3. 発作を抑える考え方


 中学生になった後も、相変わらずパニック発作は続いていました。

 この頃の発作はひと月に1、2回あるかどうか、という頻度でした。

 記録を付けていなかったので定かではないですが、幼少期よりは大分少なくなっていたように記憶しています。


 中学生くらいになると、すでに身近にインターネット環境がありました。


 この頃くらいの年齢になれば、自分に起きている症状について、何かしら知識をネットから得ていてもおかしくないのですが、

 今ほどSNS等が発達していなかったこともあり、未だに「自分に起こっていること」に名前がないままの状態でした。


 改めて考えると、自分でも不思議に思います。


 もしかしたら物心ついた頃から自分にある症状だったので、自然と「知る」ことを避けていたのかしれません。



「パニック発作は一度起きたら止められない」と苦しんでいた日々に変化が起きたのは突然でした。

 中学生最後の春休み中、高校入学直前の時期です。

 パニック発作が突然治まったんです。


 いつものように、夜、皆が寝静まった中で突然にパニック発作が始まり――突然にフアッと浮上できたような感覚を覚えました。


 次々と浮かんでくるイメージや言葉の思考に溺れている自分が、やっと水面から顔を上げられたような。息ができたような。

 そんな感覚でした。


 この夜初めて、私はパニック発作を自分自身で抑えることができたんです。

 発作を抑えるのにどのくらいの時間を要したのかは……覚えていません。


 この時、ほんっっとうに、嬉しかった。


 私はワケがわからないながらも、「自分が自我を持てたからだろうか?」と受け止めていました。

「自我」イコール「大人」になったような……勝手に論理づけて納得していたんだと思います。



 発作を抑えられた時、私がやったこと。

 パニックを起こしている自分を「俯瞰で見た寸劇」にすることでした。


「俯瞰で見る」とは自分以外の視点を持つように強く意識することでした。


 自分の中に、3つのキャラクターを作るんです。

 例えば、Aはパニックを起こしている自分 Bは状況を俯瞰で見て分析する自分 Cはパニックを起こしたAを優しく慰める自分に設定する……


 Bがパニックを起こすような状況ではないことを冷静に伝えて、CはBの分析をもとに慰めに徹するようにするんです。


 パニックを起こしているAに対して、Bが「今は夜で寝てるだけだよ。いつもと同じだよ」と教えて、Cが「なにも怖いものなんてないよ!安心して!」と慰め励ますイメージ。


 要は「自分で自分を励まそう」戦法!です。


 とにかく自分以外の目線を持つように努めるんです。

 滑稽なことかもしれませんがパニックを起こした時は「冷静に状況を俯瞰でみること」が重要な感覚だと思います。


 俯瞰で見ることによって、パニックを起こしている自身の心と、実際の状況に落差を感じやすいからです。


 私の場合は、この考え方でパニック発作を自分自身で抑えられるようになりました。

 すぐに再発もありえると考えましたが、不思議とそれ以降は発作を起こすことはなかったんです。



 今思い返すと、実際に発作を抑えられるようになる前にヒントとなった出来事がありました。


 私としては珍しく昼間の外出中にパニック発作の予兆を感じた時なんです。


 いつもはない状況に動揺しながらも「人前でパニックを起こしてなるものか!」と必死で冷静になるように意識したんです。

 この時に状況を俯瞰的に見るように努めた結果、発作を未然に防いだことがあったんですね。

 この体験が発作を抑えられるようになるきっかけになったんだと思います。



 私には、このようなきっかけがあってパニック発作を抑えられるようになりました。

 けれど、パニック発作の状況は千差万別で、現れる症状も、恐怖の対象も違うものだと思います。


 だから「絶対にこれで治る!」なんて特効薬はありません。

 けれど精神的なことって、案外簡単なきっかけで変わる一瞬があるものだと私は思うんです。


「冷静に状況を俯瞰でみる」


 そう強く意識するだけでも、発作を抑えるきっかけになるかもしれないことをお伝えしたいです。

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