2. 勇気を出して、聞いてみた
小学生になると、ぼんやりと自分に起こっていることについて考えるようにはなっていました。
「名前のないアレ」は一体何なのか……
当時の私は、原因について考えるよりもどうすればアレが起こらないのか?
まずそこをどうにかしたい。その一心でした。
幼いながらパニック発作が「夜」に起こることだけは分かっていたので、必死に対策を考えていた記憶があります。
当時の私が考えた対策は……ひとりで寝ないこと!
ひとりで眠るより、誰かと一緒の方が恐怖が薄れるだろう…そう考えて、とにかくひとりでは寝たがらない子供になっていました。
成果はひとりよりは幾分マシな程度でしたが、私にできる対策なんてこれくらいしかありませんでした。
その当時の家庭状況はというと……小学生の頃も、両親のケンカが絶えない家庭でした。
ケンカに対して慣れっこになる反面、傍観する私は常に緊張していたことを覚えています。
泣きたいような、笑い出したいような……あの時の気持ちを、今でも言い表すことはできません。
一度、ケンカの真っ最中に、親戚の家に電話をしたことがあります。
他の大人に助けを求めたら、止めてくれるかもしれないと思ったからです。
私の思惑通り、その時はケンカが収まりましたが……後で「二度とそんなことをしてはいけない」とキツく言い聞かせられました。
今思い返してみると、両親にとっては恥をかかされた出来事だったでしょうね。
その一件の後も、ケンカの絶えない日常が変わることはありませんでした。
パニックと家庭状況……その当時の私はどちらも「仕方のないこと」として捉えていたように思います。
あまり深くは考えたことがありませんでしたが、小さな私は両親のケンカを目の当たりにする度に、ストレスを受け続けていたのかもしれません。
自分に起こっていることがフツーではないかもしれないと気付いたのは小学校高学年に差し掛かった頃の話です。
当時の私は、パニック発作のことを他の皆も日常にあるものだろうと考えていたんですね。
――夜に起こる「しんどいアレ」をどうしているのか……
――他の人の話を聞けばアレを早めに終わらせる方法がわかるのかもしれない。
初めてその可能性に思い至り、ある日、勇気を出して聞いてみたんです。
多少遠回しな感じで「突然、気持ちが変になったり…パニックみたいになった時ってある? そんな時どうしてる?」と聞いてみました。
相手は特に親しくもなかった当時のクラスメイトの女の子。
その子は、少しだけ考えてから「そんな気持ちになったことないよ。だからわかんない。」と答えてくれました。
あまりにあっけらかんとした回答に、聞いたことを後悔して、私は話を終わらせました。
その日の夜、意を決して母親にも同じことを聞いてみました。
同じく母親も「そんな事になったことはない」と答えました。
―――ショックでした。
クラスメイトの子は私と同じく子供だし、そういう可能性もあり得るかと納得はできていました。
でも、大人である母親が「なったことがない」とは。
その日は何事もなかったかのように振舞っていたけれど…心の中ではかなり動揺していました。
――アレはおかしなことなんだろうか?みんなアレに苦しんでいるのだと思っていたのに……
――みんなに普通に起こっていると思っていたアレ。では、アレは何だというのだろう……
確実な違和感がそこにはありました。
けれど、私はそれ以上誰かにアレについて聞くことをやめました。
自分を守るために、違和感にずっと目を背けていたんです。
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