第16話 サマダ、シマウマを捉える

 サマダが、宿屋に着くと、店の大将が店先に立っていた。

 「あ、どうぞもう空いております。」そう言うと、部屋まであんないしてくれた。

 部屋は10畳くらいの一部屋で、トイレもちゃんとある。

 サマダは、荷物も魔王の体でそれっぽいのを作っていた。なので、大将に「お客さま、お荷物はよろしいですか?」と聞かれると、少し戸惑ってしまった。「まあ、いいです。」とだけ返すと、大将をさっさと部屋から出した。

 大将は、店先のカウンターまで戻ると、店専用の電話機が鳴り出した。受話器を取ると、国からだった。「こちら、ライゴウ国本部。そちらの宿に不審な宿泊者は居ませんか?現在、城に潜入したサマダを追っています。もし、いないのであれば、この話を隣の宿屋にお伝えください。」

大将は、受話器を下ろすと、裏の部屋に入っていき、ゴソゴソと何かの準備を始めた。

 サマダが出て行った個室で、クロはまだ酒を飲んでいた。(死に損ないがやるべきことは全部やった。あとは、サマダさんがどうするか。シマウマ探しの手伝いでもしようか。)クロは、そんなことを考えながらも、涼しくなる夕方を待った。

 サマダは、部屋で一息つくと、何もない床の上に寝転がって、眠りについた。

 何時間か経っただろうか、妙な胸騒ぎに彼は起こされた。窓の方へ目をやると、複数の人影が見える。サマダは、壁に立てかけていた剣を手に取ると、じーっと人影の動きを見つめた。

 すると、次の瞬間、逆側の扉から多くの兵士がなだれ込んできて、サマダに剣を振りかざした。 

 サマダは、魔王の体を駆使し、針で先頭の兵士たちを刺しながら、彼らを肉壁として後ろの兵士たちをとうせんぼうした。

 次に、窓が壊され、数人の兵士たちが入ってきた。

 サマダは、とっさに魔王の体で部屋全体を覆った。そして、邪魔してくる兵士一人を蹴飛ばしながら、窓から外に逃げると、部屋を覆っていた魔王の体を一気に萎ませて、中の兵士たちをまとめて圧殺した。

 外にも、兵士は沢山いた。しかし、カメの言う通りにはなりたくない。サマダは、無視して翼を生やすと、上空に昇っていき、ライゴウ城へ飛んでいった。

 サマダが下を見下ろしてみると、そこらじゅうで兵士達が走り回っているのがわかった。キャーと悲鳴や彼の噂話がどこからともなく聞こえてくる。アリのようにいる広場の町人たちも、一人二人とこちらを指差すと、殆どの人々が彼を眺め出したのがわかった。

 夕方に差し掛かり、空が赤みを帯び出した頃の時間だろうか。サマダは、肌寒さを感じつつも、城壁上のウサギと目があった。

 サマダは、バハムートに変身すると、前と同じように最大魔法で防御壁を破壊した。そして、バハムートのまま城に向かって突進した。

 中に入ると、待ってましたと言わんばかりに、右と左からツルとウマが剣をかざして飛んできた。

 サマダは、人型に戻り、彼らの攻撃をかわすと、翼を生やし、尖塔へ逃げた。ツルは、「水力噴射」で上に飛び上がると、サマダの上を取った。そに気づき、サマダは、城に近づき、ケルベロスに変身すると壁をつたって物陰へ逃げていった。

 ツルは、攻撃が当たらないと分かると、城の出っ張りに手をかけ、開いてる窓を探した。

 サマダは、壁をつたりながら、窓を覗き、シマウマを探した。しかし、見つける前に逆にタカに見つかった。

 タカは、鷹のように変身でき、クチバシで攻撃する。サマダの背後を取った彼は、背中めがけて、突進した。あたる直前に、サマダはそれに気づき、避けることができた。スピードダウンの難しいタカは、そのまま壁に穴を開けてしまった。そして、彼は城内部の壁に突き刺さった。

 サマダは、中に入れる思い、その穴から入った。そこは、肖像画や高級な家具がある普通の部屋だった。

 タカは、その部屋から廊下に続く扉の前でサマダを待ち構えていた。ケルベロスは、彼に毒を吐きつけると、避けて一瞬の隙をくれたので、廊下まで一気に躍り出た。

 サマダは、タカが追ってきているのを認識しながら、部屋を回った。

 しばらく追いかけっこを続けたが、シマウマは見つからない。サマダは、焦っていた。(この城にはいないんじゃ、ほんとはもう死んでいるとか。)

 サマダは、壁を突き破り、城を出ると、そのままバハムートになった。

 (城は危なすぎる。城下町を探そう。)

 そのまま、さっき破ったウサギの防護壁の穴から、出ようとした。

 出た瞬間、バハムートの全身を覆い尽くす、薄い防護壁が一瞬で形成された。

 サマダは、パニックになり暴れるも、その壁が傷つくことはなかった。さらに、その中からだと外気に干渉できないのか、上空にいたバハムートは、真下に自由落下し始めた。

 サマダは、覚悟を決めた。睡眠で僅かながら回復したMPも少なくなっていた。バハムートの最大魔法で囲いをぶち壊した。そして、突き抜けれず跳ね返ってきた自身の火玉を食らうこととなった。

 負傷大怪我を首から肩、両腕に負うも、そのまま翼を生やし、城下町を探した。

 タカが追撃を仕掛けてきた。サマダはヨロヨロと彼の突進をかわすも、体勢が崩れ、人通りの少ない通りにフラフラと降りた。

 地面に横たわっているサマダに、一人の老人が話しかけてきた。「お主がサマダか。今、城に向かっていたからちょうどいい、この悪党が。多くの人の命を弄びやがって。国の英雄シマウマの手によって絶命するがいいわ。」

 サマダは、その老人の顔を見た。彼にとって見覚えのある顔だった。ずっと憎んでいた顔。(神様ありがとう。これで、俺の人生が報われる。)

 そう思いつつ、サマダにはとあるアイデアが頭に浮かんだ。

 サマダは、最後の力を振り絞り、シマウマの肩を抑えた。シマウマも対抗するが、衰えているのか弱っているサマダに歯が立たない。

 その状態のまま、2人は向き合い続けた。じき、サマダは大量出血で死んだ。シマウマは、生き残った。彼は、後からやってきた兵士たちに立たせてもらい、「流石英雄!」と称賛された。


 


 

 

 

 

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