グレ2
朝会に来た担任の先生も、各授業の先生達も、最初は驚いて、そして見なかったことにして授業を始めた。
噂を聞きつけてやってきた生徒指導の先生もわざわざ教室にやってきて、授業の途中でカナちゃんを呼んで話をしようとしたが、
「あぁ?」
と言ったカナちゃんに恐れをなして
「ま、またあとで……」
と逃げていくことしか出来なかった。誰も何もカナちゃんが怖くて言えない。皆、ギャップの大きさについていけていない。
やはりカナちゃんはそうだった。カナちゃんは見かけだけグレていた。中身までは完全にグレていなかった、いやグレられていなかった。なぜならカナちゃんは優等生だからだ。それから抜けられていないから。それが染み付いて離れられないから。その証拠にカナちゃんの行動にそれが現れていた。
僕はカナちゃんのことならなんでも知っていた。僕は内心楽しんでいたけれど同時に心配でもあった。
「カナちゃん! ねぇ、待ってよ! カナちゃん!」
僕は学校が終わってすぐ足早に帰るカナちゃんを帰路で引き留めようとしていた。いくら声をかけてもカナちゃんは止まる気配はなかった。
「カナちゃん!!」
痺れを切らしたのか、
「もう何なのよ?!」
そう言ってカナちゃんは振り向きざまに激怒した。僕はカナちゃんの手首をとった。
「ほっといてよ!!」
カナちゃんはそう叫んだ。僕の手を振り払ったカナちゃんはその反動で地面に尻もちをついてしまった。
「ごめん! カナちゃん! 大丈夫?!」
本当に見かけだけだった。カナちゃんは全然強くなかった。振りほどいた手に全然力は入っていなかった。やはりカナちゃんはただの女の子だった。
「……もう……嫌だ……」
グレ初めてまだ初日なのに、もう弱音を吐いたようだった。
「どっちが本当の自分か、分からない……どれが正解なのか、分からない……」
「……」
カナちゃんは、昨日、先生たちに
「現実を見なさい」
と言われた。期待に応えるために必死に努力してきたのに、先生たちは
「私たちの高望みだった、期待しすぎた」
と言った。努力は報われないと知った。だから、その反動でカナちゃんはグレた。
「どうして、そんな恰好しているの……?」
「わ、私はこんなのでしか本当の自分を表せないの!!」
本当に漫画で見ただけのような浅い知識。本物を知らない。
グレたカナちゃんは、今まで勉強の敵となるような欲望を全部さらけ出した本当の姿のようにも見えたが、同時に、勉強が好きなカナちゃんの嘘の姿のようにも見えた。カナちゃんの神経質で不器用で極端な性格が生んだ結果だった。
「み、みんな、本当は私のこと馬鹿にしていたのよっ!!」
「……」
カナちゃんは自暴自棄になって、地面に拳を殴りつけていた。
「……あ、ご、ごめん、タイちゃん……タイちゃんに怒鳴っちゃって……何回も……」
「……もういいよ、カナ」
「え……?」
「カナちゃんはやはり俺が見込んだ女の子だよ……昨日のカナちゃんも今日のカナちゃんもどちらも美しいよ……」
「え、あの、タイ、ちゃん……? ん……っ!!」
俺はひざまずいて、カナちゃんの顎を右手でグイっと唇が触れそうな距離まで引き寄せた。
「んんっ」
「俺が、今日から守ってあげるよ、カナちゃん」
「……?」
「俺は暴走族の総長、タイガだから」
「ん?!」
俺が顎を掴んでいるせいで上手く喋られないカナちゃん……。
「今日も可愛いね、カナ……」
「んん、んっ!!」
両手を使いながら抵抗するカナちゃんの後頭部に左手をそえ、さらにグイっと引き寄せると、唇同士が触れ合った。カナちゃんの唇は思った通り柔らかかった。昔から見ていた時から。
「んっ、タ、イっ」
カナちゃんは最初は抵抗していたけど、最終的には熱いキスでとろけてしまったようだった。
唇を離すと、そこにはカナちゃんの真っ赤な顔があった。小さい時に喧嘩して怒った時と同じ顔……。
「はぁ……はぁ……」
「あぁ、カナちゃん……」
「ふぇ? んん?!」
俺はもう一回カナちゃんの唇に噛みつくように強引に熱いキスをした。次、唇を離した時には、カナちゃんは気絶しそうになっていた。俺に体をあずけて寄りかかっていた。
ねぇ、カナちゃん。どうして俺は強くなったと思う? それはカナちゃんのお陰なんだよ? カナちゃんが自覚していないその可愛さ、美しさに寄ってくる男に勝つためだよ。その男を懲らしめるため、だよ……。
陰キャみたいな生活は終わりだ。クラスの皆を支配してしまう力を持つカナちゃんは、俺が支配する。カナちゃんは俺には叶わない。
ようこそ、こちらの世界へ……カナちゃん。
今にも意識を失いそうなカナちゃんを左手で支え、カナちゃんの顔に右手を添えて、俺はカナちゃんの目を見つめた。
「カナちゃんは、カナは、誰にも渡さない」
グレカナ。 ABC @mikadukirui
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