が高い火力を出せたりする。なので、STRに振って火力だけ伸ばすくらいなら、他のステータスに振って他の長所も伸ばしつつ、そういったスキルで火力も出すとした方が一石二鳥だからだ。


「極振りって言っても、少しは他のステータスにも振ってますよ?」


 そのことを知っていた私は、少しだけ後ろめたい気持ちになってそんなことを口走った。まあその理由は、ただただ初期のころに目標が定まっていなかったからというだけなのだが。

 そんな一方で、別に最初の言葉に私を地雷認定しようという意図など露ほどもなかったカインは、シンプルな疑問の声を上げた。


「いやいや、それにしてもですよ。ていうか、弓ってDEXがないと当たらないって聞いたことあるんですけど」


 そのカインの言葉に賛同するように、今度はマックスが口を開く。


「俺もだな。DEXに振らないとなかなか当たらないが、DEXに振りすぎると火力が落ちちまう。だから弓は弱いってのがスレの奴らの結論だったと思うが」


 そんなカインとマックスの言うことは、基本的には正しかった。


 VOでは、戦闘状態になるとモンスターの動きが大きく変わる。例えば私がエビルスコーピオンを狩るときなんかは、先制の一撃で倒しているのでエビルスコーピオンが戦闘状態になることはない。だが、もし一撃で倒せなかったとすると、エビルスコーピオンは攻撃を仕掛けた私と一定の範囲内にいるプレイヤーに対して戦闘状態へと移行するのだ。そして戦闘状態となったモンスターには、攻撃回避の判定が行われる。

 この攻撃回避の判定に関する話なのだが、モンスターに攻撃するには当然攻撃を当てる必要がある。これは格闘ゲームのように相手の当たり判定がある場所に自分の攻撃を入れることによって攻撃が当たったと判定されるのだが、これだけでは攻撃が成功したとは判定されないのだ。では他に何があるのかと言うと、今度はMMORPGよろしく、こちらの命中と相手の回避のステータス差による回避の判定が行われる。これは当然命中が高いほど当たりやすく回避が高いほど回避されやすいのだが、実はこの回避の判定はそれだけのシンプルな計算ではなかったのだ。

 それは『実際の攻撃モーションでの当てやすさの差があるんだから、そこまでしなくてよくね?』なんて文句をよく言われている仕様で、なんと武器やスキルごとに命中補正がかかるという仕様があるのだ。これによって、弓は遠ければ遠いほど命中補正が下がるという仕様になっている。ただでさえシンプルに矢を当てるのが難しいのに、仮に矢を当てても回避判定でまで回避されやすいという二重苦が弓という武器には課せられており、これこそがアーチャーが少ない大きな一つの要因でもあった。


 だが、私はDEXにはもう一切のポイントを割いていない。その理由は───


「えっと、怯み判定ってご存じですよね?」

「怯みか……なるほど」


 ぼそりと納得の声を漏らすマックス。

 怯みというのは、相手の攻撃を武器や盾で弾き返したり、怯み効果のある攻撃を当てることで発生する一つの異常状態のようなものだ。この怯み状態になった敵は件の攻撃回避の判定がなくなり、どんなに命中が低い攻撃でも当てさえすればダメージを入れることができる。


「いやいや、怯みって言っても、そんなの運じゃないですか!?」


 納得したマックスとは対照的に、カインは信じられないという表情で私のことを見つめていた。たしかに怯みというのは発生するかどうかが不確定で、運頼みというのは間違いでもない。


「まあたしかに運っちゃ運だが……ブレイクだろ?」


 マックスはカインの言葉に納得も示した上で、私の方を見てそんな言葉を吐いた。

 ブレイクというのは大剣のスキルで、相手の攻撃にこのスキルをぶつけることで相手を高確率で怯ませるというスキルだ。もちろんマックスの言うことは正しく、私がこのパーティーを選んだのも、パーティー加入前からわかるようになっているパーティーリーダーのジョブが、リベンジャーという大剣使い御用達のジョブだったからだ。

 しかし、カインはマックスの言葉にうなずく私を見ても、懐疑的な目をやめることはなかった。


「いや、そりゃブレイクのことは俺も知ってますけど……でも、それにしても怯みなんて一瞬じゃないですか」

「……だが、理論上は狙って怯みを叩くことも可能だろ?俺も正直半信半疑だが、実際にここまでたどり着いてるわけだし、噓をつく意味もねえ。まあ、これからお手並み拝見と行こうじゃねえか」


 マックスがそう楽しそうに笑うと、カインも納得したようなしてないような顔でマックスに頷き返したのだった。



 ちなみに、この間一言もしゃべっていないチャールズは何やら忙しそうにチャットをしていた。

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