オマケ~大人達の秘密のお話~

「子供達にも困ったものよな」

「どちらも変なところで頑固ですよね」


 ウンド王国国王と、ラシアン侯爵家当主はお互いに困った顔をしてそう言った。そしてお互い、自分と相手で同じ表情をしているのだと思った。

 ウンド王国国王の息子であるエヴァンとラシアン侯爵家長女のヴィクトリア、どちらも困ったもので親泣かせであった。普段はちゃんと周囲の声が聞こえるのだが、変な所で意固地となって曲げようとしない。


「儂の息子のエヴァンはな、自分が醜いから王侯貴族には向かないと言って聞かないのだ」

「み、醜いって誰がそのようなことを? 美術家が拵えた彫像のように見目麗しいではないですか!」

「誰も言うとらん。敢えて言えばお主の娘とマクタ家の娘に目の前で吐かれたくらいだが、言葉では誰も息子にそのようなことを申してはいない。じゃが、そのようなことがあったのも自分の容姿が醜いからだと言って聞かんのだ。儂等が否定しても、身内の贔屓目だと」

「そ、それは私の娘が申し訳ないことを」

「よい。お主の娘も緊張で粗相をしてしまっただけであろう?」

「はい。殿下の前で恥を曝してはならぬと彼女なりにあれこれ考え、あれこれ考え過ぎた結果、ああなってしまったそうです」

「では、責める言葉など持たぬよ。そして、お主も娘にそう言い聞かせているのであろう?」

「はい。しかし私の娘も困ったもので、先日は私が帰宅した時に遺書を書き記しておりました。いつ王家に処刑されても良いようにと考えたそうです。まあ、くしゃっと丸めて捨ててやりましたが」

「まあ、悪意なき失敗で処刑などする筈はないがな。そのようなことをしてしまっては、ただの暴君ではないか。ただ、それもまたお主は言い聞かせているのだろう?」

「ええ。そして、それを彼女も理解している筈なんですが、自分のこととなると盲目になってしまうようですね」

「困ったものだな」

「困ったものですね」


 お互いに。

 その言葉を飲み込んでから、ラシアン侯爵家当主は国王に訊ねた。


「して、エヴァン殿下はこれからどうなさるおつもりですか? マクタ家とお見合いをされたのでは、当家の縁はもう考えておられないということでしょうか? ヴィクトリアも殿下のことを悪く思っている訳ではないので、ご不満がないならば継続というのも良いかと考えているのですが」

「ああ、マクタ家とのはあやつに気分転換で別の令嬢と会わせて自信を取り戻す為だけだったので、別に見合いだったわけではない。それは向こうの当主とも話はしてある。だから、儂もラシアン家と繋がってくれれば良いという考えに変わりはないんだがなぁ」

「ご自身が醜いから王侯貴族には向かないという思い込みに戻る訳ですか」

「そうだ。その果てに変な仮面をつけて冒険者なんてものになってしまいおった。何とか王家の籍を外すことだけは避けられたんじゃが、困ったものじゃ。しかも変な仮面をつけとるし」

「仮面を2回仰ってますよ。しかし、冒険者なんて危ない仕事ですし、ご心配でしょう?」

「心配は、ない。奇しくもあやつはコネなしで騎士団長になれるくらいの強さ、才能を持ち合わせておる。そこら辺の魔物やゴロツキに後れを取ることはまずありえんし、不意を打たれることもないだろう。そして、怪しい女に引っ掛かるようなこともないだろう。あやつは堅物であるし、その上変な仮面をつけとるしな」

「ああ、そこに戻る訳ですね。では、大丈夫ですね」

「ああ、そちらが構わないのであれば両家の関係は保留と出来ぬか? 時間が解決することもあるだろう。そして、あやつはまだ第3王子のままであるし、身分的には問題ないようにしてある」

「そうですね。それが有り難いです。殿下程の傑物に巡り会える機会はまずないですし、我がラシアン家に迎え入れたい気持ちは何ら変わりないですよ」

「変な仮面つけとるがな」

「それでもです」


 そう言って、オッサン2人は笑い合った。

 その2人が策を巡らせ、困った2人の子供達がまた巡り会い、その策の通りに結ばれるのはまだ遠い未来のお話。

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自称:醜悪王子は仮面を被った冒険者となる 橘塞人 @soxt

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