第15話 ソウタ殺し

 え?

 タケシは、口をあんぐりと大きく開け、目を見開いた。タケの方を見ると、彼もびっくりした顔をしていて、それはタケシ以上だった。

 「なんだ君たち、知らなかったのかい?ニュースを見てないのか?」

ケンジは、2人を見つめて、そう言った。

 「あ、はい。全く知らなくて」とタケシは、言う。

 「そうかい。ユウタ君はね、ソウタ殺害及び死体遺棄の容疑で今朝捕まったんだよ。ソウタとユウタは、バイト先が同じだったらしく、二人の間にいざこざやトラブルがあったんじゃないかって言われている」

「バイト先ってことは、隣駅の遊園地ですか?」とタケシは訊く。

 「おー、そうそう知ってたか。ソウタも夏休みバイトで、そこで働いてたんだよ」

 「容疑ってことは、まだ決まったわけじゃないんですよね?」と次はタケが訊く。

 「いや、ユウタは確実に犯人そのものだろう、証拠も上がってる」

「証拠というのは?」

「血のついたハンカチだ。ユウタの家から発見された。犯人は、ソウタを川原の崖から突き落とし、殺害。そのまま死体を川に流した後、血のついた石を小さいものは川に捨て、大きいものはハンカチで拭いたとされている。警察官から、聞いた話だ」

 「そんな、、」タケは、愕然とした表情で俯いた。タケシの頭も色々なものが複雑に入り混じっていたが、ふとあることに考えが行き着いた。

 ユウタはソウタ殺しをしていて、ユウタはケンジに弱みを握られていた。そうか!

 「ケンジさん、ケンジさんはもしかしてユウタが犯人だとすでにわかっていたんじゃないんですか?」

やはりきたかといった顔で、ケンジはタケシの方を見た。

 「ご名答。君はもともと俺のことをずっと疑っていたね。そうだよ、ループは俺の仕業さ。カズキと協力して、ユウタの粗探しをし、警察に情報を流していたんだ」

「やはりそうか!よくも騙してくれたな!カズキも」

カズキは、「いや、悪かったと思ってるよ。ただ、仕方なかったんだ。俺にも色々あってよ」と弁明してきた。

 「なにが、色々だ。恥かかせやがって、、、おい、てことはもしかして、廃墟の噂も嘘か?」

「そうだよ。電灯の光を見たら死ぬなんて、君たちを廃墟に連れて行くための嘘さ。昨晩、君たちが廃墟に行っている間に、警察は、ユウタの家を家宅捜索していたそうだよ」とケンジが答える。

 「じゃあ、ホームレスは?あれはなんだったの?」とタケが訊く。

 「あー、いたね。あれは単なる偶然だよ。なんなら、電灯の光ってのは彼の仕業だと思っているがね。俺が調査してるって言ってたじゃない?それでわかったんだけど、不思議な電灯ってのは実際にあるんだよ、中庭にじゃないけど、でね、それが実際に光るんだよ。調べたら、店長室の隅の方にスイッチがあって、それでまだ光るみたい。多分、あれはホームレスの仕業だろうね。最近出てる廃墟の幽霊話もあのホームレスじゃないのかなー?」

 ケンジは、笑って語りかけている。

 そんな彼にタケシは、新しくできた疑問を吹きかけた。

 「ソウタさん以外にもいるって聞いたけど?電灯の光を見て死んだ人。カップルで女の方は、ユウタの姉だって」

 「カップル?初耳だな。あそこって誰か死んでたっけ」とケンジ、「あいつの家は大家族だよ。誰が生きてて、誰が死んでるのか本人達に聞かないと分からん」とカズキが言った。

 「なあ、誰から聞いたんだ?」とケンジが聞いてきたのでタケシは、「タケが言ってました」と答えた。ケンジは、「もしかしたら、電灯に、本当に呪いがあるのかもね」と言うと、すっと立ち上がって、部屋を出ていった。

 タケシは、しばらくすると、タケに聞いてみることにした。

 「なあ、タケ。カップルの話誰から聞いたんだ?ユウタ?」

 「いや、う、噂で、、」タケは、慌てた様子でそう答えた。

 「何か?隠していることがあるのか?」とタケシが聞くと、カズキが2人の間に入って、「まあ、いいだろ。昼間、警察が事情聴取でうち来てて、大変だったんだから。2人のところにもたくさん来ると思うよ」と言った。

 タケシは、諦めた様子で、立ち上がり「わかったよ。俺、自転車返しに行かないといけないから、もう帰るよ。色々と聞けたしね」と言葉を残して、部屋を後にした。

 タケシは、山井駅まで自転車を漕ぎ、そこから、歩いて帰った。家に着く頃には、もう6時になっていた。

 家には、2人の私服警察が訪れていた。どちらも長身だが、片方は細く、もう片方は服の上からも豊満な筋肉が伺えるくらいのガタイのいい男だった。細身の方は、カガワと名乗り、イカツイ方は、トヤマと名乗った。

 タケシがこの2人に訊かれたことは、主にソウタが殺された日、つまり7月20日何をしていたかどうかだった。ソウタが発見されたのは河口部で、死体は布で覆われていて、それを笹舟に乗せて流されたそうなのだ。山井川の川原は、普段閑散としている。それでも、ここまでのことを短時間、ユウタ一人でやったとは思えないそうで、警察は、共犯者を探しているみたいだ。ただ、タケシにはアリバイがあった。その日、終業式だったタケシは、隣県の親戚の家に行っていた。結果後日、警察からの疑いがなくなった。

 そして、その間、タケシは自室に籠って、ユウタに対する失望感や虚無感を味わっていた。

 LINEで聞いた話だが、カズキやタケにもアリバイがあり、彼らの疑いも晴れたらしい。7月20日、カズキ、タケ、ケンジの3人でカズキの家で遊んでいたそうな。

 

 

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