11:襲われた感染者

病院

「では、何もなければ、定例会を終わりますが、、、。」いかにも総務と言わんばかりのグレースーツに生真面目そうな総務部長 福本が皆に言うが反応はない、「では、今日はこれで、お疲れ様です。」と内心は呆れている福本が皆に言う、「はい。」「はい。」村上、佑月ら管理職の医師達、気のない返事をしバラバラと席を立ち始める。「皆さん、やる気が無いんだか、疲れてらっしゃるのか、、、。」ファイルを閉じホワイトボードを消しながら福本、「そうそう、佑月先生。また、レビス患者への事件があったそうです。」会議室の片付けを手伝う佑月に福本が言った。「え!、犯人逮捕されてませんでした?。」「いえ別の事件です、今朝警察から連絡ありまして、何度か殺害予告のメールを送られていたようで。」「襲われたんですか?。」「ええ、寝てるときに複数の人間が入ってきて、液体を掛けられたらしいんです、ま、酒だったようですけど。」「酷い、、、。」「で、ウチの患者じゃないか?って確認の連絡がありまして、調べたら佑月先生の前任の道枝先生が担当されてました。ま、それで全面的に協力しますと警察には伝えてありますので。」「わかりました。何かあれば私も協力しますので。」腰が低そうに見えて強情な福本に押し付けられたと佑月はバレないように溜息を吐く。「よろしくお願いします。それにしても、逮捕された奴ら以外にも居るんですね、、、。困ったなぁ、、、。」と言いながら福本は会議室を出た。



2月14日 昼

病院

役員会議室、医師の村上と総務部長 福本が居る。「お呼び立てして申し訳ありません。あの、申し訳ないのですがスマホ出してくださいませんか。」福本が言葉は穏やかではあるが村上に命令する。「え、なんですぅ?。エロサイトとか見てませんよ、はは!。」とふざけながら、スマホをテーブルに置く。「プライベートで使っている物もです。」と冷淡な福本。「あ、はいはい、、、。こっちはマジでエロサイト見てるんですけど、業務中には見てないですよぉ~。」ともう一台のスマホをテーブルに置いた。「別にスマホの中をチェックする訳じゃありません、ちょっと極秘の話ですので録音防止です、すみません。村上先生、患者の情報管理の責任者ですよね?。」「ええ。そうっすけど。」「単刀直入に申し上げます。昨日警察から連絡が来まして、先日逮捕されたレビス患者暴行事件の被疑者の自供を元に捜査を進めたところ、どうも病院の患者データが使われている可能性があると言われ、協力を要請されました。」「え?????。」「被害者のいくつかのデータがウチからしか得られないデータとの事なんですよ。」「いくつかって?。」「例えば、転居とかですね。」「引っ越しとかって、役所で調べればわかるんじゃないですか?。」「そうなんですが、いま電子カルテで役所と病院は繋がってるでしょ、引っ越した直後のデータを得るには行政除くと病院の可能性が高いという事なんです。警察の話では役所で不正取得された履歴もなく、すると順番的に病院を調査って訳なんです。ま、転居データだけでは無いんですけど。」「マジかぁ、、、。」「はい、そこでウチの情シスに患者データのダウンロードやプリントアウト履歴を調べて貰ったのですが、外部からハッキングされた形跡はなく、院内でも通常の診察から逸脱された利用の形跡もなく、考えられるのはプリントアウトされた物か通常の診察業務中にディスプレイに表示された物を写メとかメモしたとした考えられないんですよ。」「という事はウチの内部の人間が関わってるって事?。そんな事ないでしょ~、そんな写メとか面倒くさい事しますかね?。」「はい、なので警察には患者データの閲覧履歴やらログを提供しました。で、そこで伺いたいのですが、ここ半年位の間で変わった様子の局員はいませんか?。」「いや、急に言われても、、、。変わったつっても、人間ですし、プライベートはわかんないから、気分悪かったり調子悪い日もあるじゃないですか、、、。困ったな、、、。」「分かりました、もし何か思い当たる事あれば知らせてください。あと、くれぐれも、この件は捜査が終わるまで、村上さんだけに留めてください。」「あ、分かりました。」一礼し会議室を出た村上。(嘘だろ!ウチにヤバいのが居るって事かよ?マジか?、、、。)とイラつきながら廊下を歩くと、リボン付いた箱を両手で持つ田崎が見える。(バレンタインかよ、、、。なんで田崎が貰ってんの見て思い出すかな、、、。)と壁に片手を付いて、ガクっと首を落とした。


佐久間の部屋

カタカタ、、、カタ、、、カタカタカタカタ、、、とPC に向かう佐久間、レビスに関する取材レポを昨日から少し書き出した。伴田を含む10数名の感染者の話を思い出し整理している内に、差別について自分の考えが甘かった事を痛感させられた。虐げられた人々は自身に向けられた不条理をまずは耐える、やがてその不条理に耐えきれなくなり声を上げる、出した声は今まで関わらなかった人々にまで届くが、その人々から更なる不条理が向けられる。その不条理を向けるのは会ったことも無い見ず知らずの人達である。見ず知らずの人々からという事実は、世の中の全ての人々からという錯覚を起こし、その錯覚は考えられない程の孤独と最後は自分が悪かったという自己否定に陥れ、最悪の結果になる事も多い。ここで最も恐ろしいのは、その結果が他者からは最悪であるが、本人には最善であるという現実である。かつて女優の瀬野未羽が‘’死は希望‘’という言葉を残した気持ちが、取材を通して肌感覚で分かった。しかし、救いを見出したのも事実である。コミュニティーで出会った伴田を始めてとした住人達は、自分よりも他の住人を更には自分達を差別する人々さえも尊重しようとしているように思えた。それは利他性とも言え、ある意味では感染者達は人間の自然的本性が強い存在に思えた。「よし!。」と自分に気合を入れPCに向かいなおす。視線に入ったディスプレイの時計が2月14日だと気づき、(バレンタインか、、、。)と去年の今日を思い出した。


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