第6話 オノの死

 クロとの接戦に勝利したサマダは、テンジン川を超えたところにあるサイゴウ南町の宿屋で、休息をとっていた。彼は、5日間、ひっそりとした生活を送り、疲労が完全に回復するのを待った。

 サイゴウ南町は、人口200万人の港町で、正式にはサイゴウ国の支配下に分類されている。しかし、サイゴウ城からは遠いため、隣国のニンジン国やライゴウ国が貿易に利用できる珍しい港町でもある。そのため、ここは、多種多様な人種、服装、宗教が入り混じっていて、サマダの存在を隠すためには、うってつけの町である。

 勿論、それはニンジン城の人間にも感づくことだろう。しかし、この大きな町で人1人見つけるのは、弱りきったニンジン国の兵士では、不可能に近かった。サマダも宿泊期間、1度、ニンジン国の兵士を見たが、それっきり彼等とは出会っていない。

 サマダが、この町に止まった理由は、他にもある。ここは、オノの故郷からニンジン城へ向かうに、必ずと言っていいほど、通る町だからだ。彼は、オノもアイも迎え撃つつもりだが、オノの方が対策が練りやすいといった理由で、アイを後回しにした。

 サマダは、閃光伝書鳩を使い、オノがこの町に来るのが、計算だとあと何日後かばかり考えていたのだが、よくよく考えてみると、わざわざサマダが待ち伏せていそうなとこを通るかと不安になった。作戦変更、サマダは、オノの故郷へ向かうことにした。デンジン川の旅客船で、サンソン村へ向かい、そこから、徒歩または、馬車などで山を3つ超えた後、次は海を渡って、オノの故郷へ着くという流れになっている。サマダは、とりあえず、サンソン村まで行くことにした。

 帰宅した瞬間だった。オノの肩に着地した鳥は、クチバシの畳まれた紙をオノの顔に押し当てた。オノは、(なんの手紙だ)と思いつつ、疲れていたので、それを机に放り投げると、風呂に入ってぐっすり眠ってしまった。

 オノは、目が覚めると、旅の疲れか、元々家でゴロゴロしているのが好きな性格なので、特に活動もせず、読みかけの本を夕暮れまで読んでいた。そして、そろそろ、朝飯か昼飯でも食いに行くかと思い、服を着替え、近くの商店街へ向かった。久しぶりの故郷のカツ丼には感動し、昔よくお世話になった親父さんに、「戻ってきたのかい。この町で、英雄が出たってみんな大騒ぎだよ。ほら、あの昔よく遊んでた広場に行っておいで、みんな待ってるからさ。あ!あと、それと、今晩はうちはおいでよ、両親が亡くなって、家にいると淋しいでしょう。」と、ニカッとした笑顔で話しかけられた。

 オノは、親父さんの言われた通りに、広場に向かった。すると、バルーントンネルやオノの看板が沢山あった。オノは、今更ながら、自分がやったことの偉大さに気付いたのか、涙を流し、彼に気付いた民衆達は拍手喝采を送った。母の兄弟に父の兄弟、そして、彼等の子供達、妻旦那、、昔の友達のタケルとヨシノブ、近所のタエコさん、みんなと熱い握手を交わし、クロは大泣き状態だった。

 その晩は、オノは、親父さんに言われた通りに、彼の家に行き、ご馳走を頂き、思い出話を語った。オノが、思い出話を語り始めると、奥さんがそこらじゅうから人を集め始めたので、ちょっとした記者会見になった。

 記者会見が終わり、夜が更けた後でも、大人達は子供達を寝かしつけ、酒を飲んで、楽しく語り合った。そして、オノは、自宅に戻らず、呑んで騒いでを何日も繰り返した。

 夜が明けると、水面の向こうに、オノの故郷が見えた。サマダは、自室に戻り、身支度を済ませちゃうと、船降り場に一番乗りできるよう、甲板に出た。

 サマダは、予定通り1番で船を降り、オノの捜索を始めた。サマダ自身、ニンジン国へ宣戦布告した分、指名手配犯なので、人の少ない道を通りを中心に探した。だが、人が少ない分、オノなんか見つかるわけもなくて、渋々適当な町人に、オノの家を尋ねた。すると、「ああ、オノさんの家ね。あの丘を登る途中にある黄色の屋根の家だよ。でも、オノさんは、ここ最近、町人達と呑んだくれてるから、家には、いないかもね。」と教えてくれた。サマダは、礼を言うと、オノの家に行き、不在を確認すると、こっそり家の中に入って行った。旅で使ったカバンや武器などが部屋に転がっていて、いかにも帰宅してから、何もしてないないといった雰囲気だった。サマダは、しめたと思い、この様子だと、伝書鳩の手紙を読まず、遊びほうけてるなと確信した。そして、決定的な証拠を見つけた。それは、畳まれたままの手紙だ。(開いた形跡がなく、荷物が置いてあるから、この町にもサマダの反乱の話はまだ行き届いてない。なんなら、こんな小さな町には、来ないのかもしれない。)そう思うと、サマダは、ニヤッと笑い、オノ暗殺計画を開始した。

 「そろそろ帰ろうか、酒も飽きてきたし」と、オノが言うと、ずっと一緒だった大人達も「そうだな。」と賛同し、ぞろぞろと帰る流れになった。オノは、大きな欠伸をして、指で耳を掻いて、フラフラと家までの近道の路地裏に入った。歩きながら、(平和だなー)と思いつつ、しみじみと偉大な冒険の物語を頭の中に流して、背伸びした。その瞬間、オノは背中を剣で突き刺された。的確に、心臓を狙った犯人は、勿論サマダだ。オノは、びっくりして、「サマダ!おっ、久しぶり。なんだよ、お前、こっちきてたのかよ。え、剣刺さっているんだけどさ。」と変な口振りをした。サマダは、剣を一度抜き、再度、こちらに向き直したオノの胴体を貫いた。オノは、「なんの冗談だよ。おい、意味わかんねぇって。」と、言い残して、命を引き取った。サマダは、念のためオノの死体を何度も刺し、血のついた剣をオノの服で拭くと、スタスタと去っていった。

 この暗殺の話は、ニンジン城まで届き、命からがら生き残った王は、犯人はサマダだと断定づけた。

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