第15話 過去

 クロは、語り出した。

 3年前のある日、クロはニンジン城を訪れた。その日は、勇者結成選抜が開催される日だ。

 ニンジン国は、当時から神童と世界中に名が知れ渡っていたサマダを勇者とし、それに付いていける人を各地からかき集めていた。これは、それを決めるためのものだ。

 勇者一行の構成は、サマダに加えて、魔法使い、回復術者、前線戦闘員の計4人の予定だった。クロは、勿論術者として応募していた。

 クロは、実技試験に加えて筆記試験もあったが、それらを難なくクリアし、合否発表は、数日後、城の前の掲示板に張り出されることになっている。クロは、それまでの時間を親と過ごすために、一旦、家に帰ることにした。

 その帰り道、彼は奇妙な光景を見た。

 サイゴウ国のカメの姿が、ニンジン城の窓から見えた。ニンジン国とサイゴウ国とライゴウ国は、同盟の仲である。なので、彼がいること自体はおかしいことではないように思える。しかし、カメと言えば、悪名高いサイゴウ国の参謀長官として有名である。参謀長官がわざわざ他国へ赴くのは変だ。クロは、何か嫌な予感がしたが、あまり気にせず、そのまま帰ることにした。

 その後、勇者一行は、サマダ、クロ、アイ、オノと決まった。

 彼らは、交流会を開き、約1年間の実践演習に取りかかった。ニンジン城周りや、同盟国の敷地内で魔物狩りをした。

 そんな中、勇者一行はサイゴウ城へ訪れたことがある。その城の王は、一行を手厚く迎え入れ、食事や寝床、さらには数多くのアイテムをプレゼントした。

 サイゴウ国は隣国と比べて、勇者が現れなかった。なので、その分、我々を応援してくれているとクロは、考えをまとめた。

 サイゴウ城で泊まった日の夜、クロは、カメがサマダの部屋に入っているのを見た。クロはカメを警戒していたので、次の日、サマダにどんな話をしていたのか聞いたら、「戦術的な」とだけ返された。

 一年経つと、勇者一行は、ニンジン城を旅立った。魔王の城を目指し、多くの体験をした。そして、旅の途中、サマダはちょくちょく魔王の日記についてブツブツ呟いていた。クロは、カメに教えられたのだなとなんとなく勘づきつつも、サマダを信用していたので、特に危険視はしていなかった。

 そして、遂に、2年の月日をかけ、城に辿り着き、魔王の討伐に成功した。そして、城の地下室に魔王の日記が実際にあった。

 クロは、ここまで話すと、再び酒を口に運んだ。

 「そして、あなたは、魔王の力を取り込み、復讐にでた。」「復讐を知っているのか?」「はい、生き返った後、崩れ落ちたニンジン城の地下を掘り起こし、国の秘密が隠されている部屋を見つけました。なぜ、ニンジン国の王族ばかりを殺したのか。なぜ、ライゴウ国を狙っているのか。あなたの故郷は、ライゴウ国の利益のために潰されたそうですね。そして、当時そこを総括していたニンジン国は、目先のカネに目が絡んで、村の人々を裏切った。」「ああ。」サマダはすっとしたようで、相槌を打った。

 「ライゴウ国の王を殺すつもりですか?」クロは、尋ねた。「いや、俺の故郷が潰された時と今はとでは、王が違う。俺が殺したいのは、俺の目の前で父親を笑いながら殺したシマウマだけだ。」サマダは、そう言うと、クロを睨みつけた。

 「あのシマウマですか。なるほど。」クロは、残りの酒を飲み干し、何か考え始めた。

 サマダは、それを見て、「それで、呪いを解くとか言ってたが、あれはなんだったんだ?」と、いらつきながら言った。

 「ああ、申し訳ない。話の続きをしましょう。カメの話なんですが、魔王の日記をあなたに伝えたのは彼ですか?憶測ですが、もてなしの引き換えに、日記を持って帰ってきてほしいみたいなことを言われましたか?」「よく分かったな。しかし、俺は渡すつもりはなかったよ。」「カメはおそらく、それを狙っていました。二段構えにしていたのでしょう。もし、渡してくれなくても、サマダが力を取り込んで、復讐に駆られると分かっていて。」

 サマダは、びっくりした顔でクロを見た。クロは、サマダを見つめ直すと、話を続けた。

 「カメの狙いは、サマダにニンジン国とライゴウ国を弱らせること。そして、その隙に、サイゴウ国が2国を攻め落とす。そういう、算段があったのではないかと思います。」

「まさか、いや、」

 サマダは、ハッと何か閃いた顔をすると、「確かに、カメは妙に安直だった。悪名高いカメに相応しくないお願いをしてきた。クロが話した通り、カメは選抜の日、ニンジン城に来たんだ。そして、俺はあいつと話して、信用できる人だと錯覚した。今度、城に来いとまで、言われた。くそ、、利用されていたのか。」

 クロは、己の推理が正解だったと確信した。「呪いは解けましたか?ここまで、カメの思い通りに事が運んでます。ニンジン国は壊滅状態。ライゴウ国は、戦力の数割が消えました。そして、あなたが戦い続ければ、じき壊滅するでしょう。あなたの狙いがシマウマ一人なら、これ以上、無駄な殺生はするべきではないです。もし、サイゴウ国が戦争を仕掛ければ、あまりにも多くの無関係な人が死にます。」

 「分かったよ。」サマダは、うつむき、席を立った。そして、しばらくじっとしていると、急に歩き出し、店を出た。

 外は、昼過ぎだからなのか暑くなっていた。(そろそろ、空いてるかな)と思うと、サマダは、来た道を辿って、宿屋へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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