第5話 サマダvsクロ

 ニンジン城からテンジン山に続く公道に、サマダの姿があった。

 クロの襲来を待っているのだ。彼は、クロやオノ、アイがニンジン城に戻ってくることを知っていた。サマダを倒せるのは、彼等3人だけだからだ。

 彼がいるところは、木がほとんど立っていない荒野だ。木が多いところでは、術者であるクロにとって地の利がある。サマダは、それを避けたかった。

 しばらくすると、遠い地平線の向こうから何かが走ってくるのが見えた。そのうちそれが馬車であることに気付くと、サマダは、周囲に「吸収結界」を設置した。

 馬車は、速力を変えず、公道を走ってきたので、サマダは、見過ごすことにした。しかし、この公道は、普段から人通りが少ない。彼は、一応警戒を向けた。

 かなり近くまで来ると、それが一級の馬車だとわかった。サマダは(あの馬車に、クロは乗ってないのか?おかしい、何故仕掛けてこない。この公道は普段人通りも少し、あの馬車は一級馬車じゃないか。乗るとしたら、クロくらいじゃないか?)と考えた。

 そのうち、クロへの伝達がずいぶんと遅れたとか、来る途中でやっかいな魔物と遭遇して、手こずっているとか、挙げ句の果てには、そもそもクロに伝達がいってないなんてことがサマダの頭の中をよぎった。

 馬車が横切る瞬間、中の人をチラッとみたら、貴婦人のような金持ちの中年女が見えた。なぁんだと、ため息をついた瞬間、サマダの体は燃え盛り、手足が全く動かなくなった。

 サマダは、豪炎の術と金縛りの術の重ね合わせを食らったのだと察知すると、肩から腕を生やし、全身に巻き付いている、目に見えない鎖をちぎった。その次に、最強魔物アクエリアスに変身すると、全身を巨大なしずくに包んで、豪炎を解いた。

 サマダは、馬車を睨み付けた。しかし、馬車の扉には開いた形跡がない。馬も何事もないように平然と走っている。

 激しい不安を感じながら、サマダは、クロの過去の戦闘パターンを回想した。

 しかし、クロ自身後衛回復ばかりで、戦闘シーンがあまりない。印象に残っているのは、「催眠」と「装術形白灼」という、辺りが真っ白になる術くらいである。設置した「吸収結界」がいつの間にか解かれ、そのこともまたサマダを不安にさせた。

 そんなサマダに、次なる一手が降りかかった。八方向から、猛速球で槍が飛んできた。サマダは、ひらりとかわしたが、それは罠だった。気づかないうちに、爆発札の付いたボールがコロコロと転がってきた。槍は幻視だと、気づいたが、その時既に遅し。サマダは爆発に巻き込まれ、また全身に大怪我を負った。(また、最強魔物千手観音を使うしかないのか)と、思いつつもサマダは、自身の残りMPを考え、急速に作戦を練ることにした。

(まず、敵は見えない位置にいる。そして、いつの間にか俺に幻術をかけ、槍を見せた。ボールの転がってくる方向なんて、移動すればいいから、考えても無駄だ。となると、最初の豪炎と金縛りが肝か。)

そうこう考えているうちに、次の攻撃がやってきた。

 サマダは、仕方ないなと観念すると、巨大な千手観音に変身し、辺り一面を5振りした。周囲が一掃されると回復魔法を使った。

 人間に戻り、

(クロの幻視発動の条件は、クロが被体の姿を2〜3秒じっと見ること。馬車が通り過ぎるタイミングで、俺の死角になっていたのは、俺の頭の上だ。馬車を俺の逆側から降り、飛行の術で俺の上を漂っていたのに違いない。)と考えた。ここまで、推理を進めると、サマダはある作戦を思い付いた。

 クロは、サマダから少し離れた所に、穴開きの術で開けた穴に入っていた。そして、ときおりそこから顔を出して、敵の様子を眺めていた。

(やはり、あれは魔王を取り入れた力。そして、日記に書いてあった通り、伝説の魔物の力が使えるようになっている。しかし、魔王のあの理不尽な技を使ってこない。まだ、未完成なのか…。彼は準備を怠らない性格、何故。)

クロは、物思いにふけっていた。

 彼には、ここに来る途中、作戦を立てていて、決めていたことがあった。それは、最後は、「装術形白灼」でとどめを刺すことだ。この術の発動条件は、相手の戦意が損なわれることで、発動効果は相手の戦意を徹底的になくすものである。クロは、サマダを殺したくなかった。そのため、彼を生け捕りにしようと考えていた。具体的な作戦内容は、サマダのMPを消費させ、最後は分身の術で圧倒するというものだ。

 ここまで、この作戦は順調そうに思えた。しかし、ここの油断がクロにとって、身を滅ぼすきっかけとなった。

 クロは、そこに突っ立っているだけのサマダに、更なる幻術をかけた。

 サマダには、空から複数の大砲がこちらに向かっているように見えた。幻視とわかっていても、紛れて本物が落ちてくるかもしれないので、避けなければならない。彼は、1つ2つとかわすも、爆風などは感じなかった。しかし、3つ目は、本物だったらしく、油断をしていたサマダは、爆風に押し倒された。そして、肩を押さえながら、土煙の中、岩陰に隠れていった。

 しめたと思ったクロは直ちに、分身の術を展開させ、多くの彼を召喚させた。

 その瞬間、クロの分身は一瞬で消滅し、クロは、唖然とさせられた。

 彼は、すぐサマダを探したが、どこにいるのかわからなかった。しばらくキョロキョロしていると、急に後ろに視線を感じるようになった。サマダはクロの真後ろに立っていたのだ。

 物が言えない様子のクロに、サマダはこう語りかけた。

 「詰めが甘かったなクロ。俺様の持っている技「マリオネットの呪い」を、降ってくる大砲の破片に当て、お前の居場所を探知させてもらった。」「な、しかし、あの技はサマダ殿も一度使うと、疲労で倒れてしまう程の強力魔法。いつの間に、MPをそんなに…」「違う違う、ククク。俺様がここに瞬間移動できた理由が分かるか?俺様はもう魔王なんだぜ?」「魔王…、まさか、地中に…そして……はっ!、馬車か」「そう、魔王の体を地中に張り巡らしといて、馬車の女から、MPを、回収させてもらった。あの女は、俺が幻術にかけられる前に見たものだから、幻術でもなんでもない。俺にとっちゃあMPの源になる。」「そして、本物の爆発の後すぐ、魔王の体を伝って、私のところへ移動。ああ、なるほど。」「そういう事だ、クロ今までありがとな。」サマダは、クロを足で押し倒した。

 クロは、起きあがろうとすると、サマダの足がそれを上回った。

 サマダは、ニヤッ笑うと、腰の剣を抜いて、クロの心臓に突き刺した。

 しばらくして、クロの脈が取れなくなると、サマダは勝利を確信し、意気揚々と、その場を立ち去っていった。

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