第8話
彼女はそれからもいくつかの依頼をしてきたが、それを僕がこなすたびに本気で喜んでくれた。きっとそれが、僕にとっての何よりの対価になっていたのだ。ヒカリと過ごせる時間が楽しくて、知らず知らずのうちに、勝手に、彼氏面をしていたらしい。
それがまさか、今ごろになって好きな人がいると告白されるなんて、想像だにしていなかった。僕らは一つ屋根の下で暮らしていて、お互いのパジャマを見せ合う仲だと言うのにだ。それでも僕はヒカリに協力しようと心に決めた。その理由はきっと、彼女のことを可哀想だと感じたからに違いない。ヒカリには一切の非なんかないのに、どうして彼女が苦しまなければならないのか。僕は全身全霊をかけて、ヒカリを安心させてやりたかったのだ。彼女がぐっすりと眠れるように、心の不安を拭い去ってやりたかったのである。
「明日こそは、山内に訊くよ。今日でだいぶ仲よくなったしね」
嘘は言っていない。山内の彼女らしき人物は見かけたが、あれは君の彼女か? と訊ねたわけではないのだから。現時点では、ヒカリに告げるべき彼の情報はないに等しい。
お願いします、と深く頭を下げるヒカリ。不意に、胸が苦しくなった。
「ヒカリは」僕の心は声になって落ちる。「ヒカリはいつか、この部屋を出ていくんだね」
そして、彼女が言葉を紡ぐまでには少しの間があった。
わたしには、帰らなくちゃいけない場所があるので。それに、いつまでも佐野さんの厄介になるわけにもいきませんから。
ヒカリの儚げな笑顔は、無理やり作られたもののようにも見えた。
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