第12話 廃墟
タケシとタケが廃墟に到着すると、まず外壁の色に違和感を感じた。深夜の真っ暗な空間だと、それは、グレーや茶色をしているように見えたが、実際真っ昼間に訪れると綺麗な真っ白だった。もちろん、建てられて数年経っている建物なので、多少黒ずみや綻びはあるが遠目から見ると、大して気づかれない程度である。実際、ラブホ廃墟は、西洋の城みたいな形をしている。城壁塔には、ポールらしきものが立っていて、閉業する前は、旗がそこで、なびいていたことがわかる。
タケシは、廃墟を眺めながら、近づいた。
タケが先頭に立って、見に覚えのあるガラス張りの扉を開けて、2人は中に入っていった。
「ねえ、その中庭の電灯って2階にあるんだよね?」とタケが聞いてきた。
「らしいね。だから、左側にある階段登ったほうがいいよ」とタケシは答えた。
階段の方を見ると、階段は昼間なのに真っ暗で、不気味さを放っている。タケは、念のためにコンビニで買っておいた小型懐中電灯を取り出した。そして、ゆっくり階段に近づいていった。
「何か、怖いね。本当に幽霊が出そう」
タケが弱音を吐く。
「うん、二階も窓少なかったもんな。俺が先頭を歩こうか?」
タケは、首を横に振って「うううん、大丈夫」と断った。
それでも、タケが怖がっているのを感じたタケシは、タケの背中に手のひらをつけ、時折さすってあげた。
2人は、一歩ずつゆっくり登っていく。
2階も予想通り暗かった。階段から真っ直ぐ続いている廊下が見えてくると、奥の方で光が差し込んでいる窓が右側に2箇所見えた。そして、そこだけ日光で、床が見えるという余計な不気味さを醸し出しいる。
「タケ、とりあえず2階をまわろう」
タケシがそう言うと、タケが「やっぱり代わって」と、懐中電灯を押し付けてきた。
やれやれ
タケシはそう思うと、右手で懐中電灯を受け取り、タケの前にいった。そして、さっきよりも歩くペースを上げて目の前の廊下を前進していった。
基本、前方の床を照らしながら歩いた。
床の模様は、黒の帯線が真ん中にずーっと続いているだけだった。時折、横を照らすも、よくあるホテルの壁や扉が見えるだけだった。
一つ目の窓にたどり着いた。
左の壁にまでは、窓の光が届いていなかったので、懐中電灯で照らしてみることにした。すると、少し開いている部屋扉が見えた。
「おい、ここ」とタケシが後ろに声をかける。
「うん、行ってみよう」
タケシは、ゆっくり扉を押して、全開にした。サッと、光を部屋内に入れると、普通のホテル部屋が見えた。
タケの顔を見て頷くと、彼も頷き返してきた。
よしっ
と心の中で呟くと、タケシは、中腰になり、中に入っていった。
左と右に一つずつ手すりの付いた扉が、交互に見える。それらを無視して、奥まで行くと、2つのベッドが並べられている部屋があった。
ベッドを照らすと、奥の方には毛布や枕が置かれていて、人が住んでいるような雰囲気を出している。そして、手前のベッドには、シワシワのビニール袋が2つ置かれている。
「これ、ホームレスの、、、」と、後ろから声が聞こえた。
「そうだな。彼は、ここに住んでいたんだろうな」
「うん。でもさ、あのホームレス、いつからここに住んでいたんだろうね。ここが廃墟になったの3年前でしょ?」
「さぁ、どうだろうね。それに、知ってたのかな、ここがやばいとこだって」
「うーん。あとあの人、すごい気の狂った様子で俺たちに襲いかかってきたからね、、」
「電灯、、か」
「それに、ここ取り壊しがなかなかされないんだよねー、不思議なことに。霊的な何かがあるんだろうね」
タケシは、急に怖くなってきた。
おい、タケ!急に怖いこと言うなよ
タケシは、タケの左肩に両手を置き、彼の上半身を反転させた。そして、「戻ろ戻ろ」と言いながら、右手をタケの右肩に置き、両手でタケを押した。
廊下に戻ると、タケは、平気そうな顔をしていたので、タケシは「代わって」と言って、先頭を交代してもらいたがった。タケは、こちらの様子を不思議がるような感じで頷き、懐中電灯を受け取った。
2人は、更に奥に進む。
二つ目の窓に着いた。正面は、行き止まりになっていたが、左側を向くと、右に階段、左に渡り廊下に続きそうな鉄扉が見えた。
「どっちからいく?」と、タケが聞いてきた。
タケシは、中庭の電灯というワードから連想して、「左から行ってみよう」と答えた。
タケは、ゆっくり進み、鉄扉のドアノブを握った。ドアノブは回転して、押された。びくともしなかったので、彼は、引いてみた。すると、小さなガチャ音を立てて、扉が動いた。
開ける邪魔にならないように、タケシは、少し後ろに下がった。
タケが人一人分通れるくらいまで開けると、何も言わず、向こう側に入っていった。
扉が勝手に閉まり切るまでに、タケシもドアノブをぐーっと引っ張り、向こう側にいった。
入ると、そこは廊下になっていて、奥の方にもこちらと似たような鉄扉があり、他と遮断されている異質な空間になっていた。外ではなかったが、右と左側に沢山ガラス窓が設置されていて、とても明るい。
タケシは、もしやと思い左側の窓を覗いた。
案の定、緑が見え、木が幾つも生えている庭が見えた。しかし、庭は一階のようで、草や木が生い茂っているので、奥の方まで見えないが、電灯のようなものは見えなかった。
「なあ、タケ。2階だよな?この庭に電灯が見えるか?」
「うーん、ないね。違うところだよ、多分」
タケシは、それだけ聞くと、「先を急ごう」と言って、タケを急かした。
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