第8話 死体

 「お兄ちゃんに電話してみるよ」

カズキがスマホを取り出し、ケンジのLINEを開いた。

 タケは、男の死体を懐中電灯で照らすと、「これ、どうするの?」と聞いてきた。

 「ホームレスじゃねーか?ほら、よく聞くじゃん、廃墟に住むホームレスって。とりあえず、ケンジさんに相談してみようか」

ユウタは、楽観的に答えた。

 一方、タケシの頭は死体どころじゃなかった。

 「なあ、今日は誰なんだ?」

 「え?あー。知らねーよ。ランダムだからな」と、ユウタは即答した。

 カズキのスマホが鳴り止み、彼は「もしもし」と会話を始めた。

 「詳しく聞きたい。7月26日は確か、俺とタケが映画を見に行き、その後、俺らとケンジさんで会ったよな?」

タケシは、スマホのスケジュールアプリを開いた。

 「そうそう、確か」と、ユウタが返事する。

 「7月31日、8月の1と2が俺で、それまでは、誰が対象だったんだ?」

「7月26日がユウタで、タケ、タケシ、カズキ、ユウタの順だ」とユウタが答える。

 タケシは、ふむふむとそれをメモした。

 「法則があると思うか?」

ユウタは、笑みを浮かべながら、聞く。

 「ないかもね」と、タケシが言う。

 それと同時に、カズキが声を上げた。

 「ケンジ戻ってくるってよ。まだ、調べ終わってないらしい。さっきの殺人鬼は、ユウタが倒したって言ったら、結構半信半疑だったよ」

「でさー、マジでどうする?この死体。俺らだけの秘密にする?」

 タケが口を酸っぱく言う。すると、ユウタが怒鳴り声を出した。

 「当たり前だろ?バレたら、俺捕まるじゃねーか。絶対秘密にしろよな!!」

 タケは、俯くと、死体から離れ、壁にもたれかかった。

 その一方、タケシの探偵ごっこはまだ続いていた。

 「なあ、カズキ。ケンジさんは、ループに気づいているのか?ケンジさんと俺らってこの1週間で、何回会ってるんだ?」

 「4日前も似たようなこと聞いてきてたよな、お前。確かに、俺の兄は、怪しいかもしれないが、違うぞ。5日前の、、、、」

 カズキが話してる最中に、急にタケが割り込んできた。

 「え、え、ループってなに?なんの話をしてるの?」

「どうやら、今日はタケらしいぜ」と、ユウタが言う。

 「どうする?説明する?」

 カズキは、タケシとユウタの顔を見た。タケシは、分からないよと首を傾け、ユウタは、「好きにしろ」と顔を横に向けた。

 カズキは、聞く前から大方決めていたようで、2人の顔を見るならすぐにタケに近づいた。

 「あまり深く考えずに聞いてほしいんだけど、、、、、、」

 説明し終える頃に、ケンジがやってきた。

 「おーっすー、したいはどこに?」

 ケンジは、キョロキョロすると、足元にある死体に気がつき、びっくりしていた。

 「これかーー、うーん、まぁ、よしっ、これは俺たち5人の秘密にしよう」

 「そうするしかないですね」とユウタが食い気味に言う。少し俯きがちのユウタの顔から、汗のような雫が落ちるのがタケシから見えた。

 強気になってるのは、焦っているからなんかな〜

続けて、ケンジが口を開いた。

 「とりあえず、ここは、有名になりつつある心霊スポットだから、死体は、絶対隠さないとな。ユウタ君のナイフもどうしよう。血のとこ拭いて持って帰る?この辺、川とかないから、大変だと思うけど」

 ユウタは、しばらく考えると「持って帰ります」と言った。

 「そっかそっか。俺、下見に来たことあるって言ってたじゃん?一階の裏手に井戸があるんだけど、そこに落とすってのがいいと思うんだ、どうかな?心霊スポットの井戸なら、人もそんな寄り付かないでしょ。発見も遅れるだろうな」

その問いにユウタだけが返事した。

 「いいと思いますよ」

「そっか、そうだよね」

 ケンジが死体の肩を持つと、ユウタにこう言った。

「ユウタ君がたい、いいから、俺と一緒に運んでくれる?足待ってよ。あと、カズキ!前照らせ」

 カズキを先頭に死体を階段まで運んでいく。

「おい、お前らもこいよ」

 ユウタが声をかけた。

 タケシは、タケの顔を確認すると、彼がついて行こうとしてたので、最後尾でついていくことにした。

 「よっこらしょっと!」

ケンジとユウタは、死体を井戸の中に投げ捨てた。

 「うーん、結構深いねー」

ケンジは、井戸の中をライトで照らしながら、覗いている。

 「あとは、ナイフだねー。テッシュペーパーとか有ればいいんだけど」

 タケが「ありますよ!」と、声を出して、ポケットから取り出した。

 「あるなら、もっと早く言えよ」ユウタがボソッと呟く。

 「おとといもそうだけど、お前、タケに強く当たりすぎだろ!」

 カズキがキレた。そして、ユウタの胸ぐらを掴み、もう一方の手でグーを作った。

 「まあまあまあ」と、ケンジが二人を宥める。

 ケンジになだめられると、カズキは、顔を赤らめ、ユウタから離れた。

 ケンジは、大量のテッシュを手に取ると、ゴシゴシ刃の血を拭き取った。

 「はい」と返されたナイフをユウタは、しまい込むと、「ありがとうございます」と、感謝の言葉を口にした。

 「さて、今日はもう帰るかい?俺もなんだか、疲れてきたよ。調査は、後日でいいかな?」

 4人にこうケンジが、話しかけると、タケシ以外頷いた。

 タケシだけは、ケンジをチラッと睨むと核心をつくようにこういった。

 「ケンジさん。俺たち4人は、今毎日をループしています。あなたと初めて会った日からずっと。これって、あなたの仕業ですよね?」

カズキが、ケンジ向かって、タケシを否定した。

 「こいつ、前も似たようなこと言ってて、それを論破したんだけど、忘れたみたいで、また言ってるわ」

ケンジは、「ループ?」と小声でケンジに聞いた。

 タケシは、カズキにイラつきだした。そして、ずっと心の中で復唱していた疑惑を口に出した。

 「おい!兄の為ってなんだよ!お前ら兄弟グルなんだろ?俺らを羽目ようとしてるんだろ?」

「おいおい、やめろよ」カズキが宥めようとしてきた。

 「だったらなんでカズキは、ループについて詳しそうなんだ?初めからシステムとか知ってたんだろ!」

カズキが反論してきた。

 「記憶にないかもしれないけど、このループのルール見つけたのタケシなんだよ。俺はタケシに教えてもらっただけだよ」

「いや、、、、」

 タケシの言葉を遮断して、ユウタが止めに入った。

 「もう、いいだろ。まだ、確信してないんだったら」

 タケシがユウタの顔を見ると、憐れむような表情をしている。

 くそ、こいつもさっきまで喧嘩しようとしてたくせに。

 振り向き際に、ケンジは、「もういいかな?帰るよ」とタケシに言うと、そそくさと歩いて行った。

 カズキとタケもそれに続く。

 ユウタは、心配そうにタケシを見た後、ケンジらの後を追った。

 4人の背中を涙目で睨み、タケシは、さっきとったメモを確認した。

 俺がカズキに教えた?えーっと対象になったら、ループのことを忘れるからー、7月30日に俺の考察を話したってことになるのか?む、矛盾は、してない、、、か。くそぉ。


 

 

 

 

 

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