45:アンドロギュヌス~究極の真理~
2036年5月
街頭のディスプレイに感染管理センターの医師が映る。「変異株ファイについて報告をいたします。このファイが従来と大きく異なるの飛沫感染する事です。飛散したウィルスの生存期間は24時間と非常に長く感染力も強い事があげられます。また、このウィルスの毒性ですが、皮膚の炎症など外観的影響に違いは見られませんが、もっと危惧される発作による攻撃性そして重症化は極めて低い傾向が見られます。しかしながら従来株同様に日本人固有の遺伝子配列に感染と発症の傾向が顕著な事は変わりません。また、従来のワクチンや治療法の効果が低く新たな治療方法研究が早期に必要であると考えております。」
2036年9月
この数か月で変異株ファイは、みるみる日本を覆いつくし国民の過半数が感染した。この状況に海外からは‘’ZOMBIE LAND‘’など揶揄され、次第に世界から孤立した。根強い感染者への差別は加熱し非感染者は感染者に攻撃的な姿勢を顕わにし、暴力的な行動によって感染者への被害が増加の傾向を辿る。しかし、驚くべき事に感染者達は被害を受ける事を恐れる事なく、極めて冷静に非感染者達に対話による融和を訴え続けた。そして感染者達の姿勢が徐々に支援者を増やし、海外メディアでも称賛の声が出始め、僅かながら世界が動き始めた。
2036年11月
レビス感染によって、PCDH15とRELN遺伝子の活性化とミラーニューロンの発達の可能性について政府発表がされた。PCDH15とRELN遺伝子が活性化する事で双極性障害や統合失調の改善が、ミラーニューロンの発達によって他者に共感する感受性や意図を理解する力が強くなる、言い換えれば多様性と社会性が向上する。この発表によって世界の反応は大きく変わる。そして、海外ではフェイクなどと言われた動画がアメリカのジャーナリストにより真実であると再評価をされ、そこに映る望の姿が世界の変化を加速させた。
2036年12月23日
福岡にある農場 昼
ピンとスマホが鳴る、食後のコーヒーをテーブルに置きながらスマホを手に取る『お久しぶりです糸井先生、確か咲真さん哲学者のデュリスが好きでしたよね?』という福本のメッセージにはリンクがついていた。「福本さん、、、不思議な人だ、はは、、、。」と糸井は嬉しそうに笑いリンクをタップするとジェラール・デュリスの翻訳された記事が開いた。
『日本人固有の遺伝子配列に感染リスクが高い為にレビスという病気は、感染者のみならず日本人という人種への偏見までも生み出した。日本国内では感染者が悲劇と言える程の差別に晒された。しかし感染者達はこの病気を勇気を持って受け入れ、病でなく試練とし、レビスとレビス以上に恐怖を与える差別に立ち向かったのである。そして彼らは真に向き合い戦うべきは、病ではなく人の心である事を教えてくれた。レビスは死と恐怖をもたらしたのではなく、人々の心に警鐘を響かせたのである。
ネット社会と言われ長い時間が経過し、SNSというツールは、それまでの他者の心を汲み取り共感するという人間と社会の在り方を変えてしまった。しかし、感染者達は、そのような変化に飼いならされた社会に一石を投じるように、自分たちを差別し攻撃する人間に対して、抗戦するのではなく、彼らの心を汲み取り共感するという戦いを行った。
そして、私は奇妙な偶然を見つけました。レビス‘’Rebies‘’は狂犬病を指すが、ラテン語で同じ音の‘’Rebis‘’は‘’2つの部分から成る者‘’という意味を持ち、‘’Rebis‘’は錬金術において‘’究極の真理‘’とされるアンドロギュヌスを指すのである。男女という2つの存在が一体化した王という姿のアンドロギュヌス、すなわちレビスは、対立や異なる者を一体化する究極の真理ではないか?。それに気づいた時、私には感染者達が崇高に思えた。誤解を恐れずに言うならば、レビスは我々を再生させる鍵であり、レビスと共存する人こそが、この病のみならず様々な差別や貧困などを駆逐し、これからの世界を生きる人なのかも知れない。
最後に。私の心を揺さぶった‘’ノゾミ‘’という少女。レビスの真実と‘’トモダ‘’という勇気ある感染者を教えてくれたSというサインの記者。
レビスによって心の病への光明を見つけ出した名も無き医学者達。レビスが人を再生させる鍵である事を確信させてくれた、この偉大な人達に私は最大の賛辞を贈りたい。 ジェラール・デュリス』
「やったぞ!咲真!。、、、究極の真理か。」糸井は笑みを浮かべ呟いた。ダイニングの窓から広い農場が見える、レビス感染者と非感染者が、様々な人種の人々が一緒に作業をしている、そこには田崎も居た。
2037年1月
ジェラール・デュリスの言葉は、世界の差別や貧困に戦う人々に称賛を持って受け入れられた。そして感染者達の対話姿勢が多くの人を集わせ、差別撤廃と人々の融和を理念とする認定NGO法人が設立された。決定的な治療薬はまだ無い、しかし医師や研究者の不断の努力によって様々な対処療法が考案され一定の効果を見せ始め、民間の病院でも患者受け入れをする動きが出始める。レビスのコミュニティーの住人達は行政が準備したマンションに移り新たな生活を始めた。
2037年6月
レビスの根絶はまだまだ先が見えなかったが、人々はこの病気と共存を始めた。根治よりも皮膚の炎症など容貌に対する改善が重視され始め、様々な誤解への理解も進み。完全では無いがレビスによる差別は薄れていった。そして政府から感染者の権利保護に関する法案が発表され、国民は好意的に受け入れた。
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