第6話 ループ

 気がつくと、車が動いていた。

 特に、誰かが話しているわけではないので、注意が外に向かなかった。ただ、頭が正常に作動した今でも、何も考えたくなかった。興奮の連続で、頭が疲れてきたのだ。それに、過去を思い出そうとすると、頭がぐわんぐわんして、意識を戻すと、体が勝手にフラフラ動いている。それについて、誰も心配してこない。みんなは、当たり前の光景のように振る舞ってくる。ただ、ぐわんぐわんするのは、直近1週間の記憶で、それ以上になると、鮮明に思い出せる。

 しばらくすると、落ち着いてきて、次第に言葉を発したくなってきた。

 「そういえば、廃墟まで車だと何分くらいかかるんですか?」

 ケンジは、バックミラーでタケシと目を合わせると、こう答えた。

 「大体30分くらいかな。近くに駐輪場が、ないから近くのコンビニに、車を停めるよ。

そのあと、15分くらい坂登って、つくって感じかな」

タケシは、大きく頷いて、わかりましたの合図を送ると、車外に目を向けた。

 明かりのついた住宅街が見える。家々を一瞬、一瞬で通り過ぎるのを、真剣に目で追い、気を紛らわした。

 考えすぎると、真実から遠ざかることもある。

 タケシは、昔読んだ小説の言葉を思い出していた。

 しばらく走ると、景色が住宅街から田んぼになった。灯りが少なく、外は暗闇に包まれていた。

 窓を覗いても、自分の顔しか映らなくなったので、タケシは、横に座っているユウタに目を向けた。

 彼は、腕を組んで、真剣な表情をしている。

 ったく、なんなんだよ、こいつ。

 反対側の窓に座っているタケにも目を向けた。

 彼は、ひどく怯えた顔をしている。

 タケまで、、、一体何があるんだ。

 気がつくと、車は、ピー、ピー、ピーと音を立てて、ゆっくりバックしていた。

 タケシは、無意識にコンビニを探すと、真後ろにそれが立っているのが見えた。

 車が止まると、車内が明るくなり、ケンジが「着いたぞ」と後ろを向きながら、言った。

 カズキとタケは、そそくさと車から降り、ユウタもそれに続いた。そして、彼らはコンビニの側に立った。

 タケシも彼らについていった。しかし、3人の一連の動きがあまりにも、慣れている感を出していたので、タケシは、一つの答えを導き出した。

 彼らは、ループしている、この日を。

 とても非科学的で、あり得ない発想であったが、それが一番辻褄があった。

 タケシは、3人に近寄ると、さっきの思いつきを冗談っぽく言ってみることにした。

 「なあ、お前ら8月2日、体験するの今日で何度目?今日っていうか、これで?」

 ユウタは、目を背けた。タケは無言、カズキだけが何かを言いたそうにしている。

 カズキが言葉を出す前にケンジがやってきた。

 「おーい、ほら、歩くぞー。これ全員分のかいきゅうでんとう」

 後ろを振り向くと、ケンジは、5本のかいきゅうでんとうを見せびらかしていた。彼は、スマホを取り出すと、「えっとねー、前にも行ったことがあるんだけどー、確かこっちかな?」と目をキョロキョロしながら、独り言のように言った。

 ケンジが再び4人を見る。

 「あれ、君顔色悪いよ。車で休んでいく?」

 彼は、タケシに話しかけた。

 「い、いえ、大丈夫です」

 タケシは、自分の顔を手で抑えて、オロオロしてしまった。

 「大丈夫なら、いいよ。さっ、行こっか」

ケンジが歩き出すと、4人はゾロゾロとついていった。

 しばらく歩くと、ケンジが口を開いた。

 「ここー、かな?よーし、みんな着いたぞー」

 暗くて何もわからなかったが、さっきまで足元を照らしていたかいきゅうでんとうを、正面に向けると、何かの建物の壁が見えた。

 ここが、ラブホの廃墟か。

 「俺は、中庭の電灯を見に行くけど、君たち、俺といっしょ一緒に行動する?」

 ケンジが、カズキに向かって聞いた。

 「ついて行くよ。なるべく、大人数で行った方がいい。殺人鬼がいるかもしれないし」

 カズキが、そういうと、タケが震え出した。

 ケンジは、「おけいおけい」と合槌を打つと、「俺についてきて、昼間来たことあるし」と言って、正面玄関から中に入っていった。

 タケシとカズキは、ケンジの後に続く。その後ろを、ユウタは、震えが止まらないタケの肩を組んで、ついてきている。

 中を少し歩くと、ロビーに出た。左には二階へ続く階段があり、正面には廊下が広がっているのがわかった。

 ケンジは、立ち止まり、ポケットから何か地図みたいなものを取り出すと、しばらくそれを眺めていた。

 うーん、と考えているのが見えたかと思うと、「こっちかな」と呟いて、左の階段を見た。そして、後ろを振り返り、「こっちだ」と言って、タケシ達に合図を送った。

 再び、ケンジは、歩き出し、タケシ達もそれに続く。

 2階に上がる途中で、タケが泣き出した。

「俺は、ここでいいよ。4人だけで行ってきなよ」

 ユウタがなだめるが、タケは、涙声でユウタの腕を解こうとする。

 可哀想になってきたので、タケシは、「ユウタ、もういいだろ。タケは、そこに置いていこう」と言った。すると、ユウタがいきなりとんでもないことを言いだした。

 「タケシ、さっき8月2日を何度も体験しているとかどうとか聞いて来たよな?あれ正解だよ。ループから、抜け出すには、タケをここに置いていくわけにはいかないんだ」

 タケシは、頭が真っ白になった。そして、ついさっきの記憶を思い出そうとした。

 ぐわんぐわん。強い力が、脳内に迫り来る。そして、その力に耐えきれなかったのか、タケシは気絶した。

 カズキがケンジを呼び止める。

 ユウタは、倒れかけのタケシを抱えながら、タケを逃がさないように踏ん張っている。ケンジとカズキが戻ってくると、ケンジは、タケシを引き受け、踊り場に寝かしつけた。

 4人はしばらく、タケシの側でじっとしていた。しかし、ケンジは、「俺は電灯を見に行くから、君達はここないな」と言うと、一人階段を登って行ってしまった。

 残された、3人はかいきゅうでんとうを消した。そして、踊り場の隅にタケシを寄せると、3人で彼を囲み、小さくうずくまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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