38:悲劇

3月11日 昼

コミュニティー

少し型の古いSUV、取り出した食料の段ボールをキャリーカートに積んでいる佐久間。「佐久間さん、ご心配かけて申し訳ないです。」と伴田が後ろから声を掛けた。伴田の声に振り返り、沈痛な面持ちで佐久間は深く頭を下げた。ガラガラと廊下に音を響かせ伴田と佐久間が歩く、「あの、少し落ち着かれましたか?。」と佐久間が言いずらそうに口を開く、黙って頭を下げる伴田、少しの沈黙の後に迷っていた言葉を佐久間が言う「、、、亡くなったのは、、、あの、望ちゃん、、、ですか?、、、。」伴田は表情も歩調も変えずに「はい、そうです。」と前を見たまま答えた。佐久間は喉に力が入り嗚咽を抑え込んみ、「、、、残念です。」と声を漏らした、伴田は穏やかな表情に目を伏せ佐久間の気持ちに応えた。少し歩き廊下の角を曲がる「あの、鈴蘭さんは大丈夫なんですか?。」と少し意を決したように佐久間が聞くと、「ええ、少しケガはしましたが、、、ただ、元気を失ってしまって。部屋に籠っています、、、。あ、そこが鈴蘭の部屋です。」と少し先の部屋に視線を向け伴田が言う、「そうですか、、、。」としか言えない佐久間、部屋の手間まで来たが部屋に居る鈴蘭を見る勇気が無かった。ただ追悼の気持ちが届きますようにと目を伏せ願いながら部屋の前を通り過ぎた。ドアの窓から見える佐久間をぼんやり鈴蘭が見ていた。鈴蘭は熊のぬいぐるみを抱いたままドアに歩いて行き、窓から佐久間の後ろ姿を見ていた。カートから床に段ボールを降ろす佐久間、「米と乾麺と小麦粉、あとチョコレートとかお菓子いろいろです!。」と笑顔で言いながら机に食料などを置いて行く。佐久間が意図して明るくふるまう様にそこに居た住人達は静かに微笑みを送りながら礼を述べ、品物を戸棚に収納して行く。「建物とか大丈夫だったんですね。」「はい、私達が警察に連絡するより先に誰かが知らせてくださったようで、消防車も到着が早く、被害は小さく済みました。良かったです。」望を失った悲しみを隠すように伴田は少し笑いながら言った。


「のぞみ、ちゃん、、、のーぞーみぃちゃん、、、。」と呟き、熊のぬいぐるみを撫でながら、廊下を鈴蘭が歩いてる。


「今日は、これ届けに来ただけですから。手伝える事があれば何でも連絡ください。」と佐久間が頑張ってと思いを込めて言う、「いつも、ありがとう。」と伴田が言い終えた直後、「ゔぁー!!!。」 バタバタバタバタ バン!気がつくと職員室のドアが倒れ、黒い影に視界を覆われた、佐久間は椅子から倒れ、何かがのしかかった。佐久間は反射的に手で突き放そうと掴み、足をバタつかせる「がぁーーーー!!。」聞いた事もない響きの大きな叫び。「鈴蘭さん?!!!。」鈴蘭が発作を起こし襲いかかって来たのだ。「発作だ!。」という叫びが色々な声で響く、バタバタバタバタガシャン!ギシ!と様々な音が脳内を駆け巡る。突然左の視界に唾液の糸が伸びた口が見えた!(噛まれる!?。)反射的に目を閉じる佐久間、ゴン!!鈍い音と同時に体に重い衝撃、いくつもの声のような摩擦音のような音が耳に捩じ込まれる。視界がグルンと回り身体が解放される、ゴンゴン、、、鈍い音が響く。その音の間にグチャグチャという音、目の前に頭が潰れた顔、その横にも手足を痙攣させた後ろ姿、その横に伴田が見えた気がした。(灰色の空、、、いや、、、天井か、、、。)佐久間は意識を失った。


「佐久間さん。」聞いた事のない大きな伴田の声がし顔が見えた。「あ!。」身体が捻れる!いや反射的に逃げようと体が海老反り、ガタン!と音がした。「くっ、痛え。」と佐久間は机が並べられたベッドから落下した。「伴田さん!。」と伴田の顔を見つけ大声を出してしまった。「大丈夫です、終わりましたから。」静かな伴田の声に少し落ち着きを取り戻す。手や頸あたりが冷たく感じる、手が震える・・・安堵からか佐久間の意識は遠のいた。


コミュニティーの一室

「すまんな、、、すまん、鈴蘭。」と力ない顔と声、目から涙をこぼす男。周りにいる数名の男たちも遣り切れないような、悲しみを体に滲ませている。今にも途切れそうな息で横たわる鈴蘭、血だらけの腕で抱く熊のぬいぐるみを渇いた目で見ていた。庭に炎で包まれた櫓。悲しみを湛え囲む住人達。手に聖書を持つ伴田。漆黒の空にプロキオン、シリウス、ペテルギウスが光っている。



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