25:佑月の想い

3月2日 朝

病院のミーティングルーム

佑月と村上が居る、村上はニヤニヤし佑月を見ている、「聞いたよ、佐久間さん暴れたらしいじゃん。」笑いを堪えるように握った手を口に当てながら言う。「いや、違う、それは誤解で、私の診察っていうか患者への向き方に問題があったんだよ。」詮索されたく無い佑月は、少し虚勢を張るように背もたれに寄りかかりながら少し横柄に言った。「へぇ~そうなの?、でもさ、警備員が言ってたよ、大騒ぎだって。マズいなぁ~保健センターに報告事案だよ。」とテーブルの上で両手を遊ばせながら言う、いつもの悪ふざけの村上。佑月は焦りや不快感の混じった表情になり「本当に違うから。」と少し身を乗り出した。首をすくめ上目遣いに佑月の顔を覗き込みながら、「もしかして、ゾンビ庇ってんの?。」と今にも笑い出しそうな村上、「いや、、、。」押し殺すように村上に言いながら不快感を隠せない、鈍い村上も流石に佑月のイラつきを感じ黙り込んだ。村上は佑月から視線を外し空気を変えようと「咲真教授の事、まだ引きずってんの?。」と言うと佑月には逆効果で不快感が溢れた、「うるさいな!教授の事は関係ないし、そもそも、なんでそんな昔の話言う訳?、それに佐久間さんは悪くない!それよりアンタの差別発言がイライラすんのよ!。」バン!とテーブルを村上の代わりに打つ。村上は焦りながら「いやいや、わるかったよ、ごめんごめん、、、。」と変な笑い顔になる。「悪かった、悪かった、、、じゃな、、、。」と村上は宥めるように、ミーティングルームを出る。廊下に出てミーティングルームの様子を伺いながら、「なんだよ生理かよ、女は医者にむかねーな。」と小声で毒づき速足で歩く。ミーティングルームの佑月は、スマホを取り出し(今夜、逢いたい。)とメッセージを打った。


佐久間の部屋

女性アナウンサー「今日のレビスからのアールイー者数は東京で193人、全国で998人になりました。」ペットボトルの水を飲み干す、浅い溜息と呼吸、厚いカーテンの隙間から漏れる日差しを見ると憂鬱な気分になる。(佑月先生に悪い事したな、、、あっ買わないと、、、。)と床に転がるPCの残骸を見ている。ここ数日での出来事の破片が脳内の視界を交錯し始める、交錯するスピードと破片はどんどん増え、その破片を交わそうとする内に酔ったような状態になり、座っている事すら出来なくなる。フラフラと揺れる体を支えようと手を着くと李白の本があった。気づいた手はそのまま本を取ると膝の上に乗せ、表紙に両手を重ねる。背もたれにのけぞると、コミュニティーと伴田を思い出そうと目を閉じる、コミュニティーの庭が思い浮かんだ。そのままそこに居ようと意識を集中している内に夢うつつの状態になり、ミケランジェロの絵画のような神聖で美しい姿のアンドロギュヌスが見える。音が聞こえる、いつもの音だ、、、ゴッ、、、ゴッ、、、ゴッ、、、鈍い振動(ごめん、ごめん、、、)止まらないゴッ、、、ゴツ、ゴツ(許して、、、)

ドロっとした感触と温い粘る臭い(わかってんだろ)(大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、)

背中に手が周り体が浮く体がフワっとして、視界が青くなる(飛んでる?)

アンドロギュヌスが悠然と空を舞っている、その手が私の手を包む

飛んでいる町が見える、通りを行く懐かしい思い出が映画のように流れる

目の前に噴水からキラキラとした水の中に光る水晶の結晶

ゴッ、、、意識がフワっとなった

全身にドンという衝撃ゴッ、、、ゴッ、、、

(ぃたねーんだぉ、ぇめー)

ゴッ、、、ゴッゴツ

ミシッ、鼻から温い血が溢れ、口に逆流し鉄臭い味がする

湯船に顔を付け鼻から湯が入って咽せるように、咳き込んだ。

ゲホッゲホッ、ゴッ、(きたねーははは!)ゲホッ、ゴッ、ゴッ、(おもしれー)

(舐めろよ、おい、舐めろ)

ゴッ、、、ゴッ、、、

(もういいかな、疲れたな)

ぼんやり遠くを見ると人が走ってくる

ぼんやり見ている

なんだか怒鳴り声とかが遠くで鳴っている

その人を見ているとハンモックで揺れている気分

ユーラユーラユーラユーラ

ギュン!って高く飛んだ!高い所から見下ろす。

(お前がやったのか?!)

(知るか)

その人の体が浮く、その姿はやがてアンドロギュヌスへと変わる

急に引き上げられる、どんどん引き上げられる

眩しい光で見えなくなる

声が聞こえる、なつかしいような声、でも何を言ってるかは分からない

アンドロギュヌスが大きな石の上に立っている

何かを言っている

そして物凄いスピードでこちらに向かって来る

(あ!)目を閉じると

顔に凄い風と羽根の感触

目を開くと、視界の上ギリギリの黒い影が

黒い影を遮るように羽根がいくつも舞っている

アンドロギュヌスの男女の顔は無言で飛び去る

その目から水滴が空中に飛散する。

※※※

ゆっくりと目を開いた、覚醒しているのか夢なのか、いつの間にか夢を見ていた。いつもの夢もアンドロギュヌスのイメージが美しく変容する事で、全く違う質感の夢になっていた。


新宿、ビジネスホテルの一室

「先に出て。」「はーい。」「あっ、タバコ一本頂戴。」「あれ、吸わないんじゃ、、、今日ちょっと激しかったし、何かあったの?。」「君に関係ないから。」「はーい。」とバックをさぐる「そのバックいい色だね、、、。」「これエトゥープって色なんですよ、ビンテージで最近のお気に入りです、、、あ、あった。」とタバコをサイドテーブルに置く田崎、「じゃぁね。」とキスしようとするが佑月は拒んだ。「はーい。じゃね、おやすみ!。」と人懐っこい顔で微笑んで田崎は部屋を出た。佑月はタバコを取り口元に向けるが「やっぱり止めよう、、、。」と小さく言うとタバコを箱に戻した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る