29:院長安生、動きだす脅威

院長室

「どうぞー。」と重厚なウォルナットの扉越しに声が聞こえる。「失礼します、院長。」総務部長の福本が部屋に入る、豪華なソファからテレビを眺め、金鍔とお茶を楽しんでいる安生院長。院長と言っても実際には派閥争いに巻き込まれて厚労省を追い出された天下りの利権屋で医師免許も正当に取得したか疑問である。

「例の件、まとめました。」とファイルを院長に差し出す福本、「おー、やっと出来た!。待ってたよ~、君にしては時間が掛かってるからさぁ、チェンジしようかなぁ~ってな、ははは!。じゃ、拝見拝見、、、。」とほころぶ口元、しかし目は笑っていない。ファイルに目を通す安生の反応を緊張しながら見る福本、「少し、手間がかかりまして、院長にご迷惑が掛からないように最善の配慮をしたつもりです。いかがですか?。」と福本が尋ねる。福本の言葉を意図的に無視しながら書類に顔を近づけ凝視すると「ありがとう。これで揃ったかな?、、、。」とファイルを閉じ独り言のようにつぶやく安生。「はい。」と福本は意味ありげに口元を緩め頷く。「じゃ、根回しよろしくね、2~3日でケリつけて。それでさ、今晩の幹事長との食事だけど、君も同席して。」と言う安生、「よろしいんですか?。」と嬉しそうな福本、「いい仕事してくれてるからね。そろそろ身体検査されてもいいように、身綺麗にしといてよ。」と言いうと金鍔を口に放り込む安生。「はい、ご期待に添えるように精進いたします。では、失礼します。」と頭を下げ部屋を出る。重厚さに反して静かな音で扉が閉まる。

院長室の扉に意識を残しながらエレベーターに向い歩く、ボタンを押しドアが開くが乗らずに手を伸ばして1階を押す。エレベーターは閉まり無人のまま降りて行く、福本はエレベーターから少し右手にある非常階段に向かう、ドアを開け踊り場に歩を進める、静かにドアを閉めながらポケットからイヤホンとスマホを取り出しイヤホンを耳に付ける、スマホのアプリを操作するとイヤホンから安生の声が聞こえる。暫く聞き入る、そして胸ポケットから手帳を出しパラパラとページを捲る、「まずいな、間に合わないか、、、。」と唇を噛む福本。


佐久間の部屋

※夢を見た※

ゴッ、、、ゴッ、、、ゴッ、、、

鈍い振動

(ごめん、ごめん、、、)

止まらない

ゴッ、、、ゴツ、ゴツ

(許して、、、)

ドロっとした感触と温い粘る臭い

(わかってんだろ)

(大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、)

背中に手が周り体が浮く

体がフワっとして、視界が青くなる

(飛んでる?)

アンドロギュヌスが飛んでいる

その人の手が私の手を掴んでいる

飛んでいる

町が見える、通りを行く

(この間見つけた本買っとくか?、あ、でも急がないと)

(あ、新しいマンション出来たのか?前なんだっけ)

目の前に噴水

ゴッ、、、

意識がフワっとなった

全身にドンという衝撃

ゴッ、、、ゴッ、、、

(ぃたねーんだぉ、ぇめー)

ゴッ、、、ゴッゴツ

ミシッ、鼻から温い血が溢れ、口に逆流し鉄臭い味がする

湯船に顔を付け鼻から湯が入って咽せるように、咳き込んだ。

ゲホッゲホッ、ゴッ、(きたねーははは!)ゲホッ、ゴッ、ゴッ、(おもしれー)

(舐めろよ、おい、舐めろ)

ゴッ、、、ゴッ、、、

(もういいかな、疲れたな)

ぼんやり遠くを見ると人が走ってくる

ぼんやり見ている

なんだか怒鳴り声とかが遠くで鳴っている

その人を見ているとハンモックで揺れている気分

ユーラユーラユーラユーラ

ギュン!って高く飛んだ!高い所から見下ろす。

(お前がやったのか?!)

(知るか)

急に引き上げられる

どんどん引き上げられる

(ぎゃーぎゃーぎゃー)

(なんだ????)

アンドロギュヌスが大きな石の前で叫んでいる

(ぎゃーぎゃーぎゃー)

そして物凄いスピードでこちらに向かって来る

(あ!)目を閉じると

顔に凄い風と羽根の感触

目を開くと、視界の上ギリギリの黒い影が

黒い影を遮るように羽根がいくつも舞っている

アンドロギュヌスの影がある、その影が滲むように溶けだす

空間に溶けた影が塊になり、石板のような物に姿を変えた。

※※※

「はっ!。」と声を出して目が覚めた佐久間。「、、、警察および報道機関へのメッセージが送られてきました。指定されたURLには警察に対する犯行予告の動画がアップされており、事態を重く見た警視庁では警戒を強め、広く情報提供を呼びかけるとの事です。次のニュースです、、、。」と点けっぱなしのテレビに男性アナウンサーの冷静な顔が映る。その言葉に体が硬直した、思わずスマホを手にしコミュニティーに電話を掛けた。「犯行予告のニュースが心配で、、、。」「知らせてくれて、ありがとうございます。警察からも連絡があって注意をと言われました。」「警察から、、、少し安心しました。」「まぁ、報道されましたから少し大袈裟になったようですが、此処を特定した物でもありませんし、殺害予告のような事は良くあります、、、。それ以前に行政側は私達より、周囲への影響の方が重要なようですから、私達なりに注意するくらいしか手は無いのが現実ですね。それと、明日も来られるという話でしたが、暫くは念の為に控えられた方が良いかと。」という伴田の冷静さに対して慌てている自分が恥ずかしくなり、同時に行政や警察のレビス患者に対する姿勢に悔しさを感じた。「それよりも、佐久間さん、そろそろ検査では?。」と自分達よりも佐久間を心配する伴田、「私の事なんて気にしないでください。」「何をおっしゃってるんですか、凄く大事な事です。」と言う伴田の優しさが嬉しかった。


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