16:カウンセラー佑月

病院

「はい、じゃ採血しますね。」無精髭でブルーのスクラブを着た村上がサイドテーブルの駆血帯を手にし言う。佐久間は頷きながら右腕を捲り差し出しながら「ちょっと相談したい事が。」と言うと、パッと腕から顔をこちらに向け「なんっす?。」と言いながら村上は駆血帯を巻く、「あ、親指インで。」と軽い調子で言いながら、村上は翼状針を刺す。「ストレスというか、近所の目が、、、。」不透明な濃度ある血が採血管を満たして行く、「あー、はいはい、メンタルケアの先生を紹介しましょうか?。」と言いながら、採血管をテンポ良く入れ替える、3本の赤い採血管。「メンタルケアって、精神病とかじゃないですよね?。」村上の様子にイラとし、反射的に反発したくなった。「違いますよ。ま、ぶっちゃけこの病気、差別的な目に合うんですよね。なんで専門のカウセリングを行う先生ですよ。」と患者の心情など感じるセンサーが壊れていそうな村上、佐久間が口ごもっていると村上がスマホを手にする。「あ、村上です。アールイーの方ですがストレスを感じてらっしゃって、少しお話しして欲しいんですが、時間ありますか?、、、、はい、、、、今日大丈夫ですか、ちょっと待ってくださいね。(佐久間に)この後どうですか?別棟なんですが、上の階から渡り廊下で行けますよ。」「、、、じゃあ、お願いします。」半ば強引である種の厄介払いか?と佐久間は思ったが、頼って見たくなった。「先生、じゃこれから行ってもらいます、お名前は佐久間さん、、、シリアルはA543-76529です、、、76、、、529、、、はい、ではお願いしま〜す!。」と語尾のテンションの高さにイラっとする佐久間、ギロっと目力ある視線を佐久間に向け「カウンセリングルーム3です!佑月先生、美人ですよー!。」とニヤニヤする村上。


佑月先生の診察室

渡り廊下を渡ると別館案内図というプレートでカウンセリングルーム3を探す。カウンセリングルームが7つあり、レビス患者のストレスの多さを感じた。ルーム3はフロアの奥にあり、本館より新しい様子の通路や設備を見ながらルーム3に向かう。

扉の前に‘’佑月佐恵子‘’と書かれたプレートがある、扉は曇りガラスで中の様子は分からない、扉の横に“ご用の方は”と書かれたボタンがあり、押すと中で短いフレーズが鳴る。「どうぞー。」と明るい女性の声。佐久間は少し緊張しながらドアを開ける。「はじめまして。」とデスクの向こうに女性が立ち上がり、笑顔で言う。村上が言うように美人である。セミロングの髪を後で束ね、目鼻立ちのハッキリした顔、本館の医師や看護師と違いメイクが少し濃い、服装も少し違う。「あ、佐久間です、よろしくお願いします。」「はい、お掛けください。」と佑月は椅子に向け手を差し出す、医師というより接客業のように見える。「向こうの診察室とは違うんですね、先生の服装も、、、。」と佐久間が室内を見回し、大きな背もたれとリクライニング機能がついた本革だろうか?の高級そうな椅子に座る、「椅子も全然違う、、、。」と佐久間が椅子の肘掛けを撫でながら言うと佑月が「カウンセリングは、患者さんがリラックス出来ないといけないので、、、。服もこれ一応白衣なんですよスーツスタイルになってますけど。」と自慢げに言う。佑月は椅子に座ると、「今、カルテ拝見してました。ちょっと待ってくださいね。」と器用に指でペンを回しながらディスプレイで佐久間のカルテを見ている。

「今日は定期診察だったんですね。少しストレスが溜まってるのかな?。良かったら話てみませんか?。」佑月の笑顔がやはり接客業に見える、佐久間は自身のライターという専門職にプライドがあるので、医師らしくない様子が少し気になる。「何を話していいのか、、、。」と佐久間が考えていると、佑月が「なんでもいいですよ。病気の不安とか、ここに来られる方の多くは退院してからの周囲の反応とか良くおっしゃいます。」とペンを回し言う。「アンドロギュヌスって、、、。」様子を伺うように佐久間は漏らすように言った、「はい?。」佐久間の小さな声が聞きとれず吉田が反応すると、「いえ、何でもないです。」と佐久間は話を逸らすと少し黙っていた。佑月の様子を少し気にしながら佐久間はゆっくりと話始めた、隣人の嫌味な様子、コンビニ店員や客の好機な目、そして話ている内に村上が言った“釈放”という言葉を思い出し「、、、って、医師までが釈放とかって、冗談にならないでしょ?」と話した。「それは、言い過ぎですね。村上先生って少しふざけるキャラで、悪気無いんですが、、、佐久間さんに気を許したというか信頼関係があるって思ったんでしょうね。」と寄り添う体だか、簡単に交わされた気がする。

「それにしても、、、」と佐久間がきりかえそうとすると、聞こえなかったのか佑月は遮るように「確かに度が過ぎてるかもですね、村上先生には注意しておきますね、すみません。」と強引に閉めた。佑月はまたカルテを見ると、ペンをクルッと一回転させると「佐久間さん、HSPってご存知ですか?。」と言う、佐久間は根拠は無いが無視されている、話しを逸らすと不快に感じた。「、、、感受性が強くっなるってヤツですか?。」と不快感を抑え答える佐久間。「良くご存知ですね!。佐久間さんが感染された病気には、一時的に脳の扁桃体に影響がでてHSPと同じような状態になる事もあるんです。」(良くご存じって、おれはライターだぞ、それ位知ってる。)とイラつくが「、、、はい。」とぶっきらぼう佐久間は答える。「私が担当した患者さんにも、同じような方も沢山いらっしゃいます。」笑顔でペンを回し佑月は言った。(、、、なんだ?、気遣いか?軽りぃーな。)と今にも口に出そうな佐久間。「もし今の状況の原因が感染由来の症状なら、一過性ですので改善されて行くと思います。」とディスプレイに目をやり、サラッと言う。(簡単に言うな、、、適当に言ってるんじゃないのか?)佑月の手の上でクルクル回るペンを見てだんだんとイライラしてくる。もうこれ以上は話したく無いと佐久間が思っていると、佑月はカタカタカタカタ、、、タンとキーボードを打つ、デスクの脇のプリンターが動き出す。「今日はここまでにしましょう、お薬出しますね。あと次回なんですが、、、。」と言いながら、プリンターから吐き出された処方箋を手にし「来週とかご都合は?。」と佑月が言う。(碌にカウンセリングせず、薬出すだけか?)と思いながらも、面倒なので次の予約をして診察室を出ていた。

しばらく佐久間が出て行ったドアを眺めると、少し顔が強張る佑月。デスクにあるスマホに目をやる、待ち受けには2人の少女が映っていた。小刻みな呼吸で廊下を行く佐久間、(時間の無駄だった、、、)(イラつくな)と思いながら、一階の薬局に処方箋を出す。処方を待つ間も苛立ちが治まらない、しばらく待たされ薬を貰い病院を出た。帰り道、佐久間は曲がった横断歩道の白いラインや、信号無視する自転車の主婦、排水溝に吸い殻を捨てるサラリーマンなどにイライラしながら、歩いていた。


病院の通路を歩く佑月の後ろから村上が声を掛ける。

「お疲れさまー、佐久間さんどうでした?。」とテンションの高い村上を少しウザいの来たと思いながら振り返り、心無い笑顔で佑月は話す。「一過性のHSPじゃないかな。ちょっと丁寧に見た方がいいかも。今日は挨拶程度にしたんだけど。」という佑月の言葉を半分も聞いていないような村上、「了解、相変わらず、診察ってか、処理が早いねー。さすがベルトコンベアー。」という村上に「うるさいな、それよりさぁ、また釈放とか言ったんでしょ?ダメだよ。」と苛立ちを見せる佑月。「釈放って意味がちげーんだよ。」と誤魔化そうと大げさに言う村上、「なに?。」と佑月は苛立ちを強める。「俺が、お前らゾンビから釈放、解放されたーって意味!ははは!。」と全く空気を読めていない冗談にならない冗談を言う村上。「サイアク、、、。」佑月は当て付けるように冷たく言うが、村上は全く気が付いていない、「それより、カルテにも書いてあった、傷痕は何?。」と村上に尋ねる佑月、「ん?傷?、あったっけ、、、。あっ手首のあたりに古いやつ?、火傷?の痕がちょっとあっただけ。そん位の珍しくないヤツ。よその病院の通院データに無かった?。」と軽い感じで応える村上、「履歴みたけど無くてさ、電子カルテ対応してないクリニックかな?。」「どっちにしても、今も影響あるようなモンじゃないっしょ!。じゃ、おつかれ!。」と佑月の事など気にかけず歩き出す村上。佑月は手にしていたタブレットを開き佐久間のカルテをタップする、(手首から背中、腰までのケロイド状の痕)とキャプションが付いた画像を開くと、その傷痕を沈痛な表情で見つめる佑月。


佐久間の部屋 夜

※夢を見た※

ゴッ、、、ゴッ、、、ゴッ、、、

鈍い振動

(ごめん、ごめん、、、)

止まらない

ゴッ、、、ゴツ、ゴツ

(許して、、、)

ドロっとした感触と温い粘る臭い

(わかってんだろ)

(大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、)

背中に手が周り体が浮く

体がフワっとして、視界が青くなる

(飛んでる?)

男女の頭部を持つアンドロギュヌス

その人の手が私の手を掴んでいる

飛んでいる

町が見える、通りを行く

(この間見つけた本買っとくか?、あ、でも急がないと)

(あ、新しいマンション出来たのか?前なんだっけ)

目の前に噴水

ゴッ、、、

意識がフワっとなった

全身にドンという衝撃

ゴッ、、、ゴッ、、、

(ぃたねーんだぉ、ぇめー)

ゴッ、、、ゴッゴツ

ミシッ、鼻から温い血が溢れ、口に逆流し鉄臭い味がする

湯船に顔を付け鼻から湯が入って咽せるように、咳き込んだ。

ゲホッゲホッ、ゴッ、(きたねーははは!)ゲホッ、ゴッ、ゴッ、(おもしれー)

(舐めろよ、おい、舐めろ)

ゴッ、、、ゴッ、、、

(もういいかな、疲れたな)

ぼんやり遠くを見ると人が走ってくる

ぼんやり見ている

なんだか怒鳴り声とかが遠くで鳴っている

その人を見ているとハンモックで揺れている気分

ユーラユーラユーラユーラ

ギュン!って高く飛んだ!高い所から見下ろす。

(お前がやったのか?!)

(知るか)

急に引き上げられる

どんどん引き上げられる

(ぎゃーぎゃーぎゃー)

(なんだ????)

アンドロギュヌスが大きな石の前で叫んでいる

(ぎゃーぎゃーぎゃー)

そして物凄いスピードでこちらに向かって来る

(あ!)目を閉じると

顔に凄い風と羽根の感触

目を開くと、視界の上ギリギリの黒い影が

黒い影を遮るように羽根がいくつも舞っている

アンドロギュヌスは泣き叫ぶように飛び去った。

※※※

「アンドロギュヌスだ、アンドロギュヌス、、、。」と呟き、また眠りに落ちた。

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