第2話

 一年前、わたしは彼に告白して、晴れてわたしたちは恋人同士になりました。

 彼のどこが好きだったのか、ですか? たくさんある中の一つだけを挙げるとすれば、目標に向かって努力し続ける向上心でしょうか。

 彼はバンドサークルでギターとボーカルを努めていて、あの頃はいつも、いつかはプロのミュージシャンになると、自信満々に語っていました。俺たちの音楽で、世界を変えてやるんだって。

 今、笑いましたね? 世界なんて大げさかもしれないけど、わたしは信じていましたよ。今でも信じています。だって、彼の歌は実際に、わたしの世界を見事に変えてみせたんですから。学園祭で彼らの曲を聴いた瞬間、その虜になっていたんです。ギターの方はお世辞にも上手いとは言えないけれど、彼の歌声には芯があって、気持ちがあって……。佐野さんは、あまり興味なさそうですね。続けます。

 わたしは彼との甘い恋人生活を夢見ていました。二人で行ってみたい場所や、やってみたいこと。それこそ少女のような想像力を働かせて、それだけで毎日が楽しかった。でも、それも長くは続きませんでした。わたしがあなたの部屋にいて、こんな未練がましい愚痴を零してることが、何よりの証拠だと思うんです。

 単刀直入に言います。わたしの想いを彼に伝えてほしいんです。そして、できれば彼の返事が聞きたい。彼がわたしのことをどう思っているのかが知りたい。そうですね。言うなれば、告白の代行依頼、ということでしょうか。彼の名前は――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る