第12話 サマダvsヒョウ

 ヒョウは、第6番隊の安否を確認すると、彼らを第7、8番隊の治療に当てさせた。各隊に、10人ほどの死者を出しているが、一隊は合計で50人くらいいるので、陣形形成には問題ない。回復した兵士から再び、配置につかせた。

 次に、第一番隊の連絡係に前線の各番隊に連絡しに行かせた。サマダがここまで来ていることを知らせるためだ。また、何か作戦があるなら、それを考慮することも伝えるようにした。森に逃げ帰ったサマダを相手に、挟み討ちなどの作戦もできるからだ。

 1時間程たって、空が明るんできたころ、連絡係とツルとウマが兵士達を連れて帰ってきた。

 「ヒョウさん、ただいま。サイさんとサルさんの状況は、どうですか?」ウマが早速口を開いた。「ふ〜ん、少し前から森の方で何か火が出てるのが見える。多分、サマダがバハムートになって、サイかサルと戦っておるな。まあ、あの2人ならやっつけてくれるかもしれんが。」「なるほど、ここも相当荒らされたようですな。ヒョウさんも疲弊していることでしょう。私が、代わりに行きましょうか?」とツルは、森への援護に立候補した。「いや、いいいい、私が行こう。代わりに2人は、自隊含め、ここの隊の統率も頼む。1番隊だけ連れていくよ。」

 ツルは、「了解です。」と踵を返すと、そそくさと離れていった。「ヒョウさん。ヒョウさんなら大丈夫だと思いますが、いざという時の為に、私もバックで、着いて行きましょうか?うちの隊は、そこまで疲弊してませんし。」ヒョウは、ウマのこの提案に2つ返事で賛成し、1番隊を引き連れて森へ向かった。

 ヒョウが、森に着くと、焼き果てた木々とまだ燃え広がる木々が見えた。サイとサルはどこだと、森の中に入り、火を中心に2人の捜索を始めた。ヒョウは、連絡係の部下の死体を見つけると、少し離れたところから彼を呼ぶ声が聞こえた。

 声の方へ行くと、ここだけ不思議と土が湿っていて、燃える木の代わりに倒木が多くあった。そこに、探していた2人の死体があり、サイは手足が焦げ、胴体に穴が空いている。サルの胴体には、穴が複数空いている。2人共、死後数分といった感じで、触れるとまだ暖かい。

 ヒョウは、己の不注意を呪った。サマダがこれほどやるとは、予想だにしなかった。サマダが2人同時に相手し、勝ったという事実は、ヒョウに即刻退却するという判断をさせた。

 ヒョウは、兵士たちを集めさせ、ツルの元まで戻る指示を出した。兵士達も命の危険を感じているのか、駆け足に森を脱出し出した。

 ヒョウは、部下が全員翼を生やし、帰路につき出したのを確認すると、自身も翼を生やした。

 その瞬間だった。後ろから、暴風が起こり、全身赤褐色の最強魔物、インドラが姿を現らした。暴風で、空にいるヒョウと1番隊が全員ががくっと、飛行の操作を見失った。

 そして、インドラは、手に稲妻をため、そこから、ビームのように空の敵を撃ち始めた。

 ヒョウとかれの部下たちは、地上に降りるしかなかった。すると、次に、インドラは手に溜めた稲妻を膨れ上がらせ、それを前方に発射した。集まって、帰路に着いていたヒョウらは、一直線に集中しがちだったので、この稲妻で大ダメージを受けた。

 ヒョウは、なんとか避けることができた。しかし、木をなぎ倒し、地面に足跡を残した稲妻の横穴を覗くと、切断された死体やバラバラになった体のパーツがそこらじゅうに飛び散っているのが見えた。

 サマダは、人型に戻り、ヒョウの分析をした。光魔法使い、聖剣、聖弓矢、聖盾、を作る一方、自身が火だるまとなり素早いスピードで動くことも可能。

 サマダは、リヴァイアサンに変身し、「強力水鉄砲」を連射し出した。

 次々と、放った方向の木々が倒れ、生き残った1番隊が逃げ惑うのがよく見えた。

 ヒョウは、「化け物が、、、」と呟くと、背中の翼と聖弓を作り出し、リヴァイアサンの斜め上まで飛び上がり、弓は引いた。リヴァイアサンは、ヒョウに的を変更すると、彼に水鉄砲を連射した。ヒョウは、それらを華麗にかわしながら、矢を放つ機会を窺った。

 サマダは、焦っていた。ヒョウは、素早く、強かった。焦れば焦るほど、水鉄砲はヒョウから離れたとこを通過した。ヒョウを倒しても、次なる敵がいる、あまり無駄にMPを使いたない。連戦で、彼のMPは半分を切っていて、それが強い不安感をもたらしたのだ。

 全く当たらない水鉄砲に、ヒョウは隙を見つけると、弓を引いて離した。矢はリヴァイアサンの首元に大きな穴を開け、大ダメージを負ったリヴァイアサンは倒れそうになった。サマダはすぐに千手観音に変身し、自身を回復させた。

 ヒョウから更なる攻撃が加わった。サマダは、自身の回復と共に放たれた新たな矢に反応し、刺さる直前で手をニョキニョキと沢山は生やし、矢に向かって「千手連射パンチ」をお見まいした。聖矢が粉砕すると、そのパンチはヒョウに向かった。

 ヒョウは、全身に火をまとい、連射パンチを無駄なくかわした。

 10数秒、この状態が続くと、1番隊の生き残りが1人、千手観音に切り掛かった。しかし、ヒョウに向いていた手が一本、それに向かって彼をぺちゃんこにしてしまった。

 ヒョウは、それを見て、部下の安否を心配し、パンチが届かなそうなところまで逃げると、大声で「全軍たいきゃ〜く!!!」と、叫んだ。

 大声を出すと動きが鈍くなり、さらに観音のパンチが伸び、一つ当たってしまった。ヒョウは、地面に叩きつけられるも、すぐ回復し、一命を取り留めた。

 サマダは、当たった感触を感じると人型に戻り、隻眼を使った。聖矢を囮に、聖剣を携えて、死角から切り掛かってくる。

 サマダは、考えた。(千手パンチを避けるほどの瞬足。何なら当たる?)

 ヒョウは、音を大きめに出して矢を放つと、聖剣を右手に、聖盾を左手に持って、翼を生やし、火をまとい、少し右に回りながらサマダに突進していった。

 サマダは、矢が飛んでくる前にそれを避けおき、ヒョウの突進を待った。

 ヒョウが、人型のサマダを見つけると近づき、彼を捉えた。盾を捨て、剣を両手に持ち、サマダの体に大きく振り下ろした。

 しかし、彼を斬ることは許されなかった。サマダの周りには、魔王の体が細い網状になって張り巡らされていた。ヒョウの剣の刃がそれに当たると、剣の動きが一瞬鈍くなり、彼自身の動きも鈍くなった。それを狙って、地中から針が複数伸び、ヒョウの体を貫いた。

 複数の穴が空いたヒョウは、ハァハァハァと息を出すと、最後の力を振り絞って、サマダに再び斬り掛かった。

 魔王の体は、それも許さず、サマダから発せられる針で、ヒョウを刺し飛ばした。

 激戦のような物音を聞いていたウマと5番隊がやっと森に着いた。すると、1番隊が数名、森から出てきて、「だめだ、俺らだけでは、はぁはぁ、てっ、撤退しろと、ヒョウ様が、、、」とすがるようにウマにいった。ウマは、びっくりして、「今、ヒョウさんが一人で戦っているのか?」と聞くと、「ああそうだ」と返答がきた。

 ウマは考えた。考えた上で、退却を指示した。(ヒョウさんは、死ぬかもしれない。だけど、俺らが参戦したところで、無駄死にするだけだ。それだけ、サマダは強い。ツルに報告して、作戦を立て直したほうがいい。)

 ウマらは、ツルの元へ帰っていった。

 

 

 

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