第10話 ユウタについて

 「コンビニ寄っていい?喉乾いた」

タケはカズキにそう言った。

 カズキは、車のロックを解除しているケンジに叫んだ。

 「おーい、俺らコンビニ寄るわ。ちょっとまってて」

ケンジは、指でOKサインを作ると、運転席に乗り込んだ。

 「なあ、俺もコンビニ行っていいか?」

ユウタがそう言うと、タケシは「いいよ」と答えた。

 タケシとユウタが入店すると、タケが店を出ようとしていた。

 ユウタは、すれ違いざまにタケの腕を引っ張った。

 タケは、びっくりして、「どうしたんだよ」と言った。ユウタは、睨みながら、「え、い、いや、なんでもない」と言った。

 タケシが、飲料水売り場で商品を眺めていると、そばにいたはずのユウタがいないことに気がついた。探すと、彼はガラス張り越しにケンジの車を眺めていた。

 「おーい、どうしたんだ?ユウタ」

 タケシが声をかけると、ユウタがびくっと肩を上げ、「い、いや。なんでもない」とはにかんだ笑顔を見せた。

 タケを気にかけてるのか?なぜ?やっぱり、ケンジさんとカズキがグルでループ世界を作り出しているとか?さっき、タケを殺したのがあの二人とか。

 タケシは、素知らぬふりをして、聞いてみることにした。

「なあ、ユウタはケンジさんとカズキがループ現象の犯人だと思う?」

 「い、いや。多分、違うかな」

 ユウタは、早口でそう言うと、タケシからサッと離れて、商品を眺め出した。

 なんだよ、ユウタ。わけがわかんねぇ

 タケシは、MATCHを手に取ると、会計を済ませた。そして、ユウタの背中を叩き、「待たせているから、行くぞ」と声をかけた。

 ユウタは、黙って、タケシと車の方へ歩いていった。

 タケは、2人に気付き、2列目の扉を開いた。タケシが3列目に、ユウタが2列目にそれぞれ滑り込むと、ケンジが後ろを振り返ってこう言った。

 「よし、全員揃ったな」

 ケンジは、エンジンを動かし、車を走らせた。

 約15分経ち、車は蛇公園前に到着した。

 「着いたよー」

ケンジが後方に声をかけると、タケとユウタが「ありがとうございます」と言って、外に出た。タケシも2人に倣い、一声感謝を示し、外に出た。

 カズキは、助手席で寝ている。

 ケンジは、「じゃあ、俺たち帰るからね。またねー」と窓から顔を出して言って、車で帰っていった。

 車を見送ると、タケシが口を開いた。

 「さて、ユウタ。教えてくれよ。お前は何を知ってるんだ?」

「言わないとダメか、、、」ユウタはそう呟く。

 タケは、怪訝そうな顔で2人を見て、「電灯について?」と聞いた。

 「電灯?電灯って、廃墟の?」タケシは、聞き返す。

 「うん。ユウタのこと考えると、電灯とかループとか、そう言うワードが頭に浮かんできて。上手く思い出せないから、はっきりは言えないんだけど、、、」

「ユウタも電灯について知ってるのか?」

タケシがユウタを見る。

 「いや、まあ少し。ソウタさん以外にもあったらしいんだ、電灯の光を見て、人が死ぬこと。」

「詳しく聞かせてくれ」

「ソウタさんが電灯の光を見たのが、7月の中旬だろ?その前の6月の中旬にとあるカップルが光ってるとこ見て、行方不明になったらしいんだ。死体は見つかってないけど」

 「ねえ、ループも電灯の光のせいじゃない?だって、人を自殺に追い込んだりするんでしょ?7月26日、俺たちはケンジさんに電灯の呪いをかけられたとか」

 タケが割り込んでそう言う。

 「確かに、ループだと記憶をこんがらせることができる。ケンジがやはり元凶かも」

 タケシが、タケの意見に乗っかると、ユウタも乗っかってきた。

 「それだ、違いない。俺、一回目の8月3日の時、ケンジと二人だけになった瞬間があったんだ。車の中で。その時、ケンジは俺にループについて、色々聞いてきて、聞いてくる割にはどこか知ってる風な反応だった」

 「カズキもグルだろうな」とタケシが言うと、ユウタに「カズキはグルに見えない。俺ら側だ」と反論してきた。タケも「カズキだって、対象だった日があったんでしょ?」とユウタに賛成した。

 「うーん、そうかもな。あと、もう一つ聞きたいことがあるんだユウタ。俺がループについて聞くと、目を泳がしたり、誤魔化したりしてただろ?なんとなく、お前がケンジに加担して、ケンジを擁護してるような気がしたんだが」

 「いや、俺は何も」

「おい、答えてくれよ。お前、知ってたんじゃないのか?あっ!、もしかして、カズキはグルじゃないって言ったのは、ユウタ、お前がグルだったからか?」

 タケシは、薄ら笑いを浮かべ、ユウタを暗い顔を見る。ユウタは、無言のまま、目を合わせないような挙動をした。

 「おい!なんか言えよ!!1回目の8月3日、俺たちがコンビニに行っている時にケンジと2人になって、計画を思い出すようなことを言われたんだろ?初日は、ユウタが対象だからな。記憶のない状態で俺らの中に潜入し、ケンジとの計画を着々と進行させていたんだろ?」

「でも、記憶ないなら、思い出したところでじゃん?」タケが擁護するように言った。

 「俺のように証拠となるメモを見せれば、わかるだろ!」タケシは、タケを小馬鹿にするように怒鳴った。

 タケは、「そっか」と呟く。

 「タケシ、お前ってやつは。なんも分かってない」ユウタは、必死そうに言った。

 「わかってない?なら、反論してみろよ。お前らの目的はなんなんだ?」

 「俺は知らない。聞かされてないから」

「ほう、何か弱みでも握られてるか」

「とにかく、俺は目的を知らない。全部、ケンジに聞いてくれ」

 ユウタは、そう言うと向き直って、走って彼の家へ帰ってしまった。

 「ユウタの弱み。6月の行方不明のカップル、女の方ユウタの姉らしいんだ」

 ユウタの背中を見ながら、タケがボソッと呟く。

 タケは、タケシのびっくりした顔を見ながら、続けた。

 「もしかしたら、それが関係してるかも」

 「電灯の光か、、、。やはりこれが関係しているってことだな」

 「ケンジさんももしかしたら、この魔力に操られているだけかもしれないしね」

 「確かに、タケの言う通りかもな。一体、なんなんだろうな。明日、というか今日も行くか?廃墟」

 「行くしかないよ。きっと」

「今日は、俺んちに泊まっていけよ」

タケシは、タケのいいよという反応を見て、腕を引っ張った。

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