第6話

 フルセブのメンバーが挨拶をして舞台袖に消えてもなお物凄い熱気の中、俺はもう、死んでもいい。

と、思っていた。


 やはり、久保みかんちゃんは最高にかわいい。目の前で推しが歌って踊ってることに感動・・・うん。やばかった。

 みかんちゃんも生きているのか。うへへ。


 彼女からファンサはもらえなかったものの桃田怜ちゃんが完全にこっちを見てウィンクと笑顔で手を振ってくれた。

 推しに浮気をしてる後ろめたさはあったけどあの可愛さには勝てないね!


 興奮しすぎてテンションがおかしくなってるぜ!だから、俺はライブ会場から離れた静かな公園のベンチで酔いをさます。

俺が来る前から、全身ピンク、桃田怜のグッズを持ったおっさんも酔い覚ましをしている。そういえば、あのおっさん会場でも後やったやん。

何これ!運命!ドキドキ!

テンションやべぇな。あのおっさんと運命とか最悪じゃねぇか。


夜の冷たい風に当たりながら、来る途中にローソンで買ったアイスカフェラテを一気にのむ。

体温が上がった体にちょうど気持ちいい。

そして、今日のライブの事をTwitter、インスタ、公式ブログを読む。

マジで良かったなー、ライブ。

佐藤さんにマジ感謝だわ。


 一応、ライブ会場周辺は大きく発展してる街だから光があり明るかったがそこを抜けると暗くなって不気味だ。

 もし俺が女だったら、遅い時間だし人通のないこの公園は危なすぎるな。

男に生まれてぇ、良かったぁ。


 頭のてっぺんがハゲて太って脂まみれなドルオタおじさんに襲われるかも。って、あのおっさんのことじゃねぇか。

興奮冷めねぇーなーって思ってると声がした。


「怜ちゃんはここに来るって分かってたよ。おじさんは君のことをなんでも知ってるのだから。ずっと、ずぅっと怜ちゃんの事を考えてるよ。大好きだよ!誰よりも。好きな子はいる?」


「いいないです……やめてください…警察、呼びますよ。」


 さっきの男が女の子の腕を掴んでいる。

あのおっさん、やっぱヤバいやつやん。

女の子の声はかすかに聞こえる程度。かろうじて聞こえる。


「いないのか。良かったよ〜

 おじさんとこれで両思いだね。ずぅぅっと、一緒だよ。うへへぇ〜。」


「違う…私、好きな人…」


「今日だって、おじさんにウィンクと満面の笑顔くれたじゃん。好きな人っておじさんの事!?

 嬉しいな〜

 やっぱり、怜ちゃんを推してて良かったよ。」


「違う!その前に座ってた知り合いの人にしたの!!あなたじゃない!」


「怜ちゃんはツンデレだねぇ。」


「やめて…」


 女は男に掴まれた腕を払った。


「おじさんを叩いたな。叩くなんて、悪い子だね。後でお尻ぺんぺんだよ。

 でも、彼氏だからキスでもいいよ。はい、チュー」


「いいいやだぁ。やめてぇ」


 マンガなどのヒーローはここで助けるが俺は至って普通の男子校生。飛び出して助けるような恨まれる真似はしない。それがこの俺。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る