21:佐久間、恋人との別れ

2月25日 夜

佐久間の部屋

スマホがチカチカしている「あ。」声にならない音が口から漏れる。スマホを開く、知らないアカウントからだった。(スパム?。)と思いながらメッセージのサムネを見る『僕だ』と2文字に(えっ!。)と喜びが漏れる。『もう連絡しないでくれ、僕は普通に結婚する事にしたから、お互い迷惑にならないようにしよう。アドレスとか全部消してくれ。』と文字が並ぶ、「やっぱりなぁー、だと思ったよぉ~!。」と独りの部屋で大袈裟に声を上げた、「ふふ、ははは、はははは!。」なんだか可笑しくなり笑った、そのうち笑い声は泣き声に変わった、大きな声を出して泣いていた。声の大きさに自分で驚いた。感情の振れ幅が大き過ぎ疲れ黙り込んだ、テレビに見た事のある様な女性アイドルとお笑い芸人が楽しげに話している、ぼんやりテレビを眺めている。「、、、。」声にならない音が漏れ、慌ててスマホを探す。「はは、夢じゃないよね、、、。」パートナーからの別れの文字がスマホの画面に張り付いている。溜息を吐くとズキッと頭が痛んだ、グッと閉じた目を開きながら立ち上がりキッチンに行く、炭酸水を取り出そうと冷蔵庫のドアに手を掛けた時、視界の端に幾つもの安定剤の殻が散らばり、割れたワインのコルクが置かれたキッチンの調理台が見える。冷蔵庫に掛けた手はドアを開ける力が無く、そのままドアから離れ垂直にダラリと落ちた。喪失感や孤独感が目や口や耳から溢れ出しそうになる。(こんな時は無理にでも笑う方がいい、笑った顔の形にすれば脳が楽しいと感じる。)と何処かで聞いた記憶を引っ張り出して無理やり笑顔でソファに行きドサっと体を落とした。(嘘だな、楽しくなんないよ、、、。)とスマホのアシスタントに“自殺”と話し掛ける、“自殺防止についてのWebサイトが見つかりました。”と明るい声で言われた。スマホの時計は深夜2時を過ぎていた、(こんな時間でもやってるんだ、、、。)と表示されたサイトの電話番号をタップした。(何を話せばいいんだろう、、、でも、誰かと話したい。)何度かコールすると繋がった、少し緊張したが(申し訳ありません、只今電話が混雑しております。しばらく経ってからもう一度お掛け直しください。)余韻なくバッサリ切れプープーという音がスマホから流れる。何度掛けても人と話す事は出来ず、そんなにも自殺したいと思う人が居るのかと思うと少し気が楽になった、(他人の不幸で、気が楽になるサイコパスな俺。)「ははははー。」と笑いながら睡眠導入剤が入った袋に手を伸ばす。



2月26日 朝

佐久間の部屋

※夢を見た※

ゴッ、、、ゴッ、、、ゴッ、、、

鈍い振動

(ごめん、ごめん、、、)

止まらない

ゴッ、、、ゴツ、ゴツ

(許して、、、)

ドロっとした感触と温い粘る臭い

(わかってんだろ)

(大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、)

背中に手が周り体が浮く

体がフワっとして、視界が青くなる

(飛んでる?)

アンドロギュヌスの手が私の手を掴んでいる

飛んでいる

町が見える、通りを行く

(この間見つけた本買っとくか?、あ、でも急がないと)

(あ、新しいマンション出来たのか?前なんだっけ)

目の前に噴水

ゴッ、、、

意識がフワっとなった

全身にドンという衝撃

ゴッ、、、ゴッ、、、

(ぃたねーんだぉ、ぇめー)

ゴッ、、、ゴッゴツ

ミシッ、鼻から温い血が溢れ、口に逆流し鉄臭い味がする

湯船に顔を付け鼻から湯が入って咽せるように、咳き込んだ。

ゲホッゲホッ、ゴッ、(きたねーははは!)ゲホッ、ゴッ、ゴッ、(おもしれー)

(舐めろよ、おい、舐めろ)

ゴッ、、、ゴッ、、、

(もういいかな、疲れたな)

ぼんやり遠くを見ると人が走ってくる

ぼんやり見ている

なんだか怒鳴り声とかが遠くで鳴っている

その人を見ているとハンモックで揺れている気分

ユーラユーラユーラユーラ

ギュン!って高く飛んだ!高い所から見下ろす。

(お前がやったのか?!)

(知るか)

急に引き上げられる

どんどん引き上げられる

(ぎゃーぎゃーぎゃー)

(なんだ????)

アンドロギュヌスが大きな石の前で叫んでいる

(ぎゃーぎゃーぎゃー)

そして物凄いスピードでこちらに向かって来る

(あ!)目を閉じると

顔に凄い風と羽根の感触

目を開くと、視界の上ギリギリの黒い影が

黒い影を遮るように羽根がいくつも舞っている

アンドロギュヌスは、こちらに向け怒りの声を女の顔は嘆きの声を何度も何度も叫ぶ

何度も何度も、、、そして聞き取れ無かったが日本語のように聞こえた。

※※※

(いつもの夢か、、、。俺と彼は求め合う半身じゃなかったんだな、、、。)と半身を求め合うアンドロギュヌスの絵を思い浮かべ、失笑した。昨日のダメージが大きかったようで、夢に対する不安は弱かった。「はぁー、、、。」力無い欠伸をするとアルコール臭に目をグッと閉じた。ずっとうつ伏せで寝ていたようで、首や腰が固まっているように痛い。手を伸ばしスマホを取る、顔を上げると右目辺りはソファの跡で皮膚が埋め尽くされている。瞼が重い、ほやけた目で画像フォルダを開き、思い出を淡々を選択する。途中で迷ったり間違えたりしながら100枚以上の画像を削除した。メッセージやメールも同じように削除する。重く痛い身体を「うーーーっ。」と唸りながら起こし、シャワーに向かう。ジャーっとシャワーの栓を開き湯温が安定するまでの間に服を脱ぐ、湯気が立ち始めたバスルーム、肌に当たる湯はいつも通りの温度だが少し緩く感じる。「あーーーーー!。」っと叫んだ。顔を上げ、シャワーの湯を受けながら指の腹で唇を乱暴に擦る、嗚咽が漏れ涙は見えないが号泣している事が分かる、擦るのを止めると頭が落ちるように項垂れ、唇に触れていた指を見つめる。(炎症で汚い背中も大切に触れてくれた、、、。)と思い出しながら、精一杯、肩と腰から背中に手を伸ばし自分を抱きしめる。だんだんと指先に力が入り爪が食い込む、背中に流れる湯がピンクに滲んでは直ぐに消える。食い込んだ爪の力が抜け、腕がダラリと垂れると、力なくシャワーを止めバスルームから出た。拭いきれない水滴を床に落としながらリビングにノロノロと行く、テーブルのスマホを水滴が残る手で持つと削除したデータを復活させた。


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