22:ゾンビマップ
2月27日 昼
佐久間の部屋
パートナーのダメージを引きずり眠れない夜が過ぎ、朝を迎えた。復活させたメッセージのやり取りや画像を見ながら、(楽しかった事しか思い出さないかと思ったけど、案外そうでも無いな、、、。)と思ってみたり、そう思っては嫌な思い出も懐かしがったりと少し自分の情緒の不安定さを感じていた。気がつくと窓の外は夕陽が広がる。カタカタっとドアが鳴った。微かに足音のような音が続く、その音が不安を搔き立てる、手離せないスマホを片手に玄関に行く。ドア前に立つと、早い呼吸に気づき目を閉じて落ち着こうと自分を宥める。そしてドアスコープから様子を見るが、球体の狭い視界では周囲は分からない、恐る恐るドアを開ける。佐久間の部屋は突き当たりなので、ドアの開く側の空間が見えれば状況は分かるが誰も居ない。嫌な予感がし更にドアを開き半身を出す、ドアに真っ赤な文字で”ゾンビは巣に行け!“という文字とURLが書かれた紙がテープで貼られていた。佐久間の顔から力や感情が無くなる。ゆっくり紙を剥がしドアを閉め、2つのロックを掛けた。玄関に立ったまま持っていたスマホのブラウザにURLを打つ。‘’ZOMBIE-MAP‘’という無機質なサイトが表示された。瞬きも無くトロンとした目で‘’出没情報‘’というボタンをタップすると、郵便番号検索画面があった、何も考えず自宅の番号を入力すると一覧が開き‘’NEW‘’というマークがついた沢山のタイトルが並ぶ、一番上に‘’S‘’というタイトルがあり、直感的にタップした。別ウィンドウが開くと佐久間の氏名と住所があり、隠し撮りされた画像や動画がいくつも出て来た。‘’ゾンビハンター‘’、‘’第三の使徒‘’などのハンドルネームが佐久間の情報に侮蔑のコメントを付けて居る。佐久間は玄関に立ち尽くしたまま、指先以外はマネキンのように微動だにせず無表情なままで長い時間見続けた。
気が付くと部屋は暗く、街から来る夜景の灯がぼんやりと室内に影を落とす。ソファに深く沈んだ佐久間、スマホが蒼白く無表情な顔を浮かび上がらせている。窓から朝日が差し始めても、佐久間はスマホを眺めている、様々なスレッドも目の当たりにし、同じような扱いを受ける多くの現実を知った。また、誹謗する文字列が目からだんだん耳に、声になって脳の中で反響していた。中学生の頃に読んだキュルケゴールのタイトルを思い出した。(死に至る病か、、、。人生に絶望は何度でも来るんだ、乗り越えても来るのか、、、いや、今は生きてるから、あの時は絶望に至らなかったんだな、、、。)と乾いた目で空間を見つめている。ふと、ある人のシルエットを思い出す。(あの人が絶望から救ってくれた、、、。)口元だけ少し、ほんの少し笑った。
病院近くのカフェ
パラソルタイプの遠赤外線ヒーター、ビニールで覆われたテラス席。テーブルランタンの灯りで‘’滅び行く動物達‘’を開く佑月。(佐久間さんって、繊細な文章書くんだ。)と湯気が立つココアを口にしながらページを捲る。(凄く理論的な内容なんだけど、文体は柔らかくって、そうだ、咲真教授の文体に似てる、、、。)そんな事を思いながらも、佑月は著作から佐久間を知ろうと書かれた文字に触れていた。
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