第16話 遺書
夏休みの終わりかけに、タケシは逮捕された。ソウタ殺害及び死体遺棄の幇助として、令状が出たのだ。
もちろんタケシは、裁判を起こし、無実を証明しようとした。しかし、ユウタの証言、親戚といた時間と殺害時刻が一致しなかったことから、アリバイがなくなり、控訴が棄却された。
しかし、その半年後、タケシは釈放された。その代わりに、タケ、ケンジ、カズキの3人が逮捕された。
タケはソウタ殺害及び死体遺棄の幇助、ケンジとカズキはタケを匿っていた容疑だ。ユウタも発言を改め、当時自身を助けたのは、タケシではなくタケであったと発表した。
ケンジとカズキは、留置所に入れられたのだが、タケはタケシの逮捕後の12月半ばで自殺をしていたため、手錠をかけられることはなかった。彼は、死ぬ前に遺書を複数残しており、タケシ宛のものもあった。
タケシが遺書を持って刑務所を出ると、家族全員がお出迎えしてくれた。
母は、涙を浮かべ、タケシにハグをした。
「お母さん、良かったわ〜。息子が犯罪者じゃなくて、、」
少しふざけたようなことを言った母の後ろに、父と姉もニコニコした表情で立っていた。彼らの背後に車が停められている。タケシの知らない車だ。
父と姉が一言、労いの言葉をかけると、タケシの視線が気になったのか、父は話し出した。
「あー、車新しくなっているだろ?タケシが釈放と聞いて、新しく買ったんだよ」
車内に入ると、タクシーのような透き通った心地のいい匂いがした。
父はハンドルを握ると、後方を見、「今日は、タケシの出所祝いだ。タケシの好きなところ行こう」と笑顔で言った。
「何がいい?」と訊かれたのでタケシは、「焼肉行きたい」と答えた。
「よし」と、父は頷くと慣れないカーナビで、助手席の母と一緒に近くの焼肉屋を調べ始めた。
車は走り出した。タケシは、遺書が入った封筒をカバンの中にしまい、久しぶりの外の景色を眺めた。
食後、自宅に帰ってきた。久しぶりの愛犬を撫でると、嬉しそうに尻尾を振ってくれた。母が「久しぶりだし、あそんでおいで」と、言ってきたので、首輪に紐を引っ掛けて、散歩に出かけた。
近所の人たちが優しく声をかけてきた。昔の友達も、手を振ってくれた。そして、病院の交差点で、中学校の時によく遊んでいたヒビキと会った。彼は、労いの言葉をかけてくれて、「今度、パーティーするから、来ないか」と誘ってくれた。タケシは、とりあえず「行くよ」とだけ返して、別れた。
時候も進み、すでに2月。タケシは、高校2年生だったが、逮捕が決まり、停学となった。しかし、無実が証明されて、復学ということになっている。2年生の分は、半分以上学べていないので、転校という選択肢もあったが、タケシは、復学選んだ。もちろん、習えてない分はこれから援助という形で、受けることになるだろう。
自室に戻り、自分が去った時と変わらぬ風景にタケシは感動した。家族は、最後まで信じてくれていたんだと感じた。
荷物を整理し、ひと段落つくと、タケの遺書を取り出した。封筒の外からは、わからなかったが、紙が2枚入っていて、結構文章も長かった。
タケシ様へ タケより
僕は、タケシ君に謝りたいことが沢山あります。まず、僕の身代わりに逮捕されたことを謝ります。申し訳ございません。僕は、何も知らずユウタの手伝いをした訳ではありません。友達を守るためにやった行為なのです。しかし、それは誤りでした。ユウタにも殺意は無かったらしく、殆ど事故だったと言われました。ここで、許しを請うつもりはありません。ただ、ユウタにも悪意があったわけではないことを知っていただきたかっただけです。
次に、カズキの話です。タケシ君は覚えていないでしょうが、ユウタは、タケシ君、僕、カズキには自身の罪を告白していました。それをタケシ君だけがループのせいで忘れてしまっていました。当時、ユウタが話した後、タケシ君だけがユウタに自首させようと動いてました。僕は、自分の可愛さ故に誤魔化し、ユウタを擁護してしまいました。そして、カズキは、当初はユウタを守ろうとしていたそうなのですが、彼の兄ケンジからの圧力もあり、ケンジに加担するようになったそうです。
しかし、カズキは、僕だけは守ろうとしてくれてました。それは、ケンジにも伝わっていたらしく、2人は僕のためにアリバイを地道に張り巡らしておいてくれました。
しかし、そのせいで僕の代わりに、タケシ君が疑われて、捕まってしまいました。本当に申し訳ないです。
そして、もう一つ、タケシ君に僕は嘘をついていました。それは、ユウタの姉カップルが行方不明になったということです。あれは、完全にユウタを守るための嘘です。僕は、タケシ君にも、僕たちの実情を知って欲しかったのですが、カズキにしつこく否定され続けていました。タケシ君は正義感の強い人ですから、また出所を薦められることが怖かったのだと思います。
僕は、友達を不幸にしてまで生きようとは思いません。ただ、カズキやケンジのことを思うと、自身の罪を白状する勇気も無いのです。ですから、タケシ君の代わりに僕がもっと不幸になります。
もう一度いいます。僕のせいで本当に申し訳ございませんでした。
タケシは、読み終えると、不思議と目から涙が出てきていることに気がついた。封筒を探ると、(タケシ君が出所したら、これを渡してください カズキへ)と書いてあった。
人殺したら、ループ世界に入ってしまった @konohahlovlj
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