第2話 午前中

 タケシは、目が覚めた瞬間、スマホを覗いた。

 8月2日日曜日 9:14

 楽しみな日が来た。

 母に呼ばれる前に、一階に降りることにした。こんな日まで怒られたくない。

 リビングに行くと、父がすでにご飯を食べていた。今日の朝食は、白飯と味噌汁らしい。

 彼は、テレビを観ながら食べていたが、タケシに気付くなり、「おはよう」と声をかけてきた。

 タケシは、適当に会釈すると、席に着いた。

 テーブルにまだご飯がなかったので、キッチンを見ると、洗い物をしている母が顔を出してきた。

 「あら、タケシ、今日は早かったわね。成長したね〜」

 母は、タケシを小馬鹿にするように言った。

 うるせぇよ

 続けて、母が口を開いた。

 「お母さん、今から高校の友達と遊びに行くから、ご飯は自分で入れて食べなさいね。昼食も作っといたから、温めて食べるのよ。お父さんお願いね。」

父は、適当な会釈で返事した。

 タケシは、言われた通り茶碗に白米、カップに味噌汁を入れて、朝食を頂いた。

 父は、食べ終わると使った食器を持って、洗い場に向かった。

 母は、父を見ると、「今から行くから、皿洗いお願いね。」と言った。 

 父の反応を見ずに、母は、洗い場を後にした。父は、母を見ようともせず、せこせこと皿洗いを始めた。

 これが我が家の日常だ。うちは母が強い。

 タケシが食べ終わると、父は僕の分まで洗ってくれた。

 ありがたい。

 食器を預けた後、自室に戻り、LINEを開いた。

 返信が来ている。カズキからだ。

 (俺の兄ちゃんが車出してくれるって。ケンジって名前だから、あったらちゃんとお礼言ってね。)

 タケシは、欠伸しながら、(おけい)と返信した。

 布団を手すりに掛けていると、スマホが鳴った。見ると、また、カズキからLINEだ。

 (午前中、暇? 今、サスケからLINEきてカラオケ行こってきたから、タケシも来ん?)

タケシは、暇だったので、(いく)と返信した。そしたら、すぐLINEが返ってきた。

 (おけい、じゃあ10時山井駅前のカラオケ館集合な。)

 今は、9時45分。タケシは、再び欠伸すると、身支度をした。

 家を出る頃には、10時を回っていた。

 スマホを覗くと、10時5分、カズキから電話がかかってきた。

「もしもーし、タケシ?これる?先入ってていい?」

「あー、すまん。先は入ってて。今家出た。」

「あーそう、着いたら、電話して。出迎えるわ。」

タケシは、「はーい、切るねー」と言うと、電話を切った。

 タケシの家から、山井駅まで徒歩15分かかる。

 はじめから間に合うわけないんだよなー

 タケシは、心の中で言い訳すると、ゆったりと駅へ向かって歩き出した。

 今日は、日曜日。平日と違って、山井駅は閑散としていた。

 タケシは、カラオケ館に着くと、カズキに電話をかけた。

 プルプルプルプル、、、、プルプルプ

 「おー、タケシ?ちょっと待ってて、行くわ。」

 カズキは、一方的に電話を切った。

 しばらくすると、店先のカウンターに彼が姿を現した。

 「やっと来たか。こいこい、こっちだ」

タケシは、一瞬、カウンターの店員を目をやったが、無反応だったので、そのままカズキについていった。

 部屋に入ると、サスケと彼の彼女、ミユが2人でデュエットをしていた。

 歌っているのは、最近流行りの歌だ。

 タケシは、この歌があまり好きじゃない。耳に残らないリズムだし、歌詞もよくわからん、恋愛ソングだし。

 2人が歌っている間にタケシとカズキは、静かに入ると、空いている席に座った。

 カズキは、デンモクを手に取ると、タケシに手渡してきた。

 タケシは、感謝した風な表情をしながら受け取ると、彼の好きな歌手、「荒井サマンサ」を検索した。

 好きな曲を2個くらい入れ終わると、デンモクをカズキに返した。さっきは感謝した風だったから、今度は「ありがと」の一声を添えた。

 カズキが、デンモクをいじっている間に、サスケとミユが歌い終わった。

 サスケは、「よう、タケシ」と挨拶してきて、ミユは、タケシをチラッと見ただけで、席に着いた。

 タケシは、サスケに返事をすると、「次、カズキ?」とカズキに聞いた。

 彼は、「ほんとだ」と明るく声を出し、マイクを持ってノリノリに歌い出した。

 午後2時になると、昼ご飯を食べに行こうという流れになった。

 ご飯、何にする?の話になると、ミユがサスケに「ミユ、マックがいい〜」と言った。

 カズキは、それを聞いて「じゃ、駅前のマック行く?」と気を遣った。ミユは、相変わらず、サスケばかり見てる。

 くそ、イチャイチャしやがって

 サスケは「マックでいい?」とタケシに聞いてきたので、「いいよ」と返した。

 特に、食べたいものとかないしな。

 4人は、カラオケを出ると、駅前のマクドナルドに入店した。

 パネルのメニュー表を眺めていると、サスケとミユのイチャイチャが聞こえてきた。体をぴったりくっつけて、小声で話してる。小声なので、はっきりとは聞こえないが、ミユが2人の荷物を席に置きにいく間、サスケが注文するというようなことが聞こえた。

 タケシは、俺の荷物も持ってくれるかな、と思ったけど、恨まれたくなかったのでやめることにした。

 タケシ、カズキ、サスケがおぼんを持って、ミユがとっておいた席に着いた。そして、「いただきます」も言わず、各々が好きに食べはじめた。

 タケシは、ビックマックセットを頼んだ。サイドメニューは、ポテトLとコーラだ。

 先にポテトを食べる。むしゃむしゃ、冷めていて、美味しくない。塩が紙容器の下に溜まっているので、出来るだけ底の方から摘んだ食べることにした。

 慣れてくると、見ずにそれが出来るようになっていった。

 向かいに座っているサスケとミユを見ると彼に彼女が「あ〜ん」していた。気分が悪くなったので、隣に座っているカズキを見た。 

 カズキは、無言でチーズバーガーにむしゃぶりついていた。彼も気まずいのだろう。可哀想に見えてきた。俺もそうだが。

 サスケとミユを再び見ると、タケシの手元のポテトがバサ〜と机に散らばった。

 摘んだポテトが引っかかって、上部が全部出てきたのだろう。

 カズキが心配してくれた。

「大丈夫?」

 彼に机拭きを手伝ってもらった、いい友達を持ったものだ。

 ポテトを半分無駄にしたが、カズキの優しさに触れれたことは良かった。

 タケシは、カズキにお礼を言うと、残ったポテトを少し分けてやった。

 「いい」と断られたが、何度も「あげる」と言ったら、貰ってくれた。

 全員食べ終わると、だらだらせず、店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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