第5話 ケンジさん

「俺、やっぱ行くよ。ひとんちの前で大声出されたら、迷惑だから、うち入りなよ」

タケは、そう言うと、家の扉を限界まで開いて、空間を作った。

 言われた通り、中に入ると、家で放し飼いされているトイプードルのモモがお出迎えしてきた。

 「わんわん!わんわん!」

 3人を順に威嚇すると、タケが「すまんすまん」と言って、モモを抱え、奥の部屋まで連れて行った。

 タケが戻ってくるまで、タケシ達は、靴を脱いで、廊下に上がった。

 タケが戻ってくると、「俺の部屋来いよ」と言って、手前にある階段を登っていった。

 ユウタ、カズキ、タケシの順について行く。

 2階に登り切ると、タケは、階段から見て、左側にある彼の部屋に入っていった。

 それをみていたユウタが口を開く。

 「なあ、わかってるよな?タケ。6時半には、出るぞ」

「わかってる」

タケは、背を向けながら、返事した。

 タケの部屋に入り、4人は無言のまま、適当なところに座った。

 なにか、部屋全体が重々しい雰囲気を持っている。

 タケシは、時間を確認する。6時15分

 あと15分か。3人は、何があったのか、答えてくれない。廃墟に行くのは、今日が最初で最後か。カズキが嘘をついてないなら、3人のギスギスは、廃墟とは関係ないところにある。それと、今日が最後ってことは、廃墟が明日くらいに、とりこわしになるってことなのな?嘘ついてるなら、別だけど。

 タケシは、カズキを信用している。彼は、意味のない嘘などつかない。

 俺を廃墟に行かせるために、嘘をついてるのかな。だとしたら、なぜ?

 タケシは、天井を見上げながら、そんなことを考えていた。

 ユウタがいきなり立った。

 「6時半だ。出るぞ」

彼は、そういうと、タケシの腕を掴んで、無理やり立たせた。

 「え、ちょっ」

 タケシは、ユウタの思うがままにされ、家の外まで引っ張り出された。

 道路に出ると、空が暗くなりはじめていた。

 後ろを振り返ると、カズキとタケが後をついてきている。

 タケシは、ユウタに腕を掴まれながら、後ろの2人を呆然と眺めていた。

 「蛇公園?」とカズキがユウタに言った。

 「ああ」

 ユウタは、そう答えると、タケシを引っ張りながら、蛇公園へ歩き出した。

 蛇公園に着く頃には、周囲が完全に暗くなっていた。電灯が光を放ち、4人の顔を照らしている。

 7時4分 タケシは、時間を確認した。

 「ケンジさんが来るまでまだ1時間あるよ。それまで何すんの?」

タケシは、3人に聞いた。

 すると、カズキが口を開いた。

 「兄ちゃん、大学終わったってさ。今から呼ぶよ」

  よく見ると、カズキがLINEを開いている。

 「大学って、サークル?大学って授業あるの?」

タケシは、聞いた。

「授業は、ないよ。研究とサークル。兄ちゃん、あと45分で来るってさ。」

  それに続けて、ユウタが口を開いた。

 「とりあえず、飯でも食いにいこーぜ。いつものファミレスでいいよな?」

 ユウタは、タケシに顔をむける。タケシは、どこでもいいので、うんと頷いた。

 タケとユウタは、そそくさと蛇公園を出て、ファミレスへの行路に入った。

 タケシは、歩き出そうとしているカズキに聞いた。

 「なあ、兄の為ってなんだ?廃墟に行くのが最初で最後ってなんなんだ?」

 カズキは、立ち止まり、タケシを見ると、「今は、答えられない」とだけ言って、先頭2人について行った。

 蛇公園からファミレスまでは近く、徒歩5分くらいだ。4人は、蛇公園で遊ぶと、よくファミレスで腹ごしらえをしていた。

 ファミレスの席に着くと、ユウタが話し出した。

 「長時間、車に乗るから、食事はほどほどにな」

 タケシだけ、それに頷いた。タケシは、周りを見て、なんだよ、みんな冷てえなぁ、と思った。

 タケシは、シチューを平らげた。

 周りを見ると、タケとユウタが肉に苦戦している。

 なんだよ、ユウタのやつ。程々とか言ってたくせに。がっつり、肉食いやがって。

 時間を見ると、6時32分。そろそろ完食してほしい時間帯だ。

 カズキは、残りの冷めたスープを飲み干すと、タケシにこう言った。

 「兄ちゃん、もう公園ついてるらしい。俺らだけでも行こっか」

 タケシは「あ、ああ」と返事すると、2千円を机に置いて席を立ったカズキの後を、同様に2千円置いて、ついて行った。

 「さき、行ってる」

 カズキの言葉にユウタとタケは、適当な言葉で返事した。

 蛇公園に戻ると、公園前に白のバンが止まっていた。

 カズキは、バンの窓をコンコンと叩くと、中から、男が出てきた。

 男は、タケシに気がつくと、「やぁ、1週間ぶり?かな。ケンジって言うんだけど、覚えている?」と挨拶してきた。

 タケシは、お辞儀をして、「こんばんは、タケシです。」と返した。そして、1週間前の記憶を頭の中で振り返ってみた。すると、記憶の映像に何重にも違う映像がぐわんぐわんと波紋のように広がっていって、それが気持ち悪くなったので、やめることにした。

 その様子を、奇妙にもカズキはじっと見てきた。

 なんだよ、こっち見んなよ。

 「今日、行くとこは、マジで怖いところだよ」

 ケンジがびびらしてくる。

 子供じゃねーんだから、そんなんで怖がるかよ。

 「そういえば、ケンジさんのお友達は、そこに行って、色々と不幸があったんですよね。なんで、ケンジさん、そこに行こうとしているんですか?」

 「なんでって、確かめたいんだよ。入水自殺したやつ、ソウタって言うんだけど、俺の大学の大親友だったんだ。自殺するなんて、考えられないやつだったから、他殺って信じてるんだけどね」

 ケンジは、口を濁して、話を続けた。

「ソウタ、見たらしいんだよ。中庭の電灯が光ってるところを一人で」

タケシは、思わず「えっ」と声を出してしまった。

 「俺に意気揚々と話して、そのあと死んだんだ」

 タケシは、カズキを見た。

 「やめよう。俺は行きたくない。行くなら、2人だけで行ってくれ。中止だ、中止」

カズキは、首を横に振ってこう言った。

 「お前たち3人も来い。特に、お前は来い。来ないとダメだ」

 タケシは、ブチギレた。

 「ふざけんな。死ぬのはごめんだ!」

そう言って、自宅へ歩みを進めようとした瞬間、後ろから、腕を掴まれた。

 振り向くと、やはりユウタだ。

 「今までの目撃者の証言から察するに、電灯が光るのは、決まって月の真ん中だよ」

 ケンジが、笑いながら、そう言った。

 え、

 「今日は、8月2日。死ぬなんてことはない。俺も、流石に危険日に調査なんて行かないよ」

 ケンジは、さらに笑った。

 カズキは、「そういうことだ」と言うと、バンに乗り込んだ。

 タケシが茫然としている間に、ユウタも乗り込んだ。

 ケンジが「あとの2人も早くのりな」と声をかけると、運転席に座った。

 タケは、タケシの肩に手を乗せ、「乗るよ」と言うと、タケシの腕を引っ張り、車内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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