44:旅立ち

4月1日 朝

「お疲れ様でした。」「はい、ありがとうございます。」と会釈する笑顔の佑月。まだ肌寒いが日差しは春の色、テラス席に座る佐久間と佑月。「これから何やるんですか?。」「妹の旦那が、病気とか人種、あと性別とか色々な差別を受けてる人達の支援団体で責任者やってるんですけど、そこを手伝います。」「医師として?。」「うーん、たまたま医師免許持ってるだけの人、、、って感じかな?、あはは、、、。」楽しそうに笑う佑月、微笑み見ている佐久間。「咲真教授が『医師が居ない世界が、幸せな世界だ。』って言ってたのを思い出したんです。」と佑月は昔を懐かしむような面持ちで言う、「前に仰ってた恩師ですね。、、、凄いな、医者には有るまじき、みたいな感じですね、はは、、、。でも、そうか、、、病気に苦しむ人が無くなれば、医者は不要ですもんね。」「はい。だから先取で医者辞めました。」「先生は、潔いですね。侍だな。ははは、、、。」「もう、先生じゃないので。それより、侍って、、、男っぽい?。」「いや、、、いい意味で、ですよ。」「今度言ったら切るよ!、あはは。」と大笑いする佑月を見ると最悪だった初対面も可笑しく思い出された、そして今のこの時間が心地良かった。「何時の飛行機です?。」「えっと、、、15時20分です。」とスマホを確認する佐久間を佑月は少し寂しそうに見ている。「福岡かぁ、まさかあの人がって思いました。」「そうですよね!、でも、取材対象として面白そうですし。」「そうそう、これを渡そうと思って。餞別です。」と佑月はバックから一冊の本を取り出した。「ジェラール・デュリスって知ってます?、哲学者なんですけど。少し前の本なんですが、今の読み返すと結構頷ける事が多くて、、、。荷物にならないなら、是非。」と両手で佐久間に差し出す。「難しそうだ、、、‘’シンギュラリティと失われる知性‘’、、、ですか。」と受け取り、ゆっくりと表紙に目をやる(こんな場面、前にもあったな、、、。)と伴田を思い出す。「そろそろ、行きます。」と佐久間が佑月に言う、「あの、、、また逢えますよね?。、、、いや、変な意味じゃないですよ。はは、、、。」と照れを隠せない佑月、「なんですか?、変な意味って!、、、。」と笑いながら突っ込みを入れる佐久間。「いつでも、連絡くださいよ、私もしますから。」と言う佐久間を佑月は笑顔で見送った。



あれから数か月

佑月は、支援団体での活動が話題になり、多忙な日々を送る。

糸井は、故郷に戻り始めた社会貢献事業を広げ、差別の無い農場を準備している。

田崎は、一連の事件について行った告発が認められ執行猶予となった。

村上は、昇進を辞退し、患者に寄り添う医師を目指している。

安生は、実刑判決が下され、服役中。

福本は、病院を掌握し役員に昇格、安生時代の利益優先の方針を改めた。

そして佐久間は発症せず、伴田の生きた証を残したいと考え、国内を旅し取材をしている。


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