第12話
「そうか」
仔細は訊ねてこなかった。しかし、そんなわけないだろうと、山内が笑い飛ばすこともなかった。ただ僕の一言一言を聞き逃すまいと、必死に耳を傾けている様子だった。
「僕は依頼されたんだ。彼女から。告白の代行依頼だよ」声が少しだけ震えた。緊張を隠すように息を吸う。そして、形にする。ヒカリの想いを、形にする。「わたしは今でもあなたのことが好きです。あなたは今、わたしのことをどう思っていますか?」
僕が言い切るのと、山内が泣き崩れるのはほぼ同時だった。山内の咆哮が周囲の空気を震わせる。僕は彼の隣に座って、缶コーヒー片手に、彼の返事を待っていた。彼の心が落ち着きを取り戻すのを待っていた。
「ごめん」そして山内は、小さく呟いた。「ごめんな、ヒカリ。俺はもう、お前の気持ちには応えられないんだ」
それが、彼の下した決断だった。彼女の告白に対する、彼の返事だった。僕は残りのコーヒーを飲み干して立ち上がる。
「伝えるよ。ヒカリに」
そして、その場を立ち去ろうとした。
「待ってくれ」山内の声にならない声が、僕を呼び止める。「ヒカリに、渡してほしいものがある」
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