第3話 ランカー


「えっ……ミアさん46レべなんですか!?」


 オプティスリングをドロップする『オクトパスキャンサー』という中ボスモンスターを周回する野良パーティーに参加した私は、パーティーに参加するや否やそんな驚きの声を浴びせられた。


「いやいや、募集レベル46以上だったじゃないですか」


 募集レベルというのはパーティーに参加する最低レベルのことで、このパーティーはオプティスリングが46レベル装備なことから募集レベルも46に設定されていたのだろう。


「いや、それはそうなんですけど!」


 どこか興奮したように叫ぶ驚きの声を上げた男。彼はカインという名前で、大きな盾と槍を持っているランサーの男だった。

 カインは改めてパーティーメンバーのジョブ表記を確認して、更にミアが背負う大弓も穴が開くほど見ると、再び大きな声を張り上げた。


「だって、ミアさんアーチャーなんですよね!?」

「え、ええ……そうですけど」

「アーチャーの46レべオーバーがいたなんて!スレでも認知されてませんよ!?」


 スレというのは、名前だけならよく知っている。所謂ネット掲示板というやつで、VOに関する情報交換などを行っている場所だ。とはいえ全プレイヤーが利用しているというわけでもないので、当然全ての情報が出回ることはない。今まで私は身内でしかプレイしていなかったし、当然と言えば当然の結果だろう。


「というか、アーチャーなんて存在すら認知されていませんからね」

「えっ」


 カインの言葉を補足するように発された言葉に、今度は私が驚く番だった。

 その声の主はチャールズという男で、こちらは二本の短剣を腰に差している。


「後衛職をやるなら強力な魔法攻撃ができるウィザード一択っていうのがVOの常識とまでなってきてますからね。ランカーたちは前衛3ウィザード1が最強だという風潮で、特にレベルを積極的に上げている後衛職の人たちは、皆ウィザードですよ。現に……見てください、これ」


 そう言ってチャールズが見せてきたのは、アーチャー専用スレというスレだった。そこは一日に一回すら投稿がされている形跡はなく、たまに囁かれているものもアーチャーにはまだなっていないアーチャー志望の人の悲しさをはらんだ呟きだ。


「でも……発見されてないだけでいるかもしれないですよね?」

「そりゃあね、ミアさんもいたわけだし。でも、少なくともスレでは認知されてないってことだよ」

「……」


 VOでの上級職の解放は、36レべ以上という条件がある。36レべというのはVO的にはかなりプレイしないと到達できないレベルではあるのだが、それでも私がアーチャーになったのは一か月以上前のことだ。そこまでまだ誰も到達していないなど、やはり到底考えられない。

 そんなことを考えていると、私の耳に更に驚きの話が入ってきた。


「そもそも、上級職の後衛なんて初めて見るぜ。俺は」


 そう言ったのは、このパーティーのリーダーであるマックスという男で、こちらは大きな剣を一本背負っていた。


「私はウィザードの方を一度だけ。たしかに一味違った戦闘を楽しめましたし、強力でしたが……立ち止まってスキルを打つだけなのは私から見たら退屈そうに見えてしまいましたね。ランカーたちからも固定メンバーのウィザードが引退してしまったなんて話よく聞きますし」

「ランカーたちの話って……スレとかですか?」

「いえいえ、フレンドですよ。というか、私もランカーの一人のつもりですし……」

「えっ」


 そういうチャールズさんのレベルは48で、私とわずか2しか変わらなかった。


「ランカーって、そんなに低いんですか?……あ、いえ、そういう意味ではなくて!」


 思わず出た私の言葉に目を丸くしたチャールズさんを見て、慌てて弁明になっていない言い訳をする。するとチャールズさんは困ったような笑みを浮かべた。


「いやいや、ミアさん色々知らないみたいだし、気にしてないよ」

「すみません……」

「いいって。それでランカーたちだけど、今の最高は確か53だったかな?」


 チャールズさんの言葉に、私は今日何度目かもわからない衝撃を受けた。

 現状の最高レベルが53。私とは7差があるが、装備可能レベル的には一段階しか違いがない。最近は友人たちのモチベ低下も相まって攻略が劇的に遅くなっていたし、もしかしたら私たちってランカーだったのでは?という疑問が湧いてくるほどだ。


 ちなみに、ミアは呑気にそんなことを考えているが、現実は紛れもないランカーであった。そもそもミアたちは毎日毎日一日のほとんどをゲームに費やすような廃人たちの集いであり、その中でもゲームに関してあまり調べないようにしているミアは少数派で、知らず知らずのうちに仲間たちから効率プレイを教えられてきていた。スレでアーチャーのことが話題にならなかったのも、ミアの友人たちが置かランカーに対して優位を保つために秘匿していたからだったのだ。


 そして現在。遂に数多のVOランカーたちにも、ミアという超火力アーチャーの情報が出回ろうとしていたのだった。

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