第7話 殺人鬼
タケシは、目を覚ますと、深淵の中で人の温かみを感じとった。
「お、起きた?」「マジ?」
カズキとユウタの声が聞こえた。
「あ、あ、ここは、どこ?」
何かを話そうとするが、上手く言葉がでない。
「タケシだな?よし、一旦、静かにして、落ち着いて聞いてほしい。今から、カズキ、タケ、俺、タケシで3階に向かう。大丈夫だから、何も考えずついてきて欲しい」
「え、あー、あーー」
「何も考えなくていい。肩貸してやるから、立てるか?」
ユウタの声だ。
「う、うん」と返事すると、タケシは、左右から腕を引っ張られ、よっこらしょと立ち上がった。
足裏を地面につけ、膝で踏ん張った後、前方に倒れそうになったのを、また左右の人に支えられた。
「よし、いけるか?」
右からユウタの声が聞こえた。右はユウタらしい。
タケシは、右にもたれかかりながら、「行けるよ」と言うと、ユウタがゆっくり歩き出した。
左の人がライトを付けた。眩しい光に慣れると、彼がカズキだとわかった。
タケシは、カズキの光で今いるところが階段の踊り場だということに気がついた。
4人は、目の前の階段を登りはじめた。ライトを持っているカズキが先頭でタケシを左前から引っ張り、タケシの右後ろから、ユウタが彼を支えているかっこうになった。
一段一段と登り、2階に着いた。
すると、タケシの背中に震えた体がくっついてきた。
「タケか?」タケシは、首だけ動かして聞いた。
「大丈夫だタケ。俺たちは、3階に行くから」
カズキが、後ろを向いて言った。
4人が、次の踊り場に着いた時、下からドタドタドタと足音が聞こえた。
「おーーい!逃げろ!!殺人鬼がいるぞ!!」
ケンジが怒鳴っている。
「タケシ返事するなよ」とユウタが囁いた。カズキも、ケンジの声を無視して、上にそのまま登っていく。
ケンジの声が大きくなると、タケが3低い腰で3人を追い越した。かなり震えていて、苦しそうに見える。
ケンジは、4人に気づかず、階段を下に降りていった。それを追うように、もう一つの足音が聞こえた。
その足音は、諦めたのか階段の前で止まった。そして、あろうことか階段を上に登り出した。
タケは、パニックになり、オロオロと悶え出した。
「急ごう」とユウタは、小声で言うと、タケシをぐんぐん押しだした。
下の足音が踊り場に出る前に、4人は、3階の曲がり角を曲がることができた。
すると、カズキが左側に扉を見つけたらしく、「こっちだ」と言って、引っ張った。
最後尾にいたタケは、急足で、扉に近づき、引手を引く。しかし、ビクともしない、扉に鍵がかかってるらしい。
タケは、狂乱し、引手を強く引っ張って、ガタッと音をたててしまった。
それを聞いてか、階段の足音が速まる。
「やるか」
ユウタは、タケシを床に下ろすと、ポケットから、ナイフを取り出した。
カタカタカタ、足音が角を曲がった。
ライトを照らすと、髪の毛がボサボサでよれよれのカッターとジーパンを履いた男が立っていた。
男は右手にバットを持ち、狂気的な顔でこちらを睨むと、「ぐあぁぁぁー」と雄叫びを上げて、突進してきた。バットを上に振り上げ、ナイフを構えているユウタに襲いかかった。
ユウタは、バットの振り下ろしをギリギリでかわし、男の左肩にナイフを突き刺した。
男は、「あー、あーー」と痛がるも、左足を後ろに下げ、ナイフから離れると、数歩さがり、バットを横振りでユウタの首元を狙った。
ユウタは、さっと下にしゃがみ込む。男は、当たらなかったバットの慣性に引っ張られ、体勢を崩してしまった。
ユウタは、目の前の男の胸にナイフを1度突き刺し、グッと押すも、引き抜きもう一度胸を刺した。
男は、涙目を浮かべ、胸元を抑えると、ドサッと床に倒れ込んだ。
ユウタは、ナイフを引き抜くと、タケシ達を見た。
「これで、今日は超えれそうだな」
カズキは、スマホを覗いた。
「11時52分だ!」
ユウタは、安心した顔を見せ、ふぅ〜と息を吐くと、壁にもたれかかりながら、床に座り込んだ。
ピピピピッ、、、、ピピピピッ、、、
タケのアラームが鳴った。
「12時だよー」
タケが涙声で言った。
タケシのそばにいたカズキは、嬉しそうな顔を作り、涙をポロポロ流し出した。
「やっと、やっと」
ユウタを見ると彼も似たような感じだ。
カズキが落ち着いてきたのを確かめて、タカシは尋ねることにした。
「そろそろ説明してくれ。ループしてたんだろ?この日を」
「ああ、そろそろいいかな?いいよ、教えてあげるよ」
カズキは、そういうと涙を拭いた。
「ループしてたのは、今日だけじゃないんだ。実は、1週間前の7月26日から、俺たち4人だけ毎日、ループしてたんだ。4人のうち一人がループに気づいていなくて、そいつが死なずに1日を終えたら、ループを抜けだし、次の日に行ける。今日、いや昨日、俺がお前を連れ回したのには、理由があったんだ。死なないようにするための選択だった」
「4人のうち一人っていうのは、ランダムなのか?」
「ランダムだ。タケシは、3日連続と異例だったがな。少し前の過去を思い出そうとすると、頭がぐわんぐわんするだろ?あれもループのせいで、多重に思い出が蘇ってくるからだ」
タケシは、ずっとモヤモヤしていた疑問が解消され、スッキリした気分になった。
「ありがとう」
タケシは、そう言うと真の恐怖に気がついた。
「なあ、毎日って、これからも続くってことだよな?」
「そうだよ。完全に抜け出す道を探さないと」とユウタは、言った。
「8月2日は、もう10回も繰り返してたんだ。日によっては、一発クリアだったこともあったけどね」
続けて、ユウタが言った。
カズキが「立てるか?」と声をかけてきたので、タケシは試しに立ってみることにした。
よっこらしょ
少しふらついたが、自力で立てた。
「よっし、これで、もういいだろう。帰ろうぜ」
ユウタがそう言うと、カズキとタケも立ち上がった。
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